YAH YAH YAH〜Murgab南70kmまで

Murgab~Murgab南70km
8/30 (1023days)

理由は分からないのだが、ムルガブは何故かキルギス時間を採用している。

キルギスとタジキスタンは時差が一時間発生しているので、前日に腕時計を一時間遅らせていたのだが、18時と聞かされていた夕食が17時に出てきた。
あれ?と思い女将に尋ねて、発覚したのだ。

この日も7時半に朝食と言われていたのだが、実際には6時半とずいぶん早い一日の始まり。

出発もそれに引っ張られる形で7時半と早い時間に。
キルギス国境からすでに100キロ離れているので、キルギス時間を採用する理由もないと思うんだけどな。

ムルガブのすぐ脇には結構大きなか川が流れている。
これを見ると、いかに荒れた土地であってもある程度大きな水源さえあれば、人間は生きていけるし集落も成立するのだということがよくわかる。
今まで走ってきた国でも、大河と呼ばれる川の近くには必ず大都市があった。

ムルガブを抜けてすぐ、検問がある。
ここでは荷物チェックとかはされないが、パミール高原があるゴルノ・バダフシャン自治区への入域許可証とパスポートをチェックされる。
タジキスタンの入国にはビザがいるのだが、インターネットで申請する際に、パミール高原を旅行する外国人は同時に自治区への許可証の申請も必要になる。

この許可証が結構な値段で25ドルもする。
ビザと合わせて75ドルであり、パミール高原くらいしか観光資源がないタジキスタン政府がここぞとばかりに外資を得ようとしているとしか思えない。

しかもバックパッカーの場合、キルギスタンのオシュからタジキスタンのホログの間を走るバスは存在しないため、車をチャーターする必要があるらしいのだが、何と10万円弱もするらしい。
この周辺の物価で10万円弱というのはボッタクリ甚だしい。
それなら、この区間だけ自転車を買って走る方がいいんじゃないか。
パミールハイウェイの様に、道自体が重要観光地となっている場所では、結局人力旅行が一番楽しめる手段だと思う。

パミールハイウェイの終着点であるホログまで、300キロ。
タジキスタンの首都・ドゥシャンベまでは1,000キロ弱。
ホログ以降もドゥシャンベまではかなり酷い道らしいので、1,000キロは地獄を見続けるということになる…

谷の間を流れる緑色の川に沿って、ほとんど平坦な道が続く。

ムルガブから10キロほど走り、上り坂が増え始めた。
それに加え、向かい風が結構きつくてペースがガクッと落ちる。
風を遮る物がなく、終始体で受け続けるのは南米のパタゴニア地域によく似ている。

道中にはレストランはもちろん、民家もほとんど見かけない。
そのため休憩する場所もなかなか見つからず、良いロケーションでの休憩は諦め、路肩にあるマイルポストの影にひっそりと隠れての昼食。

当然マイルポストでは風除けに何の意味も為さず、砂が服に当たるパチパチという音が聞こえてくる。
そしてその砂は昼食のパンやドライフルーツにも掛かるわけで、口の中からは時折ジャリっという不愉快な音がする。

上りはそこまでキツくないのだが、とにかく風がきつい。
パミールハイウェイはとにかく路面状態が悪い、という情報ばかり聞かされていたので、ここまで風に苦戦するとは思っていなかった。

というのも話を聞かせてもらったのは、ほとんどヨーロピアンサイクリストからである。
彼らはヨーロッパから来たので、逆にこの風を追い風にしてめちゃくちゃ恩恵を受けていたはず。
そんな彼らから風に対する不満が出ようはずもなく、この強烈な向かい風は正に晴天の霹靂。

風に苦しみつつも、55キロ走ってようやくこの日の峠を越える。
標高は4,040メートル。

モニュメントになるような物もなく、またこの強風で自転車を立てかけていることすら難しいので、写真撮影もそこそこにさっさと下る。

峠からは一気に下るものと思っていたのだが、高原地帯が広がりむしろアップダウンの連続に。

周りに並ぶ山の中腹には、風紋が現れている。
この強風が今日だけの嵐ではなく、普段から強風が吹き荒れているということだろう。

たまに現れる下り坂でも、時速10キロしか出ない程の強風。
体力の浪費にしかならないのに、風に対する不平不満を大声で叫ぶ。
その叫びも風の音にかき消され、自分の耳にすら小さな囁き程度にしか届かない。
風に姿形があればぶん殴ってやるのに。

16時過ぎになり、どこか風から隠れられる野宿場所がないかを探しながら進んでいると、どこかから声が掛かった。

こんなところに人が!?
驚いて声の主を探すと、砂丘の影から人の顔が覗いている。

ドイツ人サイクリストのクリス。
ドイツから台湾を目指して走っているらしい。
昨日まで日本人サイクリストと一緒に走っていたとかで、後方にいる彼を待っているのだとか。

ちょうどここが風の逃れ場所にちょうどいいため、クリスと一緒にテントを張って野宿することに。

結局その日本人サイクリストはやってこず、風に煽られるテントの中で眠りについた。

(走行ルート:Murgab→Murgab南70km)

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