風にうたえば〜Beynewまで

Yelabad北西130km~Beynew
10/14~10/17 (1068~1071days)

10/14
思わぬ連泊となったチャイハネでの二日間だったが、色々良くしてもらったおかげで悪くない時間だった。

チャイハネを出てみると今朝は晴れており、しかも追い風が吹いており、ホッとする。今日は無事に出発できる。

チャイハネで朝食にサモサとチャイを注文する。
これでウズベキスタン通貨は全て使い切った。
カザフスタンに入るまで、すかんぴんのフーテン野郎だ。

お世話になったチャイハネの女将に挨拶をし、8時前に出発する。
夜明けまもなく、自分の背後にある太陽はまだ低い位置にあり、道にできた自分の影が長い。

時々横風になるが緩い追い風が吹いていて、今日は楽ができるぞ!
それも最初の10キロだけ。道はその風が吹いてくる方にググッとカーブを描き、向かい風を真正面に受けながら走ることに。
おいはもう己を曲げんけんね!と頑固な九州男児よろしく、道はそれ以降ずっと一本道が続いた。
あのなぁおめーよぉふざけんじゃないヨォと文句を垂れながら、仕方なしに進んでいく。

一匹のラクダが道の近くを歩いていた。
その顔は、風に悪戦苦闘をする私を見てニンマリしているように見える。コンニャロウ…
しかしどうもラクダの歩き方がおかしく、ハテと思い足を見てみると、前足が鎖で繋がれているではないか。
どうやら飼い主が遠くに逃げない様にしたものであるらしい。
もう一度ラクダの顔を見てみると、それでもニンマリしているように見える。それがどうも泣き笑いしているようで、可哀想になってきた。

風はますます強くなり、南米のパタゴニアの暴風を思い出させるくらい猛烈になってきた。
この風がどれだけ大変で私を苦しめるのか、読者には文章で伝わらないのが悔しい。
敢えて風を文章で表すなら「ブワォボボボボボボッツボボボーワブブブボボフッヒューーー………バッ!バババババッッッ!」というどでかい音を鳴らして、ずーーーっと体にぶち当たってくる。
時々止んだかとこちらに思わせておいて、緩急を付けてバババババッ!とやってくるのが奴等の手なのだ。

あんまり風がうるさいので、こちらもプッツーンと切れてしまった。
おうし、そっちがその気ならやったろうじゃん。
風に負けじと、私も声を張り上げて歌ってやることにした。

“ヒュー… たまにはこうして肩を並べて飲んで
ほんの少し ババッ! ち止まってみたいドヒュヒュー!”

“純情を絵 ボウボウボウ!うな散々虚しい夜も
バタバタバタビュンビュン! せる今夜はいいね ヒュールルル…”

“バッ! ババッ! HEY 時には起こせよボボボワーッッッッ!”

…負けを認め、標識にもたれふて腐れて昼食を食べる敗者の図。

その後も延々と続く砂漠と猛烈風の、糞ツマラネェくせにでかい顔しやがる奴等にたっぷり苛め抜かれた。

日没直前、ヘトヘトになって砂漠に自転車を乗り入れる。
身を隠す遮蔽物が何もないので、夜中の内に車のライトが当たらない所まで進み、砂漠のど真ん中にテントを張る。

晩ご飯はスパイス乱れ掛けヤケクソ何クソカレーライス。
せめてもの仕返しに、カレー食ってたっぷり臭くなった糞を砂漠にしてやるんだ。

ビュンビュンバタバタバタとテントを喧しく揺する風に、
うるせこのヤロ寝れねぇぞー我々は断固抗議するぞーと、テントの天井に怒りの拳を突き上げてシュプレヒコールを上げる。
その内その猛風にも慣れてしまい、それを子守唄に寝てしまった。

ブワンブワンバタバタバタボウボウ…

10/15
風に揺すられるテントの音に、目が覚めた。
やれやれ、今日もまた苛められるのか…

しかし走り始めてみると意外や意外、この日は緩い横風ないしは追い風。砂漠の風は気分屋らしい。

しかしこの日は路面状態が酷く、思春期に入り真っ赤なニキビをたっぷりこさえた少年の顔面のように凸凹だ。
トラック、車がスピードを緩め、蛇行してその穴を避けていく。
こういう時、小回りの効く自転車は有利で、スピードを緩めることなく穴をスイスイ回避して進んでいく。

