暑い!〜Bhalubangまで

Pokhara~Bhalubang
5/22 (914~916days)

5/22
アンナプルナサーキットを走り終えた今、ネパールでやり残したことはない。
ネパールの次は、いよいよインドだ。

インドのビザは、取得のためにパスポートを提出した時点でカウントが始まってしまう。
カトマンズで90日間のビザを取得したのだが、既に20日以上を消費してしまったことになる。
そして私が越えようとしているマヘンドラナガル の国境は、ネパールの西の端に位置している。
ポカラからは頑張って走っても1週間は掛かるだろう。

今から思えば、アンナプルナサーキットを終えてから身体だけバスでカトマンズに帰り、休憩がてらビザを取得すれば良かった。
まぁ、今から言っても後の祭りなのだけれど。

そういう事情もあり、可能な限り早くネパールを出国すべく、頑張って走らなければならない。

頑張って走らなければならないのだけれど、アンナプルナサーキットの燃え尽き症候群か、ボーッと意識がはっきりしない状態が抜けない。
そりゃ、この自転車旅行でも一二を争う刺激的なルートだったわけで仕方ないのだけれど、事情が事情だけにさっさと切り替えないと。

ポカラからはだらっとした上りが続く。
久しぶりに乗る、フルパッキングの自転車。
バックパックを背負っての走行とは使う筋肉が違うのか、腰が痛くなってくる。

カトマンズの近くで会ったイギリス人サイクリスト曰く、ポカラ以西は舗装状態
悪いということだったのだが、全然問題なく走れるのは助かる。

標高1,200メートル程まで上り、そこからは一転下りに。
棚田がそこかしこに作られており、ともすればベトナムよりも多いんじゃないか?というくらい。

ネパールといえばエベレストをはじめとしたヒマラヤ山脈のイメージが強い。
荒涼とした土地であると訪問前は勝手に想像していたため、今見ている景色は全く予想もしていなかったネパールの姿だ。

ネパールでは米が主食というのも、全くイメージしていなかった事実だ。
インド料理といえばナンであり、隣国ネパールもきっとそうだろうと思っていた。
さっき見かけた棚田では、恐らく米が育てられているのだろう。

そしてもう一つ意外だったのが、ネパールの人は人懐っこいということだ。
「ネパール人はシャイだ」と、誰かから聞いた記憶があったのだが、とにかくよく声を掛けられる。
「どこから来て、どこへ行く?」という定番の話をしたり、中には「写真撮ってくれ!」なんて言ってくる若者もいたりする。

5/23
前日はWallinという町まで進んだ。
標高700メートルから、この日は標高470メートルの谷底へと下るところから始まる。

川に架かる橋を渡ると、そこから再び長い登りが始まる。

走っている最中、現地の子供たちがよく声を掛けてくるのだが、結構な頻度で「ギブミーチョコレート!」とお菓子をせがんでくる。
最近では行動食を持たないため、彼らにあげられる食料はないのだが、それにしても微笑ましい。

これまで走ってきて、中南米などの貧しい国では「金をくれ」とせがまれることは少なくなかった。
やはり、金をせがまれるとこちらとしてもムッとしてしまい、いい気はしない。
あぁ、彼等の目はこちらを向いてるけど、彼等には私の顔なんて金にしか見えてないんだろうな、と。

それに比べ、ネパールも経済的に豊かではないが、求めてくるものがお菓子というのは、可愛げがある。

谷底から始まった上りは標高1,100メートルまで達した。
その後は再び長い下りとなるのだが、道の状態が悪くなり、大型トラックもそこを通るものだから砂埃が巻き起こる。

たまらずマスクを引っ張り出し装着するのだが、汗で蒸れてとても気持ちが悪い。
結局、時折マスクを外して大きく深呼吸する羽目になるのだから、その時に思いっきり汚い空気を吸い込んでそうで、マスクの意味が果たしてあるのか…

後半の悪路が響いてあまり距離は伸びず、この日はButwalという街でホテルに投宿して終了。

5/24
ポカラから走行を再開して3日目。
この日は5時前に起床し、7時には出発する。

何故そこまで早起きをして進むのかというと、もちろん早くネパールを出国したいというのもあるのだが、午前以降は暑くてやってられない…というのが大きな理由だ。

できるだけ早い、涼しい時間帯に走行距離を稼いでおこうということで早めに出発したのだが、この日は7時の時点で30℃は優に越えているであろう暑さ。

道は前日までの山道とは打って変わり、ひたすらに平坦な道が続く。
暑さを除けば、距離を稼ぐには打って付けだ。

10時頃には45キロを走り切ることができた。
私の場合、一日の走行距離は100キロを目安にしている。
正午までに50キロを走れば、昼休憩を挟んで後半にもう半分を走れば、ちょうど100キロに達する…というイメージである。

