最悪の合わせ技〜Akkyl西10kmまで

    Moldo Ashuu Pass~Akkyl西10km
    8/12 (1005days)

    標高が3,000メートルを超える場所での野宿だったため、さぞ寒くなるかと心配していたのだが、特に寒さに目覚めることはなかった。

    ただ、やはりエアマットなしだとどうしても地面の固さで目が覚めてしまう。
    ここから先、パミール高原を抜けるまではほとんどが野宿になるだろうし、道も過酷になるだろうから、睡眠の質は疲労回復に大事になってくるのだけど…

    今後にちょっと不安を覚えつつも、出発。

     

     

     

     

     

     

     

    走り始めから即、谷底へ向かう九十九折の下りが始まる。
    これまで幾つもの九十九折を走ってきたけど、ここの物は南米や北欧のそれとはちょっと違うように感じる。

    これまでだと茶色い荒野や切り立った崖ということが多かったので、こういう風に緑豊かな九十九折というのに違和感を感じるのだろうか。

    そしてこの九十九折、進むにつれて斜度が増してくる。
    ブレーキの調整は出発前にしていたのだけれど、フルでブレーキを握りしめても自転車は完全には止まってくれない。

    しまいにはカーブがなくなり、下りは一直線に。
    こうなるとスピードを殺すことができず、ますます自転車は速度を増していく。
    しかも道には割と大きめの石が多く、かなり滑りやすい。

    ブレーキに加え、足で地面を蹴って何とかスピードを殺す。
    石にタイヤが取られて車が滑るのを、何とか上半身で踏ん張る。
    いつ転けてもおかしくなく、泣きそうになりながら祈るように進んでいく。

    12キロくらいして、ようやく下り坂の斜度が緩くなり、ホッと安堵のため息をつく。
    いや、本当に怖かった。
    転けなかったのは、長年の経験から養われたバランス感覚の賜物だろう。

    キルギスを走り始めてまだ一週間にも満たないが、たくさんのサイクリストと出会い、そして全員私と進行方向が逆だった。
    ということは、彼等はこの激烈な斜度の上り坂を越えて、ソンクル湖へ抜けてきたことになる。

    どんな強靭な精神と肉体してるんだ…
    北から南へ抜けるルートで心底よかった。

    下りが落ち着いた後は、多少のアップダウンがあるもののほとんどフラットに近い。

    この日40キロ走ったところで、Zhany Talapという集落に到着。
    実に五日ぶりの集落で、ようやく食料を買い込むことができる。

    早速商店に向かったのだが、一番大きいと思われる商店の品揃えの悪さときたら、酷いものがあった。
    野菜はシナシナで、明らかに入荷して数日以上が経過している。

    それでも仕方ないのでじゃがいもと玉ねぎを買い足し、ついでにお菓子も買っていくことに。
    乾パンの様なパンケーキを手に取ったのだが、よく見ると蟻が中にうじゃうじゃいる…

    「フレッシュ!おいしい!」と、蟻まみれパンケーキをやたら薦めてくる女将。
    いやいや、どこがフレッシュやねん。

    中を見てみろと女将に手渡すと、袋を開けて蟻を払い落としていた。
    多分、なにごともなかったかの様に店頭に並ぶんだろうなぁ…

    商店の品揃えは悪いのに、やたらと地下水の汲み上げポンプの数は豊富にある。
    道路が規則正しく格子状になってる集落の、全ての十字路にポンプが設置されている。

    今のところ、キルギスで地下水や蛇口の水を飲んでも問題ないので、水分補給は今のところ何とかなっている。

    集落内とその前後はアスファルト舗装されていたのだが、集落を抜けるとすぐに未舗装路に逆戻り。
    しかもコルゲーション(洗濯板のように凸凹が続く現象)が酷く、まともに走れない。
    道の端っこが辛うじて平らなので、その50センチくらいの幅のところをバランスを崩さないように進んでいく。

    急斜度の下り坂を越えた先は盆地になっており、しばらく平原が続く。
    水が一切なく、生物の気配もない。
    大地がカラカラになってひび割れる様子は、水を渇望して悲痛な叫びを上げているかのようだ。

    たまに車が通るのだが、その度に砂埃を巻き上げて私の横を抜けて行くので、体中が真白に。

    平原地帯の先には、12%の急斜面の上りがある。
    この上りが長くてきつい。
    それに加え、キルギスの夏の日差しは強く、暑くて仕方ない。
    意識が朦朧として、何でこんなところにいるんだろう?と、半ば夢の中にいる気分になってくる。

    しばらくすると登りが終わり、アスファルト舗装が現れたところでようやく現実感が戻ってきた。
    アスファルト舗装があるということは、町が近いということになる。

    案の定、しばらく進んだところで下り坂の先にAkkylの集落が見えてきた。
    見事に集落の周りだけ緑で溢れている。

    この周辺に緑があったから人間が入植してきたのか、人間が定住した後に緑を植えたのか、どちらが先なんだろう。

    意識が朦朧とするという、明らかに熱中症の初期症状が出ているので、商店でジュースと水を買い足し、小休止。

    この集落の商店にある野菜は新鮮で種類も豊富だったので、ここで買い足せばよかった。
    地図上で見ると、買い物した集落の方が大きかったのに不思議だ。

    たっぷり30分休憩を取った後、出発。
    Akkylの集落を抜けてすぐ、また未舗装路に。

    勘弁してくれよ…

    コルゲーションに加え、向かい風がかなり強い。
    前に記事で書いたのだが、コルゲーション上では振動や衝撃で自転車が壊れないよう、意図的に速度を落として走らなければならない。
    対して向かい風は、普段以上に強く漕がないとほとんど進めない。

    この相反する二つが重なると、本当にきつい。
    自転車旅行辞めてやろうかと思うくらいにきつい。

    この先、ジャララバードという大きな都市の手前まで200キロ、未舗装路が続くというのはソンクル湖で会ったサイクリストからの情報で知っている。
    このまま時速6キロで進まざるを得ない状況が続けば、一体何日掛かるんだろうか…

    日没近い17時すぎ、峠への取り付き部に到着。
    現在地の標高が2,000メートル、峠は標高2,800メートル。
    さすがに今から峠へ突入するわけにはいかない。

    ちょうどここに民家があり、お願いして庭にテントを張らせてもらう。
    次の町・カザルマンまで90キロ。
    そこまで水が保つのか心配になってきた。

    (走行ルート:Moldo Ashuu Pass→Akkyl西10km)

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