山岳国家が牙を剥く〜Akkyl西60kmまで

Akkyl西10km~Akkyl西60km
8/13 (1006days)

よく訓練されてるのか、はたまたとにかく嫌われたのか、テントを張らせてくれた家の犬は一晩明かした今朝になっても、顔を合わせれば噛み付かん勢いで吠えてくる。

朝食食べて、家主にお礼を言って出発する時になっても吠えっぱなしだった。
ビシュケク以降、8日間シャワーを浴びてなくて、よっぽど臭うからだろうか…

昨日は峠の取り付き部寸前で終了したので、当然今日は走り始めて即上り坂。
斜度はそこまできつくないので、割とスムーズに進んでいける。

薄い雲が空を覆い、太陽を隠してくれているため、暑さもいつもより随分とマシだ。

昨日散々苦しめられたコルゲーションは、今朝はほとんど見られない。
そういえば、キルギスに限らず坂道の途中にコルゲーションというのはあまり見られない気がする。
キルギスではその路面状態の悪さから、上り坂の方が平坦な道より楽…という逆転現象が発生している。

10キロも走ると、随分と標高が高くなってきた。
左手には大きな川と谷が見える。

途中、前方からイギリス人とルーマニア人の自転車旅行者がやってきた。
昨日は暑かったので水を随分と消費してしまったのだが、20キロ先の川まで行かないと水は手に入らないらしい。
正直、中央アジアがこうも無補給区間が続く様な地域と思ってもいなかった。

よく質問で「水の補給はどうするんですか」というのを貰うのだが、普通に走る分には水の補給なんて心配する必要がない。
200キロ300キロも無人地帯が続く様な地域というのは、普通に走る分には世界にほとんどない。
そういう無人地帯は、ボリビアーチリ間の宝石の道などに代表される、幹線道路から離れた所謂 ‘狙っていかないと行けない場所’ にしかないのだ。

それが、今私が走っているのは正式に道路番号を登録されたキルギスの一般道であり、そんな一般道で200キロ以上も商店が無い…というのは異常なことだ。

一般道に無人地帯が続くそんな異常な場所にあっても、ユルト(遊牧民の移動式テント)があるのだから驚いてしまう。
それもわざわざ峠の頂上付近に住んでいるのであり、商店があるような町から遠く離れて暮らして、何のメリットがあるのだろうか?
それとも、世捨て人的な人がここに住んでいるのだろうか。

15キロ走った11時半、峠に到着。
標高は2,800メートルで、ささやかながらモニュメントもある。

写真撮影をしていると、どこからともなく馬に乗った遊牧民がやってきた。
どうやら先程のユルトに住んでいるのは彼らしく、彼の後ろには百匹ほどだろうか、たくさんの羊が歩いている。

さすがに町中でこの数の家畜は飼えないだろうから、飽くまでもユルトは放牧のためのシェルターみたいな感じなのだろうか。

峠からは、今度は九十九折の下り坂が始まる。
本来なら下り坂は峠を上り切ったサイクリストへの最高のご褒美のはずなのだけれど、とにかく路面状態が悪すぎる。
タイヤを砂利にとられて転けそうになること数十回。

この道路上に住んでるキルギス人は、政府に路面状態の改善を求めたりしないのだろうか?
車でも相当にしんどい道だと思うのだけれど。

スピードに乗ると転倒リスクが上がるので、ほぼ常にブレーキを掛けて下る。
レバー越しに実感できるくらい、ブレーキがみるみる内に減っていくのが分かる。

峠から15キロ、標高1,800メートルまで降ったところで、今朝サイクリストに教えてもらった川に到着。

川は確かに綺麗なのだけれど、そこら中に馬か牛かの糞が転がっている。
このまま飲んだのでは100%腹を壊すので、携帯フィルターで水をろ過して補充する。
フィルターはあくまでも緊急用アイテムとして持っていて、活躍の機会はほとんどなかったのだけれど、捨てずに持っていて本当によかった。
キルギスはフィルター無しじゃ走行不可能だ。

ついでに川で水浴びをして洗濯もする。
ビシュケク以来8日ぶりに服を着替えて、すっきり。

手持ちのパンで昼食を済ませた後、服が乾くまで文庫本を読んで休憩をする。
ちなみに読んでいるのは真保裕一の’ホワイトアウト’
このクソ暑いキルギスの夏を少しでも和らげようという納涼的なチョイスから。

結局二時間ぐらいたっぷり本を読んでから、洗濯物を取り込んで出発。

午前中に大きな峠を越えたので、この日はもう上りはないだろうと思っていたのだが、休憩をとった川からまた上り坂…
しかも傾斜がきつく、長い。

息も切れ切れで上りを終え、やれやれ下りが始まる…と安心していると、下の先にはまた新しい上りが丘の向こう側に伸びているのが見える。

その上りを走り切ると、下りの先にまた新たな上りが…

どうやら私はキルギスを二つの意味で舐めていたようだ。
一つは想像以上に美しく、もう一つは想像以上にきつい。

一般道でこの条件を満たしていたのは、エクアドルからペルーに掛けてのアンデス山脈以来だろうか。
いや、あの時は小さな集落が数十キロおきにあったから、そ以上にきついかもしれない。

ここまで集落がないのだから野宿場所には困らないと思っていたのだが、平らな場所や隠れられる場所が予想以上に少ない。
かなり疲れているので早く休みたいのに、走らざるを得ない。

ようやく見つけた丘の裏にある死角も、家畜の糞だらけ。
悪いのは道の路面状態だけにして、せめて野宿場所は綺麗でいてほしいのだけれど…

身体的には相当に疲れがあるのだけれど、この日走ったのは50キロにも満たない距離。
山岳国家キルギスの厳しさが、いよいよ牙を剥き始めた。


(走行ルート:Akkyl西10キロ→Akkyl西60km)

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