そんな調子で悪路を進んでいると、自転車からゴリッという異音がし出すようになった。
何だろう、ボトムブラケットか、ハブ付近から聞こえる気がする。
勘弁してくれよ、こんな砂漠でトラブルに遭っても何もできないよ。
異音は聞こえない振りして現実逃避、先へ進む。

やっぱりニヤニヤしてる様に見えるラクダ。

この日80キロ走り、カザフスタンとの国境に到着。
ウズベキスタンの出国処理は、X線での荷物チェックだけであっさり終了。

続いてのカザフスタン入国はやけに時間が掛かった。
入国カードを記入して、それを入国審査官に提出すると、こちらをジロジロ見てくる。
私の後ろに行列ができているのも構わず、電話を掛けだした。
どうやら彼の上司に電話して、何やら相談しているようだ。

一旦電話を終え、”ちょっと待ってろ”と、そのまま気まずい時間が流れる。その間に私の後ろの行列を捌くこともなく、行列はどんどん長くなっている。

10分ほど待った後電話が掛かってきて、許可が降りたのかスタンプが押され、晴れてカザフスタン入国となった。
やれやれ、入国拒否される覚えもないのだが、流石にヒヤヒヤした。

カザフスタン側はやけにゴミが多い。
真っ平な砂漠だけに、そうしたゴミはとても目立つ。

ラクダも多い。
糞を避けて走るのに、全神経を集中させる。
マリオカートでだって、コースにこんな数のトラップないよ。

日没せまり、糞を見分けるのも大変になってきたので砂漠に突っ込んで野宿。

10/16

1,000キロに及ぶ砂漠地帯の中間地点であるベイネウの町には、この日着く予定。
そこで一泊休養を入れて、スタン系国家脱出のラストパートを掛けるつもりでいる。

食料もベイネウで買えるので、昼食は余ったコーンフレークを全部食べてやった。
意外と量が余っており、コーンフレークで腹が溜まってしまった。

今日も自転車からギッギッと音が聞こえる。
どうも自転車を横に揺すると音が鳴るようだ。
自転車を降りて隈なく確認すると、なんとリアキャリアが折れているではないか!

フロントキャリアは何度も折れたことがあるが、リアの方はこれまでの4年間で折れたことはなく、これが初めてだ。
構造的にも折れることはないと思っていたので、この断裂は結構衝撃的だ。
10リットルの水を運んでおり、その内6リットルくらいは自転車の後ろ側に積んでいたので負担がかかり、この悪路がトドメとなったのだろう。

ベイネウに自動車工場くらいあるだろうから、溶接で修理できるはずだ。
キャリア折れは後進国でも修理できるトラブルなので、見た目は派手だが深刻なダメージにはならない。
むしろパーツ交換が必要な故障じゃなくて、本当に良かった。

ベイネウに近付くにつれ、列車や工場を見かけるようになり、人間社会に戻ってきた事を実感する。

14時半、ベイネウに到着。
何軒かホテルがあり、その内の一軒に投宿。
一泊5,000テンゲ(1,250円)で、予定どおり2泊する。

チェックインの段階で無一文で、「これでATMが動かなかったらどうしよう…」と不安だったのだが、無事にお金を下ろすことができて一安心。
お金を手にすると一気に気が大きくなり、何でも買える気になってくる。
まぁ、こんな砂漠のど真ん中でできる贅沢など何もないのだけれど…。

8日ぶりのシャワーを浴び、汗砂まみれ臭臭サイクリストから真人間に戻り、早速自動車工場を探す。

ロシア語で溶接は”スヴァルカ”という。
それっぽい工場に突っ込んでは、「スヴァルカ、スヴァルカ」と言うものの、中々溶接ができる工場が見つからない。
聞き込み調査の結果、ようやく一軒の工場に辿り着き、「スヴァルカ」とお願いすると、10分も掛からない内に作業完了。
お題は1,000テンゲ(250円)。
やれやれ、これでまた無事に走ることができる。

ホテルの帰りにチャイハネで夕食を食べようと思ったのだが、ベイネウには何故かファストフード店しかない。
仕方なくその内の一軒に入ると、メニューがドネルケバブしかないという。
ケバブは日本でもお馴染みのトルコ料理で、ドネルはケバブをロール状に巻いたものである。
大きめの都市だとケバブ屋台があったが、こんな辺境の地にまでトルコ料理が出てきたのは初めてのことで、いよいよ中東文化圏が近付いてきた事を実感する。

いよいよ中央アジアも後半戦。
風を貫き砂漠をぶっ飛ばし、目指すはカスピ海!

(走行ルート:Yelabad北西130km→Yelabad北西210km→カザフスタン国境北西20km→Beynew)

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