About me

“世界一周。それも、なぜ自転車で始めようと?

その問いに、私は未だに答えに困る。
それは、私自身にも何故なのか、分かっていないからだ。

自転車で世界一周を開始してもう2年が経つ。
これまでにアメリカ大陸とヨーロッパを4万キロ走ってきた。
それでも尚、答えが分からないでいる。

あえて答えを付けるとしたらこうだろうか。
“だって、面白そうじゃん?”

思い返してみてほしい。
人間、何かに打ち込む時の理由は、だいたいはそんな単純なものじゃないだろうか。
あなたが今熱中している趣味も、仕事も。
私にとっては、それが自転車旅行だっただけのことなのだ。

そんな単純な理由から始まった自転車世界一周はしかし、2年が経過した今も、その面白さで私を捕らえて離さない。

”汗臭くて、しんどい自転車旅行のなにが面白いの?”
そう思ったあなたは、もうその理由を知っている。
汗臭さとしんどさこそが、自転車旅行を最高に面白くさせる要素なのだから。

ゴツゴツとした大きな岩が転がる山道。
タイヤが埋まり、押してもびくともしない砂漠。
汗にまみれ、痛む体に鞭を打ち、「もう二度とこんな所来るか!」と、
悪態を付きながら進む。

そうした末に、山の頂上に辿り着く。砂漠の切れ目に辿り着く。
それまでの苦労から一転、ふっと爽やかな風が身体を吹き抜ける様な感覚を覚える。

その感覚は、達成感や幸福感、征服感が入り混じった物と言えるだろうか。

観光地を、点を打つ様に移動するバスや電車、飛行機での旅行。
自転車旅行は、その点に線を引いて行くような旅行だ。
バスや電車旅行では出会わなかったはずの人々や風景と、その線上で出会うことができる。

汗のべっとりした感覚。
足に残るペダルの重み。
砂埃の匂いや強風の発する音。

人々や風景と出会う前に感じたそれらすべてが、その出会いをより一層特別な物にしてくれる。
垢の様に脳にこびり付き、何時までも鮮明な記憶として残し続けてくれる。

その爽やかな感覚を、鮮明な記憶を求め続け、私は汗を流して自転車で世界を走り続ける。

2018年9月
沖野 直嗣