欲望の解放のしかたが下手〜Mahendranagarまで

Bhalubang~Mahendranagar
5/25~5/28 (917~920days)
5/25
正午過ぎからの地獄のような暑さに対する策として、昨日は5時前に起床した。
涼しい午前中にできるだけ走行距離を稼ぎたいという、なんとも涙ぐましい理由である。
今日はそれよりも更に早い、4時半起床だ。
7時には気温が30℃に達するネパールでは、早起きは三文の徳どころか、六文十文にもなる。
まだ日の出前だが外を見るため、宿のバルコニーへと向かう。
宿の前の通りは薄暗く、まだ視界もはっきりしないのだが、その暗がりの中で何かが動いている。
寝ぼけ眼をよく凝らして見てみると、たくさんの人が横一列に並んで通りに腰掛けているようだ。
バスでも待っているのか?と思い、更によく見てみると、茣蓙(ござ)を敷いて野菜を並べている。
どうやら青空市場として野菜を売っているようだ。
こんな朝早くに野菜なんか買いに来るやつなんていないだろ…
実際、まだまだ暗いこの時間に客の姿はほとんど見られない。
それが、少しずつ空が白み始めると徐々に客が来るようになってきた。
なるほど、暗いうちから商売に有利な場所を確保していたのだろう。
この日は6時半に出発。
目指すべき国境の町・マヘンドラナガルまでは300キロ。
7時にはやはり暑くなり始め、汗が吹き出始める。
黙々と62キロを走り、到着した集落で昼食休憩。
ここでもダルバートにはヨーグルトが付いてきたのであり、どうやらこの辺りの地域の食文化になるようだ。
昼食後はそのまま定食屋の席で15時まで昼寝させてもらった。
こんな暑さじゃ、真面目に汗をだらだら流しながら走ってると馬鹿を見るどころか、三途の川まで見ちゃいそうだし。
長い昼寝を終えて再出発すると、程なくして国立公園のゲートに到着。
今走っているのは立派な国道なのだが、国道はその国立公園の中を突っ切って通されている。
車はゲートで停まり、軍人によるチェックがあるけれど、自転車はスルー。
国立公園内には野生動物がわんさかいるらしく、そこかしこに虎出没注意の看板が立てられている。
国道を走っていたら強制的にサファリパークに突入させられたのであり、私だってこんな所走りたくないけれど、これしか道がないのだから仕方ない。
国立公園にはなっているが、その敷地内には普通に人々が暮らしている。
走っているとよく声を掛けられ、「暑いだろ、これでも飲んでけ!」と、有難いことにコーラを振舞ってくれたりする。
そんな彼等に「今日はどこで寝るんだ」と尋ねられ、「そこらの森でテントを張るよ」と答えると、「虎が出るから、悪いこと言わないからもう少し先にある集落で寝させてもらえ」という。
いかに国立公園といえど、大型トラックがばんばん通るこの国道で野生動物が出てくるとは俄かには信じがたいのだが…地元の人間がそう言うなら出てくるのだろう。
忠告通り、集落というかレストランを営んでいる家族がいるところまで走り、その脇でテントを張らせてもらうことにした。
5/26
カトマンズで作った保存食、植村味噌をオカズに朝食を食べて出発。
作ってから1ヶ月近く経っているけど、全然平気で美味しく食べられる。
相変わらず虎の生息地らしいのだが、見かける動物はといえば、猿くらいなもの。
猿は警戒心が強く、写真を撮ろうとするとすぐに奥の方へと逃げてしまうため、撮影するのが難しい。
ただひたすらに直線の道を進む。
しばらく走ると国立公園を抜け、その後も写真を取ることなく50キロ走り、11時過ぎにKohalpurの街に到着。
ポカラからはインド国境まで休養日を当てずに走り続けるつもりなのだが、それでは余りにもきついので、半日だけ休養に当てることにした。
もうすっかりヒンドゥー教圏なのだが、チベット料理のモモがまだ出てくる。
5/27
この日はまた新たな国立公園へと道は突入。
先日通った国立公園よりも森が深く、ここでなら動物が出てきてもおかしくはない雰囲気を感じる。
実際、川にはワニがいたりして、「これは象なんか見れたりするんじゃないの!?」と少し期待しつつ走っていく。
しかし残念ながら他の野生動物は見られず、見るのは蟻塚と、あまりの暑さに自然発火を起こした森林だけ。
朦朧とする暑さに加え、この日は生憎の向かい風。
厳しい環境の中を進んでいく。
あまりにもしんどくなり、途中で見つけたホテルで泊まろうと思ったのだが、何故か宿泊拒否に遭う。
別に繁盛しているわけでもなさそうだったのだが…
この先に宿があるとは思えず、結局この日115キロ走った所で森の中で野宿。
虎なんてないさ、虎なんて嘘さ。
だけどちょっと だけどちょっと 僕だって怖いな…
5/28
前日の頑張りのおかげで、国境の町・マヘンドラナガルまでは残り90キロ弱。
この日も5時前に起き、6時半には出発する。
道いっぱいに広がる牛達の間をすり抜け、マヘンドラナガルまで一直線に延びる道を、無心でペダルを踏み込む。
昼飯は屋台でバナナを買って済ませ、ひたすらに進む。
今はとにかく、ただ早くマヘンドラナガルに到着したい。
写真なんてどうでもいい。ただ早く休みたい。
この街ですべきことは、残ったネパール通貨の消費。
ポカラ以降、思った以上にお金を使わず、2,000円近くの現金が残ってしまった。
2,000円といえばネパールでは大金であり、マヘンドラナガルでは豪遊するんじゃ!ということを毎日考えて、ここまでやってきたのだ。
まずは晩ご飯。
普段は入らないような高級な佇まいの店に入り、高級カレーを頼む。
何でカレーなのよ…と思うかもしれないが、生憎とこの街には中華料理屋もステーキ屋もない。
結果、普段食べている物のちょっとグレードの高い物…という、ビミョーな贅沢。
お次はスイーツ。
ホールケーキでも買ったるか!と思ったのだが、そんな小洒落た店はなく、そこら辺の小さなパン屋で小さなケーキを購入。
お値段100円にも満たない、小さな贅沢。
ほんなら明日の朝食を豪華にしよう!
いつも朝食は、決まって玉ねぎとジャガイモの入ったラーメンである。
欲望の解放のさせ方がへた…そんな言葉が聞こえてきそうだが、この街には贅沢できるようなレストランも施設もない。
酒池肉林の時間を楽しむ…という目論見は外れてしまった。
そもそも論、日本でさえ金を使って遊ぶ事なんてほとんどした事がない人間が、急に金を使って遊べ…となっても土台無理な話なのだ。
金を使うのも大変なんだな…と、ちょっと大人になった気がしたネパール最後の夜。
(走行ルート:Bhalubong→Kurm西10km→Kohalpur→Lamki西10km→Mahendranagar)