とっておきの贅沢〜Moldo Ashuu Passまで

Son Kol南部〜Moldo Ashuu Pass(3,346m)
8/11 (1004days)

ユルト内には薪ストーブがあり、寝る前に薪の補充はしてくれる。
しかしさすがに夜通しそれが燃え続けるわけもなく、冷気に叩き起こされた。

その冷え込みがかなり厳しいもので、急遽自分の寝袋を引っ張り出して布団の上から掛けて、ちょうどいいくらいだった。

ソンクル湖を目指して走ってきたここ二日間は身体的にかなりハードだったのか、体が重く感じる。
体の重さにげんなりしている私とは裏原に、朝のソンクル湖は波が立たず、非常に穏やか。

光の当たり具合なのか、昨日見た印象よりも青さが控えめな気がする。

朝食は付いてるのだが、クレープとジャムという、自転車旅行者には少し物足りない。
ちなみに私の目の前には16歳のキルギス少女が相席しており、彼女と一緒に朝食を共にした。

昨日ユルトの外でウクレレを弾いていたら、流暢な英語で彼女に話しかけられた。
今はガイドツアーで欧米人を連れているお父さんの助手として、車でソンクル湖に着ているのだとか。
ちょうどウクレレと自転車旅行に興味があるのだとかで、話しかけてくれたらしい。
高校を卒業したら自転車を買って、キルギスを旅行するということを、晩ご飯を一緒に食べながら話してくれた。

今朝も朝食を共にする中で、会話の自然な流れで「あなたに彼女はいないのか」と彼女が言ってきた。
もちろんそんな女性はいないよ、と私が言うと、「ふーん」とちょっと意味深な反応。

さすがに私も31歳のおっさんであり、16歳の小娘をどうこう…なんてことはないけれど、ちょっとこの反応にはドキドキしちゃうではないか!
しかもウクレレと自転車旅行に興味があるだと!?
彼女がもう少し大人だったら、「今すぐ一緒に行こう」という展開に持っていける願ってもない展開じゃないか…

しかも話していく内に、彼女が日本の文化(特にアニメ)に興味を持ち、日本男児にも好意的な事が分かってきた。
ますます臍(ほぞ)を噛む思いである。

すると唐突に彼女が「日本の男性は馬に乗れるの?」と聞いてきた。
えっ?何その質問。
いや、ほとんどの男が馬には乗れないね…そう返す私。

「私、馬が上手に乗れない男性じゃなきゃイヤなのよねぇ」

…遊牧民族の乙女心やいと難し。
日本男児諸君。
キルギスで嫁を見つけたいなら、事前に乗馬の予習をしておくように。

そんな事がありつつ、9時過ぎにユルトを出発する。

ユルトから僅か1キロ進んだところで、湖畔の草原に一台自転車と、テントを撤収する男が目に入った。
話しかけてみるとポーランド出身のサイクリストで、四週間の休みでキルギスを走りにきたのだとか。
この二日間、やたら欧米人サイクリストとすれ違う事が多く、キルギスはサイクリストには超人気スポットなのだろう。

バイクパッキングスタイルの欧米人が多い中、ポーランド人の彼はサイドバッグ4つという構成で、私の様な荷物の積み方をしている。
そのせいか会話も弾み、気づけば二時間も話した後、彼は去っていった。

私はといえば、ソンクル湖に着て二日間ユルトに泊まりっぱなしで、湖畔にテントを張っていた彼が羨ましく感じた。
そういうわけで、ここでもう今日は走行終了して、テントを張ろうということに。

走行距離僅か1キロ。
マットを敷いて寝っ転がり、文庫本を読みながら昼食にパンを齧る。
あぁ、なんて贅沢な時間だ…

 

 

 

 

 

 

 

しかし13時を過ぎると気温が上昇したためか、やたらと蚊に似た羽虫が私の周りを飛び交う様に。
この羽虫は刺してくることは無いのだが、とにかく羽音がうるさい。
ドローンが飛んでるんじゃないかと感じるくらいで、しかもそれが無数に飛んでるのだから堪らない。

結局もう耐えきれなくなり、13時半過ぎに止むなく出発することに。

湖畔を離れると、緩やかに上りが続くようになった。
ソンクル湖を離れるのが名残惜しくて、何度も振り返る。

未舗装路を通る車が巻き起こす砂埃のためか、湖から離れるにつれて、霞が掛かったようにその青さが段々と薄くなってくるように見える。
仕舞いには、何度も折り重なる丘の影に隠れて、ソンクル湖は見えなくなってしまった。

あれだけ大きく、目に眩しいくらい青かった湖が視界から無くなると、ソンクル湖という存在は幻だったんじゃないか…というノスタルジックな感覚を味わった。

湖畔から登りが始まっても、結構道中にユルトが点在している。
その側を通過しようとすると、子どもが数人飛び出してきて、両手を広げて無理やり自転車を止めようとしてくる。

「チョコレート!チョコレート!!」

多分、欧米人サイクリストや旅行者がお菓子をあげていて、それに味をしめているのだろう。
こうした事は今日だけではなく、昨日も同じ事があった。

別にチョコレートをせがんでくるのは可愛げがあるのだけれど、こっちが結構スピードに乗っている時に進行方向に飛び出してくるので、かなり危ない。
それに私はお菓子を持ってないので、そのまま挨拶だけして止まる事なく進むのだが、子どもたちは荷物を引っ張ったりしてくる。

子は親を見て育つというけれど、正にそうだと思う。
キルギスでは大人に酒と金を何度かせびられたし、国民性として’たかり気質’というのがあるのだろう。

15時ごろ、15キロ走って峠に到達。
標高は3,346メートル。

峠の先の風景が素晴らしく、薄く草の生えた丘が幾重にも重なる。
そして九十九折が続き、遥か谷底へと向かって降っていく。

この峠で、20人くらいのキルギス人がピクニックをやっており、レジャーシートを広げて酒や肉を食べていた。

「こっちに来て酒を飲め」と手招きしてくれるのだが、さすがにこのダウンヒルを飲酒運転で臨むのは危険なので断った。
しかしそれでも「今日はこの峠でテント張って、明日降ればいいじゃないか!」と手招きされるので、なるほどそれなら、ということで酒宴に加わる私。

30分間くらいだったと思うが、しこたまウォッカや羊の肉を食わせてもらい、すっかり酔っ払ってしまった。

キルギス人が’たかり気質’なんて思って、申し訳ないなぁと思っていたのだが、去り際にしっかり「金くれ」と言われた。
これだけ飲み食いさせてもらっておいて言うのもなんだけれど、やっぱりちょっとうーん…と思ってしまう。

憶測だけれど、彼らキルギス人からしたら、友人の間で金のやり取りは当たり前の事なのかもしれない。
酒を振る舞う、そしたらお返しに金を払う。みたいな感じで。
真相は分からないけれど、それならちょっと納得はできるかな。

やはりこの泥酔状態でダウンヒルはできないので、この日は峠の死角にテントを張る。
こんな絶景スポットで野宿できるなんて、贅沢にも程がある。

日没まで時間があるので、テントで寝っ転がって文庫本を読んで、腹が減ったら飯を食って…
キルギスとこれから向かうタジキスタンは山岳国家と呼ばれるくらい、国土の大部分を山脈が占めている。
こういう絶景でテントを張る機会が、この先にもあるだろうと思うと、とてもワクワクする。

(走行ルート:Son Kol南部→Moldo Ashuu Pass)

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