ワハーン回廊を往く〜Khargush西50kmまで


Kargush~Khargush西50km
9/2 (1026days)

昨晩テントを張ったのは、コンクリート造りのバス停。
加えて標高4,000メートル近くという条件も合わさり、背中の冷え込みと痛みに、深夜3時ごろ目が覚めた。

私の寝袋は、メーカー公称でマイナス30度まで使用可能なのだが、それはあくまでもマットやインナーシーツなどを併用した場合。
エアマットが壊れた今、寝袋の下に敷くのはぺしゃんこに潰れたクローズドセルマットレス(アコーディオンの様に畳める銀マットに似た物)のみ。

如何に寝袋が良いものであっても、それ単体ではそのポテンシャルが活かしきれないのだということを、寒さに震えながら痛感する。

一度起きてしまった後は熟睡とはいかず、5時半には朝食を食べてしまい、7時半に出発。
寒くて寝れない時は、もうさっさと活動を開始するに限る。

バス停から数十メートル進んだところに、軍の検問所がある。
時間が早すぎて、検問所は無人になっている。

検問所に誰もいないのは私の過失ではないので、ゲート潜って行ったろうかいと思ったら、程なくして軍の施設から一人軍人が歩いてやってきた。
さすがにアフガニスタンとの国境沿いという非常にややこしい場所だけに、施設から双眼鏡なりで監視していたのだろうか。

チェック自体はパスポートと許可証の確認だけで、荷物チェックなどはなし。
もう2019年も暮れだと言うのに、パスポートや許可証の番号はノートに手書きで記載というね。

検問所の小屋の中に入り、軍人がノートに記載している間、何気なく壁を眺めると、張り紙が何枚かある。
「消えた旅行者」という内容で、パスポートの顔写真のページが張り出されているではないか。

おいおい、ということはチェック受けずにゲート潜っていたら、結構大問題になっていたのか?
それとも、ここってアフガニスタンの国境沿いだよね…
タリバンに拉致されたとか…?

パスポートを受け取り、軍人がロープを引き、ゲートを上げる。
自分が古代ローマ帝国時代の奴隷になって、コロッセオでライオンとの殺し合いをさせれる事になり、ライオンの檻が開かれた様な心境だよ。

しかしもう門は開かれた。行くしかない。

道に牛の群れが歩いていたので写真を撮っていると、自転車が珍しいのか囲まれた。
警戒しているのか、それとも仲間と思ってくれているのか…
いきなり頭突きされるんじゃないかと冷や冷やする。

昨日ワハーン回廊で最大の峠を越えたのだから後は下るだけで楽勝…という私の思惑は全く検討外れだった。
コルゲーションと深い砂のコンビネーションで、禄に進めたもんじゃない。

コルゲーションの凸凹で散々跳ね上げられた挙句、砂地にタイヤを乗り入れた瞬間にタイヤが嵌って自転車が横倒しにされる時の絶望感ったら…

時計に目を落とす。
出発から1時間半が経つのに、まだ8キロしか進んでいない。
思わず乾いた笑いが漏れる。体も心も、砂でザラついていく。

あまりに進めないので、不貞腐れて昼寝。
こんな所、真面目に走ってたら正気が保てない。
適度に休憩を挟んでダラけながら進むくらいじゃないと、やってられん。

しばらくすると、絵具を溶かした様な水色の川が道沿いに現れた。
「あぁ、こんな荒地にも川があるんだなぁ」と、疲れた脳みそでボーッと考えた後、ハッとする。

そうだ、ワハーン回廊では川がちょうど国境になっていたはず。
ということは、あの川の向こうはアフガニスタンなのだ。


アフガニスタンという国を私が初めて知ったのは2001年、中学生の時だった。
「アフガニスタンのバーミヤンの大仏が、タリバーン政府によって爆破されました…」というニュースキャスターのアナウンスとともに、爆破前の顔のない大仏と、爆破後の大仏が居なくなった洞窟が映し出された映像は、今でも思い出すことができる。

同じ年、夜中に一人テレビを観ていると、アメリカの大都市にあるビルに飛行機が突っ込んだというニュースが流れた。
映像はアメリカからのライブ中継で、煙を朦々と吐き出す高層ビルが映し出されている。

しばらくすると、アップで映し出されたビルに、また別の飛行機が突っ込んで赤い炎が炸裂した。
ライブ中継に現地の音は入っておらず、テレビの画面の中で飛行機は全くの無音で爆発した。
中学生の私は「あっ!」と声を上げ、ニュースキャスターも「今また別の飛行機が激突しませんでしたか?」という様なことを言ったのを覚えている。
確かこのすぐ後くらいに親もテレビの前にやって来て、みんなでテレビを観たのだけれど、私も、多分親も何が起きているのか全く理解ができないでいた。

その後、アメリカのブッシュ大統領は「これは戦争だ」と宣言し、テロリストを匿う
アフガニスタンへと侵攻していった。

以降、これまで聞いたことも無かったアフガニスタンという国名は、報道機関を通して日本でも頻繁に聞く様になった。
そしてその国名を聞くのは、いつも決まって戦争・テロ・内戦という風に、とてもネガティブなニュースの時だった。

