地元民との付き合い〜Balykchy南15kmまで

BIshkek東104km~Balykchy南15km
8/7 (1000days)
日中は40℃近くになる夏のキルギスだが、昨夜は眠っている途中寒さで目が覚め、フリースを体に掛けた。
これがいわゆる放射冷却というやつだろうか。
昨夜は道路脇の草原に突っ込み、丘の影に隠れてテントを張っていたのだが、夕食から就寝するまでに、何故かその草原に突っ込んでくる車が何台かあった。
テントから顔を出して様子を見ていたのだが、どの車も人が降りてくる気配がなく、時間が経てばいつの間にかいなくなっていた。
ちょっと気味が悪かったのだが、テントを動かすのも億劫でそのまま眠ることに。
あまりに不気味に思ったのか、テントの天井メッシュ部分から人が覗き込んでくる夢を見て、叫んで飛び起きるという一幕があった。
いや、案外夢じゃなく現実だったのかも…夢にしてはあまりにリアルだった。
6時に起床し、6時半に日の出になるとあっという間に暑くなってきた。
さっさと朝食をすませ、7時半過ぎに出発。
昼間はちょっと殺人的な暑さになるので、午前中になんとか距離を稼がなければ。
そんな私の思いとは裏原に、強烈な向かい風が谷間の先から吹いてくる。
時速10キロほどでノロノロと進むことしかできない。
出発から20キロ進んだ頃にはもう暑くてヘロヘロで、レストランでコーラを購入。
コーラ一本で172ソムとちょっとお高いのは、ちょっと山のほうにやってきたからだろうか。
道は川の流れる谷間を通り、すぐ側には線路が通っている。
廃線なのかな?と思っていたら、まだまだ現役だったようで、四両車両の短い電車が私の後ろからやってきた。
客室からは手を振ってくれる乗客がおり、こちらも手を振り返す。
40キロ走り、分岐点に到着。
東へ向かえばキルギス最大の湖・イシククル湖へ、南へ向かえば秘境の湖・ソンクル湖へ。
私は欲張りなので、まず東へ向かってイシククル湖に行った後、ソンクル湖へと向かう予定。
分岐点でちょうどレストランがあったので、昼ご飯を食べていくことに。
親父さんにラグマン(中央アジア版うどん)を注文する。
出てきたのは汁が少なく、中華風冷麺のようで、これはこれで美味しい。
ラグマンと一緒にパンと牛乳っぽい飲み物も付いてきた。
牛乳だと思って飲むと、思わずむせ返る私。
ちょっと形容するのが難しいのだが、ミルクにピクルスなんかの酸っぱい漬物を混ぜたかのような味で、とても美味しいとは言えない。
これが中央アジアでクムスというやつだろうか?
一般的に飲まれる飲み物だというが、これはちょっと好きになれそうにない…
ラグマンを食べている途中、親父さんは肉じゃがの様な物を出してきた。
しばらくするとマンティ(中央アジア版餃子)、食後にはコーヒーまで!