その基準でいうと、この日は随分と余裕がある。
このまま午前中でもっと距離を稼ごうと思ったのだが、ふと路肩にラッシー屋台があるのが目に入った。

ラッシーとは、牛乳とヨーグルトを掛け合わせたインドを代表する飲み物で、日本でもほとんどの人が知っているだろう。
日本にあるインド料理屋に行けば、チキンカレーにバターナン、それにラッシーを注文するというのは超王道である。

ネパールもインドと食文化は共通しているだろうから、ラッシーはそこらで飲めるだろう…と思っていたのだが、それがほとんど見かけない。
カトマンズでラッシーを飲んで以降、全く見かけることがなかった。
まぁ、私が単純に見つけられなかっただけかもしれないが。

屋台でラッシーを一つ注文し、木陰で座って出来上がりを待つ。
女将の背後から調理を見守っていると、銀細工のポットに何かを入れ、ゴリゴリとすりつぶしているようだ。

数分後、出来上がったラッシーには表面に赤い果物の果実が添えられている。
飲んでみると、牛乳とヨーグルトが絶妙なバランスでとても美味しい。
日本の飲むヨーグルトに似ているが、さらに下に絡みつく濃厚さを備えている。

ほのかに、ナッツと思われる物がふっと後味として口に残る。
女将がすりつぶしていたのは、ナッツ類なのだろう。

コップ一杯と言わず、1リットルのペットボトル一杯に持ち運びたくなる。

その後もひたすらに平坦な道が続く。
両脇には木が茂り、この分なら野宿だってし放題だろう。
そして木がちょうど木陰を作ってくれるため、この日は思っていたよりかは暑くならない。

木陰が切れると途端に体感温度は上昇し、ブワッと汗が噴き出す。
家畜にもこの暑さは堪らないのだろう、水牛が水浴びをしているのをよく見かける。

しばらく行くと分岐が現れる。
そこを左折するとルンビニ、という街へと道は続く。
このルンビニは仏陀の生まれ故郷であり、聖地として世界遺産にも登録されている。

ちょっと見ていきたい気持ちもあったのだが、ここはスルーすることに。
インドでは走りたい道がいくつかあるのであり、貴重なビザの日数をここで消費したくない。

11時過ぎ、65キロを走って昼休憩に。
適当な定食屋に入り、鉄板のダルバートを注文する。

ダルバートは主食となる米、それにおかずとなるカレー、豆などの野菜が一つの皿に盛られている…という形で出てくるのがこれまでの普通だったのだが、ここではヨーグルトが別皿で付けられてきた。

ほほう、デザートとは気がきくね。
そう思って食べていたのだが、店の親父が「おめーダルバートの食い方知らないのか?全部混ぜて食べるんだよ!」と教えてくれた。

それまで私はおかずを口に入れ、そして次に白米を食べる…という食べ方をしていたのだが、それはどうやら間違った食べ方らしい。

親父が言うように、米もカレーも野菜も、それにヨーグルトも混ぜ合わせてみる。
見た目はぶっかけ飯であり、非常に見た目は悪い。
しかし食べてみると、それぞれ味が分離することなくしっかりと調和しており、いつもより美味しく感じる。

親父に「美味しいよ!」と親指を突き立てると、満足そうに微笑んでくれた。

飯を食った後は、しばらくすると登りが始まった
この上りがダラっと長く続く。

変わらず道の脇には茂みがあるのだが、流石に正午も過ぎると木陰だけでは誤魔化せないほど、気温が上がってくる。
上り坂で運動強度が上り、体温も上昇しているため体感する暑さは相当の物だ。

あまりの暑さに立ち止まって小休止を掛けると、くらっときて吐き気も少しする。
どうやら熱中症の一歩手前らしい。
調味料袋から塩を取り出し、掌に撒いたそれをチラチラと舐める。
汗から失われた塩分を、なんとか取り戻そうという苦肉の策だ。

そして途中、気になる看板が路肩に立てられているのが目に入ってきた。

おいおい、鹿はいいとして虎が出るのかよ…

北米ではグリズリーや黒熊に注意!なんて看板がたくさん見かけたし、実際に黒熊には何度も遭遇した。
実際に見る黒熊は意外と小さくて、それに当時はベアスプレーも持っていた。
最初こそ恐れてはいたが、その内に慣れてしまい、遭遇しても特に恐れを感じることはなかった。

それが、今度は虎だ。
動物園で見たことはあれ幼少期の事であり、その姿を思い浮かべてみてもピンとこない。
それに今は武器となるものなんて持ち合わせていない。

ただ、流石に今走っている道は国道で交通量も多い。
大型トラックだって通過する様な道だ。
そんな道には野生動物は来ないでしょ〜、と、出ないものと決めつけて先へと進んでいく。

午前中のペースでいくと、この日は120キロくらい走れるんじゃ?と思えるくらいだったのだが、正午から本気になった暑さはますます厳しくなる一方。
たまらず途中バス停の日陰に避難し、30分ほど昼寝をし、結果この日も100キロ進んだBhalubangの町で終了となった。

虎は別に問題じゃないけど、暑さだけは敵わんな〜

(走行ルート:Pokhara→Galyang Bazar→Butwal→Bhalubang)

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