風に削れる砂の山〜Toqakhonaまで

Yamg~Toqakhona
9/4 (1028days)

川を挟んで向こうはアフガニスタンという、なかなか滅多にないロケーションだった野営地。

朝食にインスタントラーメンとパンを食べ、7時過ぎに出発。

道は相変わらずガッタガタ。
そして9時にもなると、汗が噴き出すくらい暑くなる。
汗を拭うためにTシャツの袖で顔を撫でると、袖は真っ黒に。
数日間シャワーも浴びていないし、鏡も見ていないが、汗と砂で顔はさぞ泥まみれなのだろう。

アフガニスタン=内戦というイメージが強く、この記事を執筆中の数ヶ月前にもアフガンで人道支援に当たっていた邦人がテロリストに殺害されるなど、依然として危険な国である事には間違いないだろう。

しかしながら、川のすぐ向こうがアフガンというワハーン回廊において、内戦による混乱も危険も感じない。

7時にはもうワハーン人が羊や牛、ロバを引き連れて道を歩いている。
広々とした牧草地では牛達が草を食んでいる。
稲が黄金に色付いた農地では、大人達がせっせと収穫に勤しんでいる。

アフガン側には今のところ集落を見ることはないが、人が普通に歩いていたり、車が走っていたりもする。
この地域では、外界から一切影響を受けることも、外界の状況を一切意に介することもなく、日々の生活が送られているように思える。

出発から18キロ走り、上り坂が現れた。
この上り直前から、道は完全に砂に埋もれてしまい、砂漠になっている。
砂漠では、普通に自転車を押してもビクともしない。
ハンドルを支えに立ったまま腕立て伏せをしているような、滑稽な事になる。

砂漠を突破するには、サドルを掴んで後輪を持ち上げ、引きずるようにして進む。
これが普段にない動きなので、非常に疲れる。
数メートル進んで休み、また進む。
こんな鉄の塊、投げ捨ててやりたい…と思うが、そんなことをしても解決にならないし、誰も助けてくれない。
グッと堪え、黙々と自転車を引きずる。


砂漠を越えた後も、砂利ばかりの悪路のアップダウンが続く。
上りが始まって6キロ、ようやく頂上に。
標高は2,980メートル。

この頂上付近、非常に強い風が吹き荒れている。
南米パタゴニアを思い出すくらいの暴風で、しかも向かい風という最悪の状況。

頂上からすぐ下りになったのに、コルゲーションと暴風で時速10キロも出ない。
砂漠で自転車を引きずるのは構わないけれど、この強さの向かい風は、精神的に辛い。

これまでの厳しい道のりで、砂の様にボロボロになった精神力が、この暴風で更に削り取られていく。
精神力の砂の山が、風によってどんどん小さくなっていく。

湧き水があり、浄水器で飲み水を作る。
家畜が放牧されている地域では、彼等の糞便で水が汚染されているので、生水を飲むと病気になってしまう可能性が高い。

過去4年間、鞄の底で眠っている事が多かった浄水器だが、持っていてよかった。
キルギスとタジキスタンは、浄水器が無かったらとんでも無い事になっていただろう。

ある集落を通り過ぎた時、子ども達からまた’ハロー’ ‘ワッツユアネーム’と声を掛けられる。
特に書いてなかったけれど、この道中でもいくつもの集落を通り過ぎており、この日1日で何十回も既に耳にしている。
多分、学校でまず教わる英語が、この二つなのだろう。
普通は名前聞くよりもまず、’ハウアーユー?(ご機嫌いかが?)’と言うべきだと思うんだけど。

そういう挨拶に自転車を停めることなく、適当にハローと言い返して進むのだけれど、ある集落で少年が駆け寄ってきて、小さな桃の様な果物を両手いっぱいに手渡してくれた。
予期していなかった事に驚く私に、少年はニコッと笑って、道を開けるかの様にまた私から離れていった。

少年から見て、私は苦しんでいるように映ったのかもしれない。
何か助けられる事はないかという事で、果物をくれたのだろう。
この出来事は、ワハーン回廊でも最も印象に残っている事の一つだ。

ワハーンでは人間生活の根底の様な物を感じる。
住民みなが汗を流して働き、みなに挨拶をし、困っている人間がいれば助ける。
利害関係が複雑に絡んだ都会のドロドロした雰囲気はなく、人間の澄み切った純な部分が、ここにはある。

そんな少年の助けに疲れ切った心が少し和らいだものの、風は依然として猛威を奮っている。
一向に休まる気配なく、向かい風として私を苦しめる。

そして15時、遂に私の精神力、砂の山は全て風に削り取られた。
これ以上走り続ける気力は、もうない。

運がいいことに茂みがあり、そこに自転車を突っ込む。
まだ太陽が高いうちからテントを立て、寝っ転がる。

こうして休んでいる内に、砂がサラサラと溜まり、明日の朝にはある程度の大きさの山になっているのだろう。

(走行ルート:Yamg→Toqakhona)

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