恐怖、混乱、暴力…
アフガニスタンに対し私が抱くイメージは、小さな川一つ挟んだところまで接近した今でも、とても悪印象だ。
報道機関によって長年刷り込まれて来たステレオタイプというのは、簡単に拭うことはできない。

川の向こうには建物が時々あるけれど、人の姿は見かけない。

タジキスタン側には時々物見櫓があったり、銃を持った軍人が3人1組で巡回していたりして、警戒に当たっている。
川幅は狭いし、所によっては浅いので簡単に国境が越えられそうなので、不法侵入がない様に対策しているのだと思うが、やはり少し物々しい雰囲気ではある。

川を越え、更に山を越えた先では、何十年も続く内戦に苦しむ人々が暮らしているのか…

川沿いは標高3,600メートルをウロウロする高度で、小さなアップダウンを繰り返して進んでいく。
朝出発した所が標高3,800メートルだったのだが、200メートルもダウンしてきたのが信じられないくらい、まったく距離を稼げていない。
川沿いに出てからも、深い砂で自転車に乗れない区間が多く、臍を噛む思いだ。

水は川が近くにあるから補給できるし、無人地帯は昨日出発したAlichurから130キロの区間のみ。
そこを走り切れば集落があるので、食料だって精々三日分も持ち運べば十分。
そういう意味で、総合的な難易度は、ワハーン回廊はそこまで高くない。

ただ、単純な’走行難易度’で言えば、この旅行でも最上位にくる難しさだ。
ここまで砂地に苦しめられ、自転車に乗れない時間が多くあるのはボリビアーチリ間の宝石の道以来か。
突入前、難易度に関してかなり舐めていたこともあり、そのギャップもあって実際以上にキツく感じているのかもしれない。

そんなキツイ道にあっても、’走ってよかった’と思わせる風景が、ワハーン回廊にはある。
川がスーッと奥へ聳える山へ延びていく風景の中で、その川沿いに自転車を進ませていくのは、自分が川に流される流木や木の葉のようだ。


標高3,400メートルまで降った後、そこから上りが始まった。
面白いことに上り坂の方が砂が溜まらないため、自転車に乗れる時間が多い。

登るにつれて川との高低差が出てきて、益々風景も良くなってきた。

もう川は谷の遥か下。
僅か川を挟むだけで、あれだけ近かったアフガニスタンも、ばっくりと裂けた大地に阻まれて凄く遠く感じる。

アフガニスタン側の山嶺は刺々しくて、非常に格好いい。

実は意外にも車通りはあって、1〜2時間に一台くらいは見かける。
羊飼も、たまに見かける。
どこに住んでいるのか家らしい物は全くないけれど、家畜は放牧しておいて、集落から車で通勤しているのかな。

ほとんど無人地帯なので野宿場所には困らないだろうと思っていたのだが、平らなスペースというのが全く見つからない。

日没が近くなり焦りながら走っていると、前を歩く二人の男がいて、追い抜きざまに話しかけられた。

私のなんちゃってロシア語でコミュニケーションを取っていると、’眠る場所を探してるなら、この先に俺たちの小屋があるからそこで寝ていいぞ’と言ってくれた。

彼らも羊飼で、その小屋は彼等の休憩所らしい。
渡りに船、地獄に仏とはこのことで、ありがたく甘えさせてもらうことに。

羊飼のベイカーとボリャ。
小屋に入るなり火を起こしてくれ、チャイをご馳走してくれた。

彼等も今夜はここに泊まって、翌朝家のある集落まで歩いて帰るのだとか。
やはり家は別の場所にあって、ここまで通勤してきているんだな。

ここから家までどれくらいの距離なの?と聞くと、’12キロだな’と言う。
片道12キロ!? 車は乗らないの?と聞くと、首を横に振って’歩く’と言う。
全く、私には想像も付かない暮らしを、この厳しい環境の中でワハーン人は生きているのだ。

夜は小屋に保管していた食料で、スープを作ってくれた。
パンも野菜もとても新鮮とは言えず、かなり古い。
それでも彼等の親切が嬉しかったし、とても貴重な体験をすることができた。

明日には何とか集落がある所まで進めるだろう。

(走行ルート:Khargush→Khargush西50km)

コメント

  1. 頑張って下さい

    1. ありがとうございます!

  2. 2月26日
    腰痛軽減のFacebookみました。
    少し安心です✨
    お母さんも毎日朝、ラジオ体操第1か、枚方体操を超真面目にしています。
    お母さんも同じところを使うことが多く、その場所の筋肉が硬くなったり、血流やリンパの流れが悪くなったりするので、朝の体操は体に効いているようです!
    腰は身体の要❗️自転車運転中は首の後ろ~背中~腰にムリが掛かっているのかも。
    時々休憩して緊張をゆるめてね🥰

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