苦いデビュー〜Dushanbe北65kmまで

Dushanbe~Dushanbe北65km
9/23 (1047days)
結局ドゥシャンベに滞在した五日間は、ただひたすらに自炊をして、食いたいものを食い、飲みたい酒を飲むだけだった。
ただ、食欲の求めるままに好きな食べ物・酒を煽るというのは、普段の自転車旅行中にはできないのであり、ある意味最も身体と心が欲している事かもしれない。
毎日毎日、「あ、今日はこれ食べたいな。明日の晩はこれにしようかな」というインスピレーションが次々と湧いてくる。
佐藤さんという、一緒にご飯を食べてくれる存在も大きかっただろう。
お陰で自転車走行から離れて、随分とリフレッシュすることができた。
正直まだまだ食べたい物はあったのだが、タジキスタンの滞在日数にも限りがある。
ビザ自体は45日間の滞在日数が与えられているのだが、その内30日間しか滞在できず、超過する場合は滞在登録をしなければならない…という情報が、ネット上で散見される。
この日はタジキスタン滞在29日目。
正直距離的に、国境まで30日目には到着できないのだが。
このグリーンハウスホステルには世界各国からサイクリストが集まる関係で、最新の情報を交換することができる。
その内の一人から、「俺の知り合いがタジキスタンを自転車で走って、マックス45日間滞在したけど、何の問題もなかったぞ」という情報を得ていたので、まぁ心配はしていない。
それでも秋に入り、これから冬を迎えることを考えると、早く暖かい場所まで行かなければならない。
そういう訳で、名残惜しいがドゥシャンベを出発する。
佐藤さんはまだバイクの修理が終わっていないので、もうしばらく滞在していくとのこと。
もしかしたら、また縁があってどこかで会えるかもしれない。
がっちり握手して、お互いの旅行の安全を願い、ゲートを潜って宿を後にする。
ドゥシャンベは首都ではあるが、車通りも少ない。
これは自転車旅行者にはありがたいことで、大抵どの国の首都もえげつない交通量と人の多さで辟易としてしまい、それが理由で首都を避けることもある。
ドゥシャンベの一番大きな道路には街路樹が並び、ここが首都と感じさせない落ち着いた雰囲気が漂う。
ドゥシャンベから20キロも走ると、緑はめっきりと姿を消し、パミールやワハーンの様に灰色の荒涼とした大地が広がる。
暑くてガンガン水が減っていくが、浄水器さえあれば滝が時々現れるので、水の補充は難しくない。
川は水質はパッと見綺麗そうだけれど、家畜の糞で汚染されているかもしれないので、補充の際は慎重にならないといけない。
途中、カフェ兼お土産屋で数珠みないな物が売っているなと思い、よく見たら木の実か豆どちらか分からないが、食べ物だった。
流石に量が多すぎて買えないけれど、これがタジキスタン人にとっての午後のおやつ的な存在なのだろうか。
この日走ること50キロ、トンネルが現れた。
ドゥシャンベからウズベキスタンの国境へは、二つルートがある。
一つは国境まで65キロ、もう一つは国境まで230キロ。
私が走っているルートは後者の方で、峠越えと多数のトンネルが待ち構えており、しかも峠にある最後のトンネルは自転車は走行不可ときている。
それでもほとんどのサイクリストが後者のルートを選ぶのは、ウズベキスタンのサマルカンドの最寄り国境が、後者だから。
前者のルートは国境までは近いけれど、ウズベキスタンに入国後、アフガニスタン国境付近まで南下させられるため、結果的にサマルカンドまで遠回りになる。
自転車不可のトンネルはトラックをヒッチハイクして越えるのが正攻法らしく、’簡単に捕まるから心配しなくて大丈夫’とは、グリーンハウスホステルで出会ったサイクリスト達の弁。
トンネルは数こそ多いもののそれぞれが短く、自転車は外側を通ることができるので、危険は回避することができる。
そんな感じで快調に進めていたのだが、夕方に差し掛かり、この日の走行終了も見え始めた頃、路肩のないトンネルが現れた。
トンネルの終わりは見えず、かなり長そうだ。
他のサイクリストはここもヒッチハイクするのか?
長考した結果、トンネル内の路肩を歩いて進むことに。
路肩は自転車一台分の幅は確保されており、長い時間排気ガスを吸う羽目にはなるが、一応安全に進むことはできる。
距離にして1.4キロ、20分程歩いただろうか。
なんとかトンネルを抜けることができたものの、外はもうすっかり夕暮れに。
ドゥシャンベから徐々に標高を上げていたのだが、この先もどうやら緩やかに登りが続く様だ。
トンネルを抜けてすぐ、カフェがあった。
今夜はその近くでテントを張らせてもらおうとしたのだが、生憎閉店している。
カフェの周辺には二軒の家がある他、土砂の積み立て地となっているのかトラックが数台停まっている。
運転手が数人外に出て話しているので、声を掛けてみる。
「この辺でテントを張っても問題無い?」と聞くと、’あぁ問題無いよ。その家の人に聞いてみな’との事で、家へと向かう。
ちょうど家の人達が外に出てきていたので、テントを張らせてもらいたい旨を伝えると、快諾してくれ、川沿いのスペースを充てがってくれた。
おぉ、川沿いということは、早速ドゥシャンベで買った釣竿が試せるじゃないか!
川は灰色の汚い川だけど、ルアーを投げる練習にはなるだろう。
テントを設営した後は、ご飯を作る事もせずに釣竿とルアーの準備をせっせとする。
ルアーがセットできたところで、記念すべき一投目!
それっ!とロッドをしならせて投げたのだが、ルアーは2メートルも飛ばないで頼りなく着水した。
あ、あれ?想像してたのと違う…
投げ方が違うのかな?もう一度試してみよう…
リールを巻いてルアーを回収しようとしたのだが、ある程度の所でハンドルが急に固定されてしまった。
なんだ?と思い、リールに目を向けてみると、釣り糸がグシャグシャに絡まり合ってるではないか。
なんじゃこりゃ!?
釣り糸を必死に解き、ようやく終わったときにはもうすっかり暗くなってしまった。
(走行ルート:Dushanbe→Dushanbe北65km)