四万十川バイクラフト・その③〜四万十川下り編

ここまで天気に恵まれ、しまなみ海道と四国カルストを走ることができた。
しかしこの時、日本列島に台風が近付いていた。
ちょうど私が四万十川をパックラフトで下る予定の二日間、台風が四国と山陰を通過して北上する予報が、気象庁から発表されていた。

ただ、天気予報を見ると台風が通過する日は、晴れになっている。台風ルートがこれから逸れる公算が高いのか?
四万十川へ行くか、退くか。太郎川キャンプ場での夜、地図を片手に随分と考えたのだが、とりあえず予定通りに川へ行くことに。台風が直撃しても、最悪電車での輪行で避難する事ができる。

どちらにせよ、四万十川への移動日となるこの日は晴れなので、順調に進んでいく。
檮原からは、197号線と320号線を南西へと向かって走る。トンネルが非常に多いが、トレーラースタイルは横が出っ張らないため、避難通路を走ってトンネル内を安全に走行できる。

四万十川の支流沿いに、自転車を走らせる。
四万十川独特の風景と言える、沈下橋が多く見られるようになってきた。
普段の水量だとこうして姿を現して渡る事ができるが、増水時には川に沈む仕組みになっている。増水したとしても、無理なく水流を逃す作りになっているのだろう。

そして正午過ぎ、四万十川下りのスタート地点である江川崎に到着。
川幅広く、穏やかな四万十川が橋の下を流れている。

この日は四万十カヌーひろばキャンプ場にテントを張り、川下りは翌朝から始めることに。
心配なのは天気だが、一応予報だと台風はうまいこと四国だけを避けるルートになったようで、大荒れになることはなさそうだ。

キャンプ場にテントを張った後は暇なので、四万十川の少しだけ上流に自転車で行き、翌日の予行演習として川下りをすることに。
上流は少しだけ瀬があるが、自転車を積んでいても問題ない。むしろ瀬を越える時にかかる水飛沫が涼しくて心地いいくらいだ。
これくらい穏やかなら、翌日の本番も問題なく下ることができそうだ。

ちょっとだけ川を下り、キャンプ場に戻ってきた後は居酒屋に行き、四万十川の川の幸を堪能する。
鮎に沢海老、何か忘れたが魚の刺身…どれも美味しい。ここまで毎日晩御飯はインスタントラーメンだったので、久しぶりにまともな物を食べられた。

美しい風景を求めるのもいいが、しっかりとその土地の食を楽しむというのも、旅行の醍醐味だ。食文化というのは多少の変化や衰退はあれど、基本的な部分は何百年も変わらずに続いているはずで、しかもその歴史を自らの舌をもってして体験することができる。

翌日。
カヌーひろばのキャンプ場からそのまま川に入り、荷物と自転車を括り付ける。

古座川での初回バイクラフトでは、荷物と自転車をコックピットの座席に置いたことにより、浅瀬で石と重たい船底が擦れたことで、船底が裂けてしまった。
その失敗を活かし、今回は荷物と自転車は全て船体の外側に括り付けることとした。
固定はロープとゴムネットであり、固定方法としては不安が残るが、準備段階ではこれが最適解と判断し、今回はこれで挑むこととする。

そしていざ出航。
スタートして初っ端に瀬があり、そこで荷崩れを起こして荷物が川に沈仕掛けたが、それを越えれば終始穏やかな四万十川。
人も車も当然川にはおらず、あるのは己と自然のみ。
日常生活において、川の上から風景を見ることはないので、非日常感が凄い。まず、空が普段よりも高く感じる。そして広角レンズを通した写真の様に、見える風景が広く感じる。

見た目には穏やかだが水量が多く、流れがある。
パックラフトは漕がなくてもそれなりの速度で、たまに現れる沈下橋の下を潜り、進んでいく。
沈下橋のいくつかは現役で使われており、そこの上を歩く人がいると「舟に自転車積んでる…」と、驚きとも感嘆とも付かない言葉が飛んできて、それが照れ臭かったりする。

夕方前の3時頃、キャンプに良さそうな場所に上陸。
舟でしか来れない場所で、完璧なプライベートキャンプ場。
聞こえるのは川のせせらぎと、時々跳ねる魚が水面を叩く音。それと、夜になるとコオロギか何か虫の声。ただそれだけ。車のうるさい音も、生活音も何もない。

日が沈み、辺りから光が失せてきた頃、流木を集めて火を起こす。人間一人が生活する分には、このささやかな炎だけで十分だ。
夜の都会の目が眩むような電光から離れ、小さな炎の前に座り、その灯りで本を読む。最高の贅沢じゃないか。

翌朝。川下り最終日。
あれだけ天気の良かった前日が嘘のように、暗雲が立ち込めている。そして小雨が降っている。

この日は辛かった。
ゴールとなる四万十市で、川は海に合流する。そのためなのか、川の流れが停滞し始め、所によっては渦を巻いたり逆流したりしていて、一向に舟が進まない。必死にパドルを漕いで、なんとか進むといった体である。
雨も次第に勢いを増し、体はどんどんと冷えていく。

写真を撮る余裕もなく、黙々とパドルを漕ぐ。腕も肩もパンパンだ。
ゴールとなる赤い橋が見えた時は、「ようやくゴールだぁ…」と思わず本心が漏れた程、疲労困憊だった。

四万十川バイクラフト完走のご褒美として、四万十市特産の天然鰻と、鰹の刺身を食べる。美味い…どちらも私が知っている鰻と鰹ではない。脂の乗り方、旨味が本州で食べるものとは段違いだ。

こうして、第二回目バイクラフト四万十川編は、大成功のまま完遂させることができた。
やってみた感想としては、陸地は自転車、川はパックラフトと、人力で完遂させるこの旅行スタイルは、やはりロマンで溢れている。
豊かな緑と水源に溢れているのが日本という国の特色であり、それを存分に体験することができるのは、このスタイルだからこそであろう。

折り畳み自転車とトレーラーでの輪行にも、大きな手応えを感じた。
都市部を避け、景勝地のみを走る。自転車に優しくないこの国の道路計画だが、公共交通機関で輪行のしやすい両者は、今後の日本国内での自転車旅行に大きな変化を与えてくれるだろう。

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