インド人を右に!〜Dhampurまで

Rudrapur→Dhampur
5/30 (922days)
昨日はインドの良い面と悪い面、両方を見せられた1日だった。
良い面は、予期していなかった程に親切な人々の存在。
悪い面は、予想以上にゴミの溢れるインドの街。
その両方ともが余りに強烈な出来事であり、ギャップの大きさに昨夜眠る前には少々気疲れを感じる程だった。
それでも昨日感じたインドの面には他に、路面状態が非常に良い、という点がある。
これは入国前にイメージしていたインドとは全くかけ離れた物で、てっきり未舗装路のガタガタ道を走らされるものとばかり思っていた。
インドの端っこの辺りですらアスファルト舗装されているのだから、これからもアスファルト舗装はされているだろう。
やれやれ、走行という事に関してはインドはストレスに感じることはなさそうだ…
そんな快適な自転車走行の幻想は、出発早々から打ち砕かれることになる。
アスファルト舗装は続いているのだが、逆車線へと侵入してきて逆走してくるバカな車の多いこと。
しかもその逆走してくるバカが「俺様が通るんだからお前が避けろ」とばかりにクラクションを鳴らしてくるのだから、頭にくる。
その昔、テレビゲームにまだ攻略本という概念が存在していた頃。
あるレースゲームの攻略方法が雑誌に掲載された。
その攻略記事には、「くお〜!!ぶつかる〜!!ここでアクセル全開、インド人を右に!」という、謎のアドバイスがゲーム画面の写真付きで紹介された。
これは、手書き原稿の「ハンドル」を、「/lンド/レ」→「インド人」と読み間違えた事による誤植であり、ゲーム攻略本好きには一種の伝説となっている。
インドは日本と同様、左車線。
逆走してくる車に対し、「インド人を右に!」と何度頭の中で唱えた事か。
生涯で一度も使いそうもない言葉ということで笑っていた誤植ネタを、まさか実際に使う日が来るなんて。
そして一度小さな町へと入ると、道もそれに合わせて狭くなる。
その狭くなった道には、水道管に詰まるゴミの様に、人が密集して軽い渋滞が発生する。
そんな状況で、スクーターが「俺様が道路上で一番偉いんだぞ」とでもいう様な態度で、バカみたいな速度で突っ込んでくるという有様。
これまで訪れた国でいうと、中国がダントツで運転マナーの悪い国だと思っていた。
南米は運転マナーは悪いけれど、信号は守っていたような記憶がある。
中国は南米を越えてマナーが悪く、信号無視は当たり前。
インドはその中国さえ飛び越えて、信号無視は当然、逆走も当然、進行に邪魔な奴は轢き殺しても構わないという運転をしてくる。
ちょっとこれまでの国とは一段階、いや三段階くらい運転モラルが低い。低すぎる。
そしてそんな運転モラルの低い中にあっても続いていたアスファルト舗装が、突如として未舗装路に変わるという惨事に。
自転車は跳ね上がる程の凸凹の酷い状況で、常に前方の穴に注意を向けながら走らなければならない。
それに加え、後ろから車間距離も開けずに追い越してくる車にも注意を払い、前方から逆走してくる車にも注意を払い…
路面状態の悪さに比例するように、通過する町並みも酷い有様に。
町中にゴミが溢れ、ヘドロ状となったそれからは悪臭が漂う。
ヘドロの山では、豚が嬉しそうに顔からゴミに突っ込んで遊んでいる。
まさかこのヘドロの山で育った豚を、インド人は食っているのだろうか…
カンボジアで一緒に走ったインド人サイクリスト・サルーンが、「インドでは肉を食っちゃダメだよ、腹を壊すよ。」と言っていた理由がよくわかった。
いや、これを見て肉を食おうなんて思える人間がいるのだろうか?
酷い道を60キロ走り続け、昼食休憩。
道路上にポツンとあるレストランで、カレーを注文。
100ルピー(150円)と安く、味はチーズが入っているのか、まろやかで美味しい。
今日の走行ではインドの悪い面ばかりが次々と見えてくるけど、ご飯は美味しいのが救いだ。
インドには誰もが一度は耳にしたことがあるであろう、ガンジス川という有名な大河が流れている。
ガンジス川は全長2,525キロと広大な流域を誇る大河で、今まさに私はその本流にあるヒンドゥー教の聖地・Haridwar(ハリドワール )を目指して走っている。
そこへ向かって走っている今も、そのガンジス川の支流なのか小さな川がいくつかある。
面白い事に、その川に架かる橋の側には高い確率でヒンドゥー教の寺院が建てられている。
ちょっと大きめの寺院があり、巨大な像があって面白そうなので見学していくことに。
声を掛けてくれた地元の親父が、この巨大像はシヴァ神だと教えてくれた。
シヴァ神といえば、ヒンドゥー教の三大神の一体であり、破壊を司る神だ。
他にもたくさんの像が並んでいたが、何の神なのかは全く分からない。
ただ余りにもデザインが奇抜で、見ているだけでも結構面白い。
宗教の芸術作品は、大抵がその教義や神話の内容を大衆に分かりやすく表すために作られており、作者自身は大真面目に作っているはずである。
それが異教徒の人間から見れば全く意味不明で、時には思わず笑ってしまうほど、面白おかしい作品だと眼に映ることがある。
これはラオスにあったブッダパークでも感じた事で、作者が真剣であるからこそ発生する面白さであろう。
インドの場合、宗教作品以外にも見ていて意味不明な物を見かける機会は他にもある。
この地域では、トランペットを大量に付けた押し車をよく見かけたが、ついぞこれが何に使われるのか分からなかった。
路面状態は午後を過ぎても変わらず悪いまま。
工事しているんだかしていないんだか、工事している人間も作業車も見かけない。
この悪い路面状態が、今後改善されることはあるのだろうか。
悪路にイライラし、キレかけたタイミングで路肩に生搾りジュースを売っている屋台があったので、そこで小休止。
注文するとその場で絞ってくれるので、フレッシュでとても美味しい。
悪路と最悪のドライバーマナーもこれを飲めばすっきり忘れられる!…ということはないけれど、ふぅっと一息付く事ができる。
この日の後半は、そうしたフルーツジュースやサトウキビジュースの屋台が多く、屋台からは「お〜い、ジュース飲んでけ!」と声を掛けられる事が多い。
そんな声にホイホイ釣られ、ついつい立て続けに二杯も飲んでしまった。
この日117キロを走り、17時にDhampurの町に到着。
700ルピー(約1,070円)のホテルに投宿したのだが、Wifiがない。
昨日のホテルも同じ値段でWifiがなかったので、もしかしたらインドはネット環境が思った程良くないのかも…
ネパールですら安宿にWifiがあったので、ネットで苦労するとは思ってもいなかったのだが。
Dhampurは小さな規模の町なのだが、町の奥の方はその区間全体が市場の様になっており、活気がある。
歩いているだけでも、インド人の生活が垣間見える様で面白い。
晩ご飯はレストランでターリー。
ターリーというのは定食という意味らしく、カレー数種類にナンとチャパティが付くことが多い。
私はチャパティという食べ物を知らなかったのだが、ナンもチャパティもパンの一種で、ナンは発酵させたもの、チャパティは発酵させてないものらしい。
インドの料理はサイクリストの中では賛否が分かれるのだが、私は相性が良いのかとても美味しく食べられている。
(走行ルート:Rudrapur→Dhampur)