とびきり甘いカクテルを〜Abigarmまで

Qal kai Khumb北西115km~Abigarm
9/16 (1040days)

早朝。
テントの外が騒がしくて目を覚ます。
何事だろうと、テントを開けて外に顔を出す。

道を埋め尽くす羊、羊、羊。
後続は遥か先まで続いているようで、終わりが見えない。
彼等が巻き起こす砂埃によって視界は白く濁り、ドドドっという音が全ての音をかき消してしまう。
その様、まさに荒れ狂う波の如く。

羊の群れにロバが数匹混ざって歩いている。
どのロバにも荷物が括り付けられている。
これが馬とか牛だと特に何も思わないのだけれど、ロバだと可愛そうと思うのは何でだろうな。
ロバはどこかもの悲しい表情をしている様に見えるからだろうか。

この日も昨日に引き続き、川沿いに進んでいく。
しかし昨日とは違ってアップダウンの連続で、一つ一つの起伏が大きいためかなりしんどい。

この辺りの土壌は赤土で、粉っぽい。
少し走っただけで自転車も足も、夕日に照らされた様に真っ赤になってしまった。
匂いもきつく、体育館にある分厚いマットレスそっくりで、埃っぽい。

走ること22キロ。
タジキスタンの首都・ドゥシャンベと、キルギスタン第二の都市・オシュを結ぶメイン国道に合流する分岐に到達。

分岐からは即、質の良いアスファルト舗装となった。
久しぶりに走る、凸凹もヒビもないアスファルトを走ることの、なんと気持ち良いことか。

少しペダルを漕ぐだけで滑るように進む自転車。
車輪が回転するシャーっという心地よい音。

未舗装路からアスファルトに戻ってくる時は、いつもこの二つに感動を覚えるのだが、アスファルトから離れている期間が長いほど、その感動は大きくなる。

これは、久しぶりに飲むビールを格別に美味いと感じる現象に、酷似している。
グラスに注ぐ時のシュワーっと泡が弾ける心地よい音と、喉通る爽やかな炭酸の刺激。
ほのかに苦い黄金の液体は、あっという間、グラスから消えて無くなる。

カーッ!ビールってこんなに美味かったっけ!?
それと一緒。
カーッ!自転車ってこんなにスムーズに動くっけ!?


9%の登り?
アスファルトならいくらでも登ったる!注がんかい注がんかい!

…と、最初はそんな意気揚々だったのだが、分岐以降のアップダウンのまぁきついこと。
大きな川沿いには進んでいくのだけれど、道は山肌に作られており、長い坂を登って、また長い下りを降りて…

なぜ川沿いに、平坦な道を通さないのだろう?
今の時期は水量は少ないけれど、雨季にはもっと増水するのだろうか?

さすがにメイン国道沿いにはいくつも集落が点在しており、その都度学校帰りの子ども達が ‘Where are you from!?’ ‘What’s your name!?’と声を掛けてくる。
疲れている時は非常にイライラしているので、正直なところ、この半を押した様な質問にもイラッとしてしまう。
あまり相手もしたくないので、「ヤポンスキーだ(日本人)」とだけ答えて、後は黙々と進む。

でも、登り坂だと歩く彼等の方が速いので、着いてきてしまう。
登りがあまり長く続くので、バス停で小休止をしようと止まったら、彼等までそこで止まってしまった。

私のロシア語だと自己紹介くらいしかできないので、それを終えると何も語れることがない。無言の時間が続く。
休憩しつつ、鞄からフルーツの砂糖漬けを取り出し、口に放り込む。
その姿を、じーっと見つめる少年たち。

