世界ワーストの峠越え〜Koksarまで

Vashisht~Koksar
6/24 (956days)

遂に、遂に夢にまでマナリ・レーハイウェイに挑む時がやってきた。

思えば1年前、南米のアンデスですっかり高山地帯での走行に魅了されてしまった時から、マナリ・レーハイウェイに来ることは運命づけられていたのだろう。

アンデス山脈では人生で初めて富士山より高い標高に自転車で行き、更に4,000メートルを超え、そして遂には5,000メートルを超えるところまで自転車でいってしまった。

ボリビアにウトゥルンクという火山があり、その火口に続く道が標高5,700メートルまで続く。
この道が、車ないしは自転車で行ける世界最高標高の道とされている。
(※2017年当時は世界最高標高の道だと言われていたのですが、2018年に標高6,000メートルに達する道が発見され、欧米人サイクリストが走破したという英文記事あり)

標高5,000メートルで視界に入る風景は、全くの不毛の大地。
茶色い大地、深い砂が足元に広がり、周囲には私が立つ位置よりも更に高いアンデスの山々が聳え立つ。
耳に届く音は、吹き抜ける風の音だけ。

ー自分が今いる場所は、本当に地球なのだろうか?
薄い酸素のため、深呼吸の様な呼吸を繰り返しながら、何度そう思ったことか。

このウトゥルンクの道を走りきった時の感慨は、それはもう言葉では表せない程、心を揺さぶられる物があった。

ーまた再び、標高5,000メートルの世界へ。
そんな思いで一時帰国中、世界の高山地帯に延びる道を調べたところ、アンナプルナ・サーキットとマナリ・レーハイウェイへと行き当たった。

マナリ・レーハイウェイには峠が五つあり、その内の二つが標高5,000メートルを超える。
ボリビアとネパールで越えた過去二回の標高5,000メートル超えは共に、空身の自転車で挑んだ。
フルパッキングの自転車で挑むのは、今回が初めてだ。

やはり、一度はフルパッキングの自転車で標高5,000メートルを超えてみたい。
だからこそ、このマナリ・レーハイウェイにこれだけ入れ込んできたのだ。

朝4時前に起床し、6時にヴァシシュトを出発する。
目の前に聳える山に向かい、道は延びていく。

五つある内のまず一つ目の峠は、Rohtang La(ロタン・パス)。
標高は3,977メートル。
なお、現在そのロタン・パスにトンネルを開通させる計画が進行している様で、数年後には峠は四つになるかもしれない。

ヴァシシュトから走り始めてからしばらくは、ほとんど標高差を感じさせないくらい緩やかな傾斜で進んでいく。
路肩にはスキーウェアレンタルや、パラグライダーの受付の店がずらっと並んでいる。

しばらくして、ようやく山道らしい傾斜と九十九折が始まる。
それと同時に風景もダイナミックになり、ノルウェーで走ったトロールスティーゲンに似た、素晴らしい景色が続く。

走ること34キロ、10時半過ぎにMarhiと名付けられた地点に到着。
標高は3,180メートル。
ここにはレストランが数軒あり、ここで昼食休憩を取っていく。

当初予定だとこのMarhiで野宿し、翌日にロタン・パスを越えようと思っていた。
ただ順調に進みすぎて、野宿するにはあまりに早い時間。

距離的にも余裕で行けそうなので、ロタン・パスをこの日中に越えてしまうことに。

上るに従って道が狭くなる箇所が出てきた。
そして、時折渋滞が発生しており、進む気配がない。
こういう時、自転車は脇をすり抜ける事ができるため気楽だ。

崖崩れか事故でもあったのかなと思いつつ、いざ渋滞の先頭まで行ってみると、先頭の車がただ休憩のために停車していて、それに釣られるように後続が停車して渋滞が発生しているという間抜けっぷり。

雪解け水が道にまで流れてくるためか、道路状態が悪くなることも出てきた。
そして再び発生する渋滞。こんなに交通量が多い峠は初めてだ。
進まないのが分かっているのに、無駄に鳴らされるクラクション。無茶な割り込み。黒く臭い排気ガスと、非常にストレスが溜まる。

山に積もる雪の白が黒く汚れているところに、インド車の吐き出す排ガスがどれだけ汚染されたものか、よく分かる。

標高3,500メートルくらいから、残雪が道路上にも現れ、時には2メートルくらいの高さになることも。

そして遂に到着したロタン・パス頂上付近。
これがもう、この世の地獄の様な大渋滞。
自転車でも脇を抜けられないくらい、ギチギチに詰まっている。

そして大渋滞の脇では、スキーウェアを着たインド人達が、ソリで遊んだり雪合戦をして遊んでいる。
そう、ここまでこの峠が交通量が多いのも、ロタン・パスはインド屈指の雪遊びスポットであり、インド人が挙ってやってくるのだ。

インド人達は嬉しそうに雪を手にすくって写真を撮っているのだけれど、その手にある雪があまりにも汚い。
よく、こんな排気ガスで薄汚れた雪で遊ぶ事ができるな…。

全く進まない大渋滞に、イライラゲージがドンドンと溜まっていく。
そして悪いことに、なんと雨が降り出してきた。
雨はかなり強い勢いで、慌ててレインウェアを着込む。
イライラゲージは満タン、溢れ出んばかりに。

もう我慢できず、無理やり渋滞をすり抜け、ようやくロタン・パスに到着。
モニュメントがあるのだが、その前には路駐する車、捨てられた大量のゴミ。

モニュメントの写真を撮るためには、ゴミの浮いた水溜りを行くしかない。
靴まで履く時間はなかったので、サンダルのままだった足を、その水溜りに踏み入れる。
ヘドロの様にグニュグニュしていて、足はあっという間にゴミで黒く汚れた。

自転車で必死に登ってきて、こんな仕打ちが待っているなんて。
これまでいくつもの峠を越えてきたけど、嬉しさや達成感を感じさせない峠はこれが初めてだ。
怒りを通り越して、呆れや惨めさを感じさせる。

写真だけ撮影すれば、もう用はない。
こんな汚い峠には、1秒たりともいたくない。

しかしロタン・パスでの渋滞やゴミの投棄なんて序の口で、この先の下りがほんとうの地獄だった。
下りは未舗装路で、雨と雪解け水により泥川と化している。

自転車も体もドロドロ、そして標高3,000メートルで降る雨
あっという間に体を冷やし、凍えんばかりに。
こんなに苦しんでいる私に、車上からカメラを向けてくる糞インド人共。
渋滞は発生させるわ、峠は汚すわ、人をイラつかせるわ、この時ばかりは蹴り飛ばしてやろうかというくらい怒り狂っていた。

そしてこの泥により、ブレーキシューはあっという間にすり減り、ブレーキが前後全く効かない状態に。
こうなったら自転車には乗れない。
降りて、手と足で踏ん張って重さ50キロになる自転車を支えながら下っていく。

16時半、疲労困憊の濡れ鼠状態で、Koksarという集落に到着。
ホテルがあり、1,000ルピーで投宿。

ホットシャワーがあるのが救いで、凍えた体を急いで温めるも、痺れた手足の感覚が元に戻るのに随分な時間が掛かった。

今日の出来事は、この3年間の旅行でも最低で最悪の出来事だった。
これが、私が夢見てきたマナリ・レーハイウェイなのか…
この先も、こんな酷い状況が続くのか?
このまま進んでも、楽しいことなんてないんじゃないか?

急速に醒めていく自分がいた。

(走行ルート;Vashisht→Koksar)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です