NIHON です〜Qal ai Khumb北西115kmまで

Qal ai Khumb北西35km~Qal ai Khumb北西115km
9/15 (1039days)
流石に3,000メートル越えの峠とあって、今朝はかなりの冷え込み。
夜の間に、バス停の目の前を車が数台通って行ったのだけれど、何事も起こらなくてよかった。
普段なら絶対にテントを立てない、道路から丸見えの場所だったけれど、周りが地雷原なのだから仕方ない。
後にも先にも、地雷原にテント設営するのはこれが最後だろうな。
今朝の様に寒いと、テントを撤収するのが本当に億劫になる。
テント本体内部と外部の温度差が大きくなると、フライシートやポールに結露が発生する。
そして外気温が低いと、その結露が凍り付いてしまうのだ。
この凍り付いたポールやフライシートを素手で触って撤収するのが、本当に辛い。
撤収が終わる頃には指が真っ赤になるくらい、冷たい。
幸い、今朝は凍り付くまでは行かなかったが、それでも結露に濡れるテントを触るのは愉快ではない。
今いる場所から一気に標高を下げるダウンヒルになるので、フリースにウィンドブレーカーまで着込んで出発する。
昨日登ってきた道と違い、下り側はかなり道の状態が悪い。
大きめの石がゴロゴロ転がっており、それにタイヤを取られて何度も転けそうになる。
スピードを出すと危険なので、常にブレーキを掛けて下っていくのだが、ブレーキシューがガンガン減っていくのがブレーキレバーを通してわかる。
明らかにブレーキレバーの引きが軽くなっていく。
道中、頻繁に羊飼に会う。
道路は羊で埋め尽くされ、数人の羊飼達と牧羊犬が引率している。
牧羊犬からするとフルパッキングの自転車は怪物に見えるのか、散々に吠え立てられる。
道を埋め尽くす羊達を、モーセが海を割ったかの如く、掻き分けて進む。
驚いた事に、たまに通る車も容赦なく羊の群れに突っ込んでいく。
羊達は慣れっこなのか、逃げ遅れることなく車を避ける。
路上で羊飼いと遭遇。
モーセの十戒のように割れる、羊の群れ。#自転車 #世界一周 #タジキスタン #bikepacking #MTB #MSR #SWANS #モンベル #動物 #animal pic.twitter.com/j7SjWnRQmO— 沖野直嗣@自転車世界一周中 (@Okino0) September 18, 2019
しばらく下っていると、眼下に川が見えてきた。
恐らくはあの川沿いまでダウンヒルが続くのだろう。
削れていくブレーキシューに合わせて、何度もブレーキ調整をして下っていく。
自転車にとってダウンヒルは楽ができる区間だが、同時に速度をコントロールできずに事故を起こす可能性が高くなる。
フルパッキングの超重量自転車なら尚更で、斜度がある程度キツくなるとその重みのため、ブレーキをいくら握り込んでも急ブレーキは効かない。
それを事前に防ぐため、常にブレーキレバーを引いたままなので、ブレーキシューが削れるのは仕方ない。
しかし更に注意しなければならないのは、ブレーキシューとローターが摩擦によって熱を持ってしまうこと。
熱を持ってしまうと、いくらブレーキシューとローターの隙間を埋める調整をしても、ブレーキは全く効かなくなってしまう。
熱を持ってしまったら冷めるまで待つ以外に、対応方法はない。
熱を持ち過ぎない様に、小まめに止まったり、ブレーキだけでなく足で地面を蹴ってスピードを殺して進んでいく。
峠から走ること30キロ弱、やはり川沿いに到着してダウンヒルは落ち着いた。
ここで標高1,800メートル程度。
川を渡す橋の側には、雪豹と思われるモニュメントがある。
その側にある看板を見るに、どうやらこの辺りは自然保護区のようだ。
ネパールやインドでも雪豹はいるらしいのだけれど、地元民ですら見たことがない幻の存在なのだとか。
中央アジアでも、多分滅多に見られるものではないだろうな。
川沿いに出てからは、途切れ途切れではあるもののアスファルトも現れ出した。
多少のアップダウンこそあれど、基本的には下り基調もしくは平坦な道のり。
このノースルートは路面状態が悪いと聞いていたけれど、ワハーンに比べると全然、むしろ走りやすいくらいだと思う。
ただ問題なのは、強い向かい風。
キルギスからずっとそうだが、中央アジアでは基本的に西から風が吹いてくる。
中央アジアを走るサイクリストはヨーロピアンが多く、そのほとんどがヨーロッパから東アジアへと向かうので、彼等にとっては常に追い風。
そのため、すれ違う彼等に「この先の走行状況ってどう?」と聞いても、路面状態の話にはなれど風の情報は出てこない。
こちらが「追い風だった?」と聞いて初めて、思い出したかのように「あぁ、追い風だった。お前にとっちゃバッドだな。」と風のことを口にする。
この日もやはり、旗が音を立てて靡くほどの強い向かい風。
本当、バッドだよ。
タジキスタンでは、至るところで大統領の大きな写真を見る。
町中でも、ビルの壁一面に写真が貼り付けられていたり、こんな辺境の道でも大きな看板が設置されている。
現大統領は、何と1994年からずっと任に就いているとのことで、事実上の独裁政権となっている。
ソビエト連邦が崩壊して独立を果たしたといっても、そこら辺やはり旧社会主義国なんだな…と感じる。
川沿いに出ると、景色が単調であまり面白みはない。
峠だと、風景が立体的になるので常に風景に変化があり飽きないのだが…
平坦な道だと、基本的には自分の目線の高さでしか風景が見れないし、自転車のスピードだと同じ風景から中々抜けれないのが、面白く感じない理由だろう。
この道には、やたらとモニュメントが多い。
特に説明文があるわけでもないし、集落の中にあるわけでもなく、路肩にポツンと置かれている。
マイルポスト的なものなのか、はたまた誰かの慰霊碑なのだろうか。
時々集落を通過することがあり、そういう時はやはり子ども達が声を掛けてくる。
‘ Where are you from!?(どこの国の人?)’ に対して「Japanだ」と応えても、どこだそれ?という反応をされる。
学校で ‘Where are you from?’ という尋ね方は教えられても、各国の英名は教えてもらってないのだろう。
ロシア語で「Японский(ヤポンスキー。日本人)」と言ってようやく、ははーんと納得してくれる。
例えば日本でだって、ネザーランドの事はオランダと呼ぶし、イングランドもイギリスと呼ぶし、国の英名なんて知らない事の方が多いよね。
個人的な心情としては、国名は本来、その国の言語での正式名称で呼ぶべきだと思うんだけどな。
日本は「NIHON」が正式名称なんだし、「JAPAN」なんて正式名称から遠すぎる。
英語は今や世界共通言語だから、それに合わせるというのも分かるんだけれど、国名までそれに倣うというのは何だか癪に障る。
その後はほとんど無心になって走り、この日走行距離80キロとなるところで集落が現れた。
ここまで走ってきて野宿できるような場所がなく、この先も同じような道が続くとなると、誰にも見つからずに野宿は難しそうだ。
集落に東屋があり、その目の前にある家の人に許可をとって、そこでテントを張る事に。
(走行ルート:Qal ai Khumb北西35km→Qal ai Khumb北西115km)