自己を感じる〜Murgabまで

Kara Kul南50km~Murgab
8/28~8/29 (1021~1022days)

8/28
今日も6時に目が覚める。
ユルトを出て見ると、この日はほとんど雲の無い最高の天気。

お婆婆たちは昨日、’明日は晴れるさ〜’ と言っていたが、その通りになった。
インターネットも電気も通っていないこの環境で、どうやって翌日の天気が分かるのだろう?
遊牧民たちの中で受け継がれる、勘のような物が働くのだろうか。

私以外の3人のサイクリストも今日出発するとのことで、みんなで記念撮影。
私のカメラで三脚を立てて撮影したのだが、「タイマー12秒ね!」とサインを作ったら、勘違いしたのかみんなピースしてくれた。

お婆婆たちにはお礼を、サイクリスト達にはヨーロッパでの再会を願い、9時半に出発。

相変わらずコルゲーションが酷い中での走り始め。
遮るものがないので、道がどこへ向かって伸びているのかが一目でわかる。

遠くでヤクが群れを作って歩いているのが見える。
恐らくお婆婆たちのヤクだろう。
日中、ヤクはこうしてユルトから離れて過ごしている。
夕方になると、迎えに行かなくてもまたユルトに戻ってきていたけど、逃げたりしないのだろうか?
逃げたとしても、自分たちだけでこの環境を生き延びるのは難しいという事を、ヤクも理解しているのだろうか。

ユルトから5キロ、上りが始まった。
上りの始まりには、標高を示すモニュメントが。
これもキルギス国境と同じパターンで、この先の峠の標高を示している。
標高4,655メートル。これはここパミールハイウェイ上の最高標高だ。

傾斜がキツく、標高の高さも相まって息が切れる。
自分の左右前後を囲む赤茶けた山々、草一本生えない大地。
それに反比例する様に、あまりに鮮やかな青い空。
まるで自分が違う惑星にいるかのようだ。

南米で山岳地帯での走行に魅了されて以降、標高5,000メートルに迫る、時には5,000メートルすら超えるような道を敢えて走ってきた。

景色の良し悪しであれば標高が高くなくとも、もっと絶景と言われる場所はあるだろう。
むしろ、標高が高くなると周りに何もなくなるので、人によっては退屈な風景だと感じるかもしれない。
聞こえてくるのも風の音と、自転車のペダルやチェーンから発するわずかな音だけ。

しかし何もないが故に、自分の存在というのを強く感じるのだ。

薄い酸素を必死に取り込む荒い呼吸に、自己を感じる。
額から流れる汗が目に染みる痛さに、自己を感じる。
顔を摩ると手に付いてくる、強い紫外線と砂埃でボロボロになった垢に、自己を感じる。

自分という存在が確かに今地球上にいて、自転車というツールを使って地球を遊びまわっているんだ!という事を、標高5,000メートル近くでは強く感じることができるのだ。

ユルトから走ること3時間、遂に標高4,655メートルのAkbaytal峠に到達。
峠から自分が走ってきた道を見下ろすときは、達成感、いや征服感を感じる。
コルゲーションや深い砂やキツイ傾斜で散々苦しめてきた峠に、俺は打ち勝ったぞ!
この快感は、登山で登頂を果たした時に近い感覚ではないだろうか。

しかし自転車が登山よりも良い点は、登頂の先のダウンヒルも楽しめるという点である。
登山の場合、高標高の山だと登頂してからすぐに下山しないといけない事が多く、達成感に浸れる時間は余りない。
その点、自転車はダウンヒル中はブレーキさえ掛けていればいいだけで、その達成感の余韻を長く味わえるのだ。

峠から2、3キロでアスファルト舗装に戻ったのも、精神的に随分と楽になった。
凸凹だけれど、コルゲーションよりは全然マシなので。

もう手持ちの食料は残っていないので、昼食はスニッカーズで胃袋を誤魔化してなんとか進んでいく。
次の集落であるムルガブまで基本下り坂というのが分かっていたから、食料積んでなくてもなんとかなってるけど、そうじゃなかったら割とピンチだったな。

しかし現実は、峠からはあっという間に標高4,000メートルまで下って、その後はアップダウンが割と続き、そこまで楽ができるわけではない。
終始向かい風が吹いていて、加えて小雨まで降ってきた。

体温が奪われると、体が暖まろうとして発熱するので、カロリー消費される。
そうなると空腹感は増すのであり、もうさっさとムルガブに着いて飯が食いたい。
峠を越えた達成感なんて腹の足しにならん。ただ今はひたすら満腹感を得たい。

ムルガブ手前25キロくらいから風がなくなり、道も下り坂になったため、ラストスパート。
17時にようやくムルガブに到着。

ホログという、パミールハイウェイの終着点となる町までの道のりでは最大規模の町のはずなのだが、実に寂れた様子。



それでもゲストハウスは選べるほど数があり、一応観光客は結構いたりする。
ユルトで一緒だったドイツ人サイクリストのライネルにお勧めされたゲストハウスへ。

一泊10ドルで、朝食と夕食付き。
Wi-Fiは、ムルガブ全体でシステムダウンしているらしく使用不可。

綺麗だしドミトリーには私以外誰もいないし、休養のため2泊することに。

8/29

休養日といえど、パミールハイウェイに向けて多少のタスクはある。
まずは余ったキルギスタン通貨の両替。

まず銀行へ行ってみたのだが、’ここじゃ無理’とにべも無く突っぱねられてしまう。
おいおい、銀行で両替できないってどういう事じゃい。

じゃあどこでできるの?と銀行員に聞くと、向かいにあるホテルでできるとのこと。
しかしいざそのホテルに行ってみるとまぁ酷いレートで、3,000円分くらい両替するために1,000円も取ってこようとしやがる。

流石に足元見過ぎなので、ホテルを出てすぐ玄関にある商店に、ダメ元で両替を頼むと、ほぼ正規のレートで両替してくれた。

お次は食料の買い出しに、バザールへ。
このバザールが面白くて、船舶輸送のコンテナがそのまま各店舗として利用されている。

何と携帯電話業者のテナントもあり、そこでSIMカードも売っていたので購入。
どれだけの期間ネットから切り離されるか分からないので、一応保険的な意味合いで。

野菜や衣料品と、割と何でも揃う。
ここでは食料と、日焼け止めを購入。

ただパンが売ってなく、バザールを出てかなりの距離を歩いたのだが、パン屋みたいなのは存在しない。
ゲストハウスの食事で出てくるパンはどこで買っているんだ…

途中で地元の人に声を掛けてパンをどこかで買えないかと尋ねると、何と家にあるパンを売ってくれた。
これで何とか走行中の昼ご飯も賄える。

さぁ、これで準備もできた。
パミールハイウェイ上の最高標高の峠は今日越えてきたけど、道的にはここから先が苛烈になると聞く。
特に、私が走る予定のワハン回廊は、深い砂とコルゲーションで超過酷らしい。

楽しみでもあり、不安でもある。

(走行ルート:Kara Kul南50km→Murgab)

コメント

  1. 自然界の素晴らしさ見せていただき満喫です。ありがとう。体調に気を付けて事故なく。走破してくださいね。頑張って。

    1. ありがとうございます。
      今後のルートで果たしてここを越えるような風景はあるのやら…
      そんな素晴らしい風景でした。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です