R.I.P〜Sarybulak南西8kmまで

Balikchi南15km~Sarybulak南西8km
8/8 (1001days)

普通、午前中は風が無くて午後になると風が強くなる…という地域が多いが、ここキルギスは夜明けと共に風が吹き始める。

しかも基本は西から東へと吹いているため、私の方角だとモロに向かい風となる。
おかげで下り坂なのに、一向にスピードに乗っていけない。

南米のアンデス山脈にあるアルティプラノ(高原地帯)を思い出すかの様な風景で、そこで何度も見かけたビクーニャ(鹿の仲間)がいないかと、思わず辺りを見渡してみる。

13キロほど走り、荒れた大地に突如として湖が現れる。
看板があり、Orto Tokoyという湖らしい。
荒野の灰色や茶色と対をなす鮮やかなコバルトブルーで、個人的にはイシクル湖よりも美しく感じる。

湖の端からは草原が広がり、家畜がその草を食んでいる。

11時半、Kochkorという町に到着。
これからソンクル湖へと向かうのだが、地図を見る限り食料を補給できるような町は湖の前後に存在しない。
ということで、Kochkorで食材を買い足し、そのままここで昼食をとっていくことに。

レストランでWi-Fiに繋いでみたところ、衝撃的なニュースが飛び込んできた。
自転車で世界一周を目指し、南米のペルーを走行していた日本人自転車旅行者が、トラックに轢かれて死亡した…という内容のものだった。
直接面識はないのだが、彼とはSNSを通して何度かコメントのやり取りをした事があり、知らない仲ではなかった。

どうやら事故から数日が経っているようで、ネットでは既に大きな騒ぎになっていた。
その中には彼を誹謗中傷するような内容があり、その事にも大きなショックを受けた。

異国の地で自分達と同じ血の流れる若者が亡くなったのに、何故中傷するような人がいたりするのだろう…?
も自分が同じ状況になったら、会ったこともない誰かが同じように私を中傷するのだろうか…?

昼食休憩を終えて出発してからも、しばらくはそのショックを引きずったまま走っていた。

今現在、自転車で世界一周をする人間は、日本人だけでもかなりの数で存在する。
その中で、一体何人の人間が、自分の死を覚悟しているだろうか。
少なくとも、私は一切自分の死を覚悟していなかった。
世界一周を達成し、日本へ帰り家族と再会するのを信じてやまなかったし、それを楽しみに走っている所もあった。

それが、今回のニュースで、「死」という物が現実感を伴って私にのし掛かってきた。
状況はわからないが、交通事故など自転車旅行者誰にでも起こり得ることなのだ。

走るのが怖い。両親、家族に会いたい。
そういう思いが急に湧いてきて、数日間頭からこびり付いて離れることがなかった。

道は渓谷沿いに続き、じわっと標高を上げていく。

キルギスでは、峠や上りのピークに動物の像が置かれていることが多い。
何か習慣や昔話みたいな物があるのだろうか。

Sarybulakという集落に16時に到着。
この集落から少し進むと、ソンクル湖に続く分岐がある。

ここでチャイ休憩を挟み、16時半に出発。

休憩以降はさらに少し標高を上げる。
うっすら緑を携えた山が美しい。

Sarybulakから走ること5キロ、ソンクル湖への分岐に到着。

ここから50キロ程で湖なので、明日には到着できるだろう…
という思惑は、分岐からいきなり始まる未舗装路と急斜面の坂に打ち砕かれる。

あまりに急斜面で立ち漕ぎをすると、タイヤが未舗装路にずるっと滑ってしまう。
これはエライとこにきてしまった…
上り坂はまだまだ先の方へ向かって伸びている。
明日に到着は無理かもしれない。

何とか上り坂を走り切ると、展望が開け、一本の道が谷の奥へ向かって伸びていくのが望むことができた。
ソンクル湖は、果てしなく伸びるこの道の先にあるのだ。
入り口でこんなに疲労困憊なのに、大丈夫だろうか…

この日は展望台の近くにあった丘に上り、その上でテントを張った。

夢半ばで亡くなったサイクリストに安らかな眠りがありますように。

(走行ルート:Balikchi南15km→Sarybulak南西8km)

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