新しい自転車旅行の形〜パックラフト+折り畳み自転車

全く予期していなかったコロナ禍での帰国。
帰国して数ヶ月は自主隔離や緊急事態宣言期間のため、全く家から出ずに過ごしていた。
それはそれで、本来インドア派の私には苦にならず、健康に気を使いながら家でできる趣味を堪能していた。
ただそれも、緊急事態宣言が解かれて徐々に外出自粛ムードも緩んできて、さすがに私も外で遊びたくなってきた。
せっかく日本にいるのだし、海外長期旅行中にはできない事に挑戦する事にした。
そこで購入したのが、パックラフト。
これは空気で膨らませて使用するゴムボートの様なもので、私のモデルは大人一人が乗れるサイズのもの。
ユーコン川をカヤックで川下りをした経験から、カヤックやカヌーに興味は持っていたのだが、どうしても家での保管場所に困る。
しかしパックラフトなら、収納サイズが非常にコンパクトなので、一般家庭でも全く気にならずに保管しておける。
重さは収納袋を入れて、3キロちょっとというところ。
私が購入したのはnortikという、ドイツ製のブランド。
パックラフト業界の中では比較的安価なので、入門機としてこれを選択した。
業界最大手のAlpakaraftの製品を、日本の正規代理店が何ヶ月も品切れさせているので、選択肢がこれしかない…というのも大きな理由だけれども。
Alpakaraftはnortikの二倍弱くらいの価格だけれど、収納サイズや重量がもっとコンパクトなので、値段に目を瞑れるなら前者を選んだほうがいいかもしれない。
購入後早速、近くの川で浮かべて遊んでみた。
車をゴール地点に置き、スタート地点までは電車で向かう。
バックパックにすっぽり入るので、パックラフトは公共交通機関でも移動可能なのがとても嬉しい。
同梱されていた専用のビニール製の袋で、パックラフトに空気を入れていく。
袋とパックラフトを接続させ、袋をバサバサと手で揺らして空気を入れて膨らませる。膨らんだら、袋を抱き込んでその空気をパックラフトへと押し出す仕組みだ。
慣れない内でも10分あれば、膨らませることができた。
膨らませたパックラフトは、ヒョイっと片手で持ち上げられるので、川岸へ持ち運ぶのも簡単だ。
水面にそっと置くと、その軽さそのままに静かに浮かぶ。大人一人乗れるサイズなのに、その軽さにギャップを覚え、変な感覚を受ける。
浮かべたパックラフトにいよいよ乗り込む。
ひっくり返らないか心配だったが、案外安定感はある。
スタート地点はほとんど流れがない。水面に浮かんだパックラフトは、パドルを一漕ぎすると、私を乗せてスーッと水面の上を滑る。
この時点で、非常に楽しい。そりゃそうだ。普段の生活で水面に浮かぶことなんてあり得ないことなのだから、これは非日常な行動な訳で、面白くないわけがない。
川の景色を、こんなにも低い姿勢から見ることも普段はあり得ないことで、やっている行動も見える景色も、とても新鮮だ。ここまでワクワクする遊びは、久しぶりのことだ。
流れの緩い所では流されるまま、パックラフトの上で寝そべってぼーっとする。
流れのある所ではちょっとしたスリルがあり、これがまた面白い。
2時間半ほど降って、もう川下りの魅力に取り憑かれてしまった。
このパックラフト、文化の源流はアラスカにあるらしい。道を開拓できない原野のアラスカにおいて、川は重要な交通インフラであり、カヌーやカヤックに荷物を満載させるのが、集落間の立派な交通手段なのだとか。
パックラフトの最大手Alpakaraftも、アラスカ発のアウトドアブランドで、”パッキングできるラフトボート”として名付けられたとのこと。
実はヨーロッパでは、パックラフト自転車と組み合わせた旅行スタイルが流行り出していて、その二つを組み合わせた”バイクラフト”という造語までできている。
元々荷物を満載して移動するのがメインの使い方だったのだから、自転車程度なら全然問題なく運搬できてしまうというわけだ。
私もパックラフトを購入した段階で、自転車と組み合わせて使う事を想定していた。
ただ、私に国内自転車旅行を躊躇させている事情がある。
日本の場合、景勝地の美しさや魅力は世界でも有数の物を持っており、自転車旅行を楽しめるポテンシャルも非常に高いと、私は思っている。
しかし、その景勝地へ向かう道中が、自転車旅行者にとって優しくない環境なのだ。
私は大阪の中核市に住んでいるが、そこから抜けるには酷い交通量と排ガスの中を走り切らなければならない。トラックも多いので、事故に遭う確率だって高い。
これが、私に二の足を踏ませている事情なのだ。
それを解決してくれるのが輪行のはずだが、電車やバスに自転車を載せるのも、日本では一苦労だ。
電車は輪行袋に入れればいいが、乗車率が高すぎて他の乗客から白い目で見られるし、迷惑にもなる。バスなんて自転車を載せてくれるバスは全体の1割程度しかないんではないだろうか。