やはりその視線が気になるので、フルーツの袋を差し出し、「食うか?」とジェスチャーを送る。
少年たちはニカっと笑い、次々とフルーツを口に放り込む。

次に袋に目をやった時には、フルーツは全て消えて無くなっていた。
こんにゃろう共。

でも、タジキスタンの子供たちの純粋さは、憎めないんだよなぁ。

小休止したバス停を過ぎた辺りからようやく下りが始り、下りきってからまた長い登りに…
本当、なんでこんな道の造りにしてるんだろう。

アスファルトをビールに例えたけれど、こんな苦味(登り)の多いビールは好きじゃ無いんで。
ちょっと甘め(下り坂)のカクテルください。

所望通り下り坂になったのだが、下りきった所から、また山肌に沿って道が登っていくのが見えた。
しかもこの登りが、ぱっと見る限りも分かるほど、エグい角度をしている。

ちょっとこれは骨が折れそうなので、ちょうど登りが始まる手前にあったカフェで休憩をしていく。

そういえば、タジキスタンは子どもは元気いっぱいに声を掛けてくるけど、大人は比較的落ち着いていて、声を掛けてこない事が多い。
声を掛けてきたとしても非常にもの静かで、紳士的な人が多い。

カフェには基本的に大人しかいないので、今回の小休止は静かなもの。

小休止を挟み万全を喫しての登り開始だったが、やはり滅茶苦茶にキツイ。
斜度は10%で、しかも途中から未舗装路になってしまった。

なぜ一番キツイ斜度の登り坂が、未舗装路になっている!?
この斜度と悪路だと、車だって最悪スタックしてしまう恐れがあるわけで、最優先で舗装工事をすべきだと思うのだが。

いやー、キツイ。
好きでもない焼酎を、無理やり飲まされている気分だ。
勝手にグラスに注がれて、一口飲んでみたけど全然美味しくなくて、「うわぁ、まだグラスになみなみとあるよ…」という、終わりの見えない絶望感。
この登り、いつ終わるんだ…

読者の方お忘れだと思いますがこの道、タジキスタンの首都に通じるメイン国道です。
しかも、その首都とキルギス第二の都市を結ぶ両国の大動脈であり、日本でいうなら東京大阪を結ぶ東名・名神高速道路に等しい道なわけである。

それがこの有様。酷い路面状況と、無駄に山肌に通される道。
タジキスタンの国土交通大臣の罷免を請求したい。

このキツイ登りも何とか走り切り、川を見下ろす展望の良い所に出てきた。

川の展望から下り、またアスファルト舗装に戻ってくれたのだが、その後もアップダウンが延々と続く。
この日の累計標高はエゲツないことになってそうだ…

また登り坂が始まった。
地図を確認すると。この登りの峠はまだ大分先。
時刻は日没近い18時、とてもじゃないが、この日の内に峠は到着できない。

野宿場所を確保しなければ…と焦り始めた頃に、Abigarmという集落に到着した。
カフェや日用品店が並び、結構な規模の集落だが、パッと見てホテルは見当たらない。

客待ちのタクシーの運転手を捕まえ、ホテルが無いかを聞くと、当てがあるらしく電話をしてくれた。
数分後、家族経営のゲストハウスの息子さんが迎えに来てくれ、20ソモニ(230円)無事に投宿する事ができた。

ヘトヘトになってゲストハウスに投宿したのだが、息子さんが’サウナ、サウナ’と言ってくる。
何でもこの集落は温泉地だそうで、近くにサウナがあるのだそうで、行ってみた。

カメラも持たずに行ったので写真はないが、13ソモニ(150円)でバスタブのある個室に案内される。
バスタブは最初は空で、蛇口を捻って自分でお湯を張るのだが、出てくるお湯は確かに硫黄の匂いがする。

バスタブにお湯を張り、いざ入浴。
風呂に入るなんて、いつ振りだろう?

ほのかに香る硫黄の匂い。
最初はちょっとチクチクと肌を刺激してくる熱いお湯。
フィーっとおっさんよろしく、全身をお湯に浸からせてはく溜息。

カーッ!温泉ってこんな気持ちよかったっけ!?

ドゥシャンベまでは残り100キロ弱。
この温泉パワーにあやかり、何とか明日には到着したい。

(走行ルート:Qal ai Khumb北西115km→Abigarm)

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