山岳の村・ステパンツミンダへ〜Stepantsmindaまで

Tbilisi~ Stepantsminda
11/6~11/7 (1091days)

蚤の市を観光する以外は、何もせずにダラーっと過ごすトビリシでの日々。
元々、満足するまでダラける…という目的で滞在しているのだが、それでもここまで何もしない日々が続くと、誰に対するわけでもなく罪悪感が湧いてくるもの。

そんな時、同宿のモーターサイクリスト・佐藤さんがバイクに乗って、山岳地帯であるカズベキに行くと言い出した。
カズベキとは山の名前(Wikiだとカズベク山になっているが、日本人旅行者は皆カズベキと言っているので、ここではカズベキと記載する)で、トビリシ近郊の観光地では非常に人気度が高い。今同宿している人達も、ほとんどの人が既に訪れたという。
行くには乗合タクシーを使う区間もあり、ある程度の人数でまとまって行く方が費用的に安くなるのだとか。

いつ行くの?と佐藤さんに聞くと、翌日にバイクで行くとの事で、こりゃ機会を逃してはならん!非常に厚かましくも「後に乗っけて連れて行って!」とお願いしてしまった。
ここで断れない辺りが、佐藤さんの人の良さ。ここでズケズケとお願いするのが、私の人の悪さ…といった所か。

ということで、翌日。
佐藤さんのバイクの後ろに乗せてもらい、トビリシを出発。
トビリシからカズベキ山の麓、ステパンツミンダ村までは約160キロ。
なお私はバイクの免許は持っていないので、運転は全て佐藤さん任せとなる。私が若い女の子だったら佐藤さんも運転しがいがあるだろうが、30歳を越えたおっさんで非常に申し訳ない。

トビリシ郊外から上りが始まり、ダム湖を横目に標高を上げていく。
一つ目の峠を越えた先の坂を下り切ると、湖畔に教会がある。
観光客が多く、我々もここでひと休憩し、教会を見学していく。
石組みの教会内部は暗い。宗教画や十字架などが設置された内部は写真撮影が禁止になっており、厳かな雰囲気が漂う。

湖畔の教会からは再び峠越え。
教会以降の峠越えは長く、標高も着々と高くなっていく。
谷は深くなり、それを形成する周りの山々も雪でお粧しをし始めた。

峠の途中にはスキー場とコテージ村がいくつかあり、その中を通る九十九折の道で何度もカーブを描いてバイクは峠を登っていく。
旅行用自転車で登る峠は単純に楽しいばかりではなく、自分の体力や精神力との勝負にもなってくるので、あまり言いたくないけれど辛さもある。
バイクは、エンジンでグイグイ登っていくので、峠を越える事それ自体が純粋に楽しい。景色の変化する速度も、当然自転車とは比べものにならない程速く、風景に飽きがこない。
(運転している佐藤さんは二人分の体重を支えなければならないので大変だろうが…)

峠が近くなると、道のすぐ脇にまで雪が積もる様に。視界のほとんどが白か青で、とても眩しい。
峠は標高2,300メートル。十字架がちょこんと鎮座している。
この標高で雪はかなり積もっているけれど、日差しが暖かく、寒さは感じない。

峠を越えた後は一気に降り、ステパンツミンダの村に到着。
四方を山に囲まれた、小さくも美しい村だ。

さて、このステパンツミンダには、有名なジョージア正教の教会がある。
その教会はステパンツミンダ郊外の丘の上にあり、村と山をバックにした教会は格好の写真スポットで、これがこの小さな集落を有名にしているのだ。

我々はステパンツミンダに到着したその足で、教会を目指した。

集落から教会までは約6キロ。
教会まではずっと上り坂だが、バイクなら全く問題ないだろう。
実際、ドッドッとお腹に響く力強いエンジン音を発しながら、バイクは順調に坂を攻略していく。

しかし残り2キロに満たない頃になって、道に雪が残る様になった。カーブの連続する道になったため、丘に隠れて陽の光が一日中当たらず、雪が溶けないのだ。

はじめこそ薄ら道を白く染める程度だった雪が、徐々に深くなり、ついにはガッチガチに凍りついたアイスバーン状態になった。
これはちょっとヤバイんじゃない?と思い始めた頃。

スッテーン。

バイクはタイヤを取られ、呆気なく横倒しになった。
何が起きたのか分からず、一瞬ボケッとしてしまったのだが、佐藤さんに「大丈夫ですか?」と声を掛けられてハッとする。体は無事に動くので、怪我はしていない。
立ち上がろうとすると、道はスケートリンクの様になっていて、屈み込んだ姿勢のまま坂の下へと滑って行ってしまう。

なんとか四つん這いで佐藤さんとバイクのもとへ辿り着き、二人でバイクを起こそうと必死になっていると、坂の上から一台、乗用車がやってきた。これはまずい、今我々とバイクは、道の真ん中にいる。
車もまずいと思ったのだろう、ブレーキを掛けたのだろうが、これがもっとまずかった。車のタイヤはチェーンを巻いておらず、スタッドレスでもないらしく、タイヤは動いてないのにツルツルと滑って、コントロールを失って我々に向かってくるではないか。

「うわわわっ!ヤバイヤバイ!」
「取り敢えずバイクを脇に寄せましょう!」
佐藤さんとバイクを引き摺り、なんとか道の脇へと避難することができた。

なんとか危機は切り抜けたものの、これ以上先へ進むのが無理なことは明らかだった。
教会を目前にリタイヤし、来た道を引き返す。

僕は一度の転倒ですっかり怖くなり、バイクに乗らずにゆっくりと歩いて下ることに。
佐藤さんはバイクに乗ってゆっくり下っていくのだけれど、何度も何度も転んでいた。それを背後から見守り、本当に申し訳なくなった。一人で身軽だったなら、転倒しなかっただろうに…

なんとかステパンツミンダまで戻り、すっかり意気消沈した我々は、ゲストハウスに投宿することに。順調に観光できたら日帰りで帰る予定だったのだが、とてもじゃないが今からトビリシに帰ることはできなかったのだ。

落ち込んだ気分を少しでも和らげるために、レストランでビールと温かい食事を食べる。こんな時でも、ジョージアの料理は美味しい。
美味しい食事とビールがあると、気分は自然上がってくるもので、少なかった口数も徐々に増えてくる。

ビールを飲みながら佐藤さんが、「明日、バイク無しで歩いて教会まで行ってみますか?」と言った。
連れてきてもらった上に転倒までさせてしまった私としては、佐藤さんがこう言ってくれることに、救われた思いがする。

「よし、明日教会まで行きましょう!」

レストランを出る頃にはすっかり陽が落ちて、ステパンツミンダは美しい月夜に包まれていた。

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