この輪行さえ、もっと自転車に寛容になってくれれば、世界中のサイクリストが訪れる大人気国になるだろうに、非常にもったいない。
日本にはシマノという、世界に誇る自転車部品のメーカーがある。
高品質なそのパーツは世界中で愛されており、毎年アップグレードがなされ、世界の自転車の品質は日本発でどんどんと向上している。
それなのに、日本の道路事情は私が子どもの頃の20年前から、何も変わっていない。
精々が、申し訳ない程度に道路の隅に青色のラインを引いて自転車レーンにしたことぐらいだが、それだって路駐している車によって、全く機能していない。
少し前までは、「日本だってヨーロッパみたいに自転車道を整備すればいいんだ!」と思っていたが、それはあまりに夢物語な事に気づいた。多分、今後100年待っても無理だろう。
無い物ねだりをしても無駄だ。日本の環境で、自転車旅行を楽しむにはどうしたらいいだろうか。
それを考えている時に、ピーンときたのが折り畳み自転車だ。折り畳み自転車なら、バスだって受け入れている会社は多いし、電車への持ち込みもそこまで迷惑にはならないはずだ。
公共交通機関で都市圏さえ抜けられれば、景勝地だけを走って、帰りはまた公共交通機関で帰る。これが日本で最大限に自転車旅行を楽しむ最適解ではないだろうか。
それに、折り畳み自転車ならパックラフトへの積載も容易だろう。これだ、これしかない!
そしてこれを思いついて1週間後には、ショップで契約を交わし、その1週間後には納車にまで漕ぎ着けてしまった。
私が購入したのは、Brompton(ブロンプトン)。イギリス発のブランドで、折り畳み自転車界の雄というべき名機だ。
16インチ、内装と外装変速の組み合わせで6段変速のモデルを購入した。
ブロンプトンは安くない。というか、26インチのクロモリツーリング車が買えてしまうくらい高価だ。
当初はもっと安価な、別のブランドを購入するつもりだったのだが、ブロンプトンの折り畳み時のコンパクトさ、そして試乗した時に感じた走行性能の高さに惚れ込み、購入に至ったのだった。
漕ぎ出し、直線走行では重たい26インチツーリング車よりも、軽快だ。
この軽快さ故に、ブロンプトンは”走っていて楽しい”と感じる自転車だ。朝起きた時や仕事終わりに、”なんか自転車乗ってちょっと走りたいな”と思わせてくれる。
上り坂は流石に得意分野ではないが、問題なく乗ることができる。
私の抱いていた折り畳み自転車の”遅い、登らない”を、ブロンプトンは見事に覆してくれた。
折り畳んだサイズは非常に小さい。
重さのバランスもよく考えられているのだろう、サドルを持って持ち運ぶのだが、安定感があるし重みを腕に感じない。
これなら、輪行を組み合わせた短期旅行程度は、余裕で楽しむことができるだろう。
そして今回、私が拘ったのがサイクルトレーラーだ。
購入したのは、Burley社のTravoy2という製品。
ブロンプトンには、モデルによっては鞄を取り付けるキャリアが標準装備されている。
私のにも装備されていたのだが、これはオーダーした時に取り外してもらった。パックラフトに積載するためにできるだけ軽量化したいし、サイドバッグスタイルは荷物の数が増えるので、輪行時の移動に非常に疲れるのだ。
そこで、折り畳み自転車にも取り付けられ、輪行時はキャスターとして使えるようなサイクルトレーラーを探していた所、全くイメージ通りのものが見つかった。
それがTravoy2だったというわけだ。
積載量は27キロまで。短期旅行には十分な量だ。
自立してくれるので、キャスターとしても使える。
嬉しいのが、Trabvoy2自体も折り畳むことができる。
もし仮に公共交通機関への持ち込みが拒否されても、ブロンプトンとTrabvoy2を袋にさえ入れれば、一般荷物として持ち込むことができるだろう。
電車への持ち込みには、自転車は必ず全て袋に覆われている必要がある。
ブロンプトン用の輪行袋を購入しなければならないが、一応バックパックとブロンプトンを載せても、キャスターとして問題なく使えそうだ。
背負う必要がないので、輪行時の移動の身体的負担は随分と減らすことができるだろう。
ブロンプトンをパックラフトに載せてみた。
どうやって括り付けるのかに課題が残るが、サイズ的には問題ない。
電車で都市圏を抜け、日本の素晴らしい田舎を走り、気が向いたらパックラフトで川を下る。何ともロマンを感じる旅行スタイルじゃないか。
今からこれで旅行をするのが、楽しみで仕方ない。
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[…] 以前、バイクラフトという遊び方を当ブログで紹介した。 パックラフトという空気で膨らませるボートと、自転車を組み合わせた旅行スタイルが、バイクラフトと呼ばれている。 基本的に自転車で移動をし、川や湖では自転車や荷物をパックラフトに乗せて移動する…というものである。 […]