お腹が苦しくなるくらい満腹になり、勘定してもらおうとすると、「旅行者からお金はもらわない」と、全てご馳走してくれた。
更には、「この先暑いだろう」と、レモネードまでお土産に持たせてくれた。
イスラム教には喜捨という教えがあると聞く。
自らの財を他人に与えることで、自分に良い形で返ってくる…という教えだ。
それに加えて、「旅行者をもてなす」という教えもあるらしい。
それにしてはこちらが恐縮してしまうくらい、たらふく食べさせてもらってしまった。
人に優しくしてもらった後は、ふっと涼しい風が心に吹き込んでくる様な、爽やかな気分になる。
そのおかげか、夏のキルギスの暑さも、レストラン以降はちょっと和らいだような気になってくる。
15時頃、イシククル湖の西端にある街・バルイクチに到着。
早速イシククル湖の辺りへと向かう。
しばらくして線路が通る突き当たりとなり、その向こうには広大なイシクル湖が広がる。
イシククル湖はロシアのバイカル湖に次ぐ世界で二番目に透明度の高い湖で、水深20mまで見通すことができるのだとか。
ちなみに水深は1,600メートルと、こちらは世界一の数字なのだそう。
線路から湖を眺めていると、中年の男が一人声を掛けてきた。
英語とロシア語を混ぜて会話をしてくるので少しは理解できるのだが、ちょっと酔っ払っているらしい。
私は写真を撮りたくて三脚まで用意しているのに、一向に話が終わらない。
いい加減鬱陶しくなり、「写真を撮るからどっか行ってくれ」と言って、ようやく去ってくれた。
やれやれと写真撮影をしていると、少し先が湖水浴場になっているらしく、そこでたくさんの人が泳いでいるのが見える。
折角なのでちょっと泳いでみようと、湖水浴場へ向かう。
ビーチに自転車ごと突っ込み、上半身裸になって湖へ突っ込む。
強い直射日光で焼けた肌にはちょうど心地良い水温。
ただ人が多すぎるからか、とても透明度高いとは言えず、どちらかというと濁っている。
イシククル湖は広大なので、もっと人がいない東部や南部の方へ行けば、水質も綺麗なのかもしれない。
しばらくプカプカと水に浮かんで、ビーチへと切り上げる。
もう十分イシクル湖は満足したので、ビーチを去ろうとすると、さっきの酔っ払いにまた出くわしてしまった。
酔っ払いはビーチの飲み屋で仲間と飲んでおり、その仲間もベロベロに酔っ払っている。
「ニーハオ、ニーハオ!」と鬱陶しい。
声を掛けられると無碍にできない性格の私なので、仕方なく酔っ払いどもの方へ行くと、「ウォッカを飲め」とコップを突き出してきた。
とりあえず一杯くらい飲んでさっさと去ろうとすると、また話が終わらずに去るタイミングが見つからない。
そうしているうちに、「仲間の中の一人が誕生日だから、ウォッカの瓶一本奢ってくれ」と言い出す始末。
更には酔っ払いの一人がタバコを吸ったまま近づいて来たものだから、私の手の甲にそのタバコの火が当たった。
「熱っ!」と手を引っ込めると、「ニーハオ」と言って謝ってきやがった。
ぶん殴ってやろうかと思ったが、何故かそいつの頭には私のヘルメットが乗っかっており、殴ればこっちの手が痛みそうだ。
というか、いつの間にヘルメット取りやがったこいつ。
折角昼ごはんの出来事でキルギス人に良い印象を持っていたのに、この酔っ払い共のせいで一気に悪印象になってしまった。
本当はバルイクチに一泊してイシクル湖を二日間堪能するつもりでいたのだが、もうさっさとバルイクチを出ていくことに。
バルイクチからローカル道を南へと進む。
ムカついて血が上った状態のまま、フラットな荒野を乱暴にペダルを踏み込んで進んでいく。
川沿いに野宿しやすそうな場所がいくつかあったのだが、「このイライラが鎮まるまで自転車を漕がないと、精神衛生上よくない!」と進み続ける。
しばらくすると川沿いを離れ、山を登っていく道に。
すると野宿できそうな場所は全くなくなり、今度は止まりたいのに止まれない状況に。
赤茶けた山が並ぶ火星の様な風景の中、なんとか野宿できる場所がないか必死で探すが、一向に見つからない。
19時前、日没ギリギリにようやく丘の影に突っ込んでテントを張ることができた。
テントを張って落ち着いてからもイライラが収まらない。
普通に観光やバックパッカーをしていると、地元住民とのコミュニケーションは客と店…という風にビジネスライクな関係が多いと思う。
自転車旅行はその性質上、人とのコミュニケーションがフラットな位置関係から始まることが多い。
そのため、お昼ご飯の時の様に清々しく良い思いをすることもあるし、嫌な思いをすることも多い。
これも自転車旅行の醍醐味…と言えばそうなのかもしれない。
こういう嫌な思いにも、ガハハと笑い飛ばせる余裕と男気を身に付けたいものだ。
(走行ルート:Bishkek東104km→Balikchi南15km)