5,416M〜 Thrung PassからMuktinathまで

HIgh Camp~Muktinath
5/15 (907days)

5時前に目が覚める。
もう外は明るいようなのだが、窓の外の景色は白くてはっきり見えない。

外の気温が寒くて気温差で窓が曇っているのかな?
そう思って外に出てみると、地面には薄っすらと雪が積もっているではないか。

昨日の正午からハイキャンプは雲に覆われて天気が優れなかったのだが、まさか雪が降っていたとは思いもしなかった。

この日はいよいよ最高到達点であるトロンパス(標高5,416メートル)に挑む日であり、是が非でも雲ひとつない晴天で頂上に立ちたかったのだが…

そもそもハイキャンプの標高で雪が積もっているなら、頂上なんてもっと積もっていて進めないんじゃないか?

もう少し天候が良くなるまで待とうかと思ったのだが、この天候でも他のトレッカー達は続々と出発していく。
ほとんどのトレッカーはガイドを付けており、これから天気が好転するとのガイドの判断なのだろうか。

そういうわけで、私も朝食をとって5時45分に出発することに。

案の定、コース上にも雪が積もっており、場所によっては踝(くるぶし)くらいまである。

積雪それ自体には問題がないのだが、トレッカーの数が多くて場所によっては渋滞が起きるレベル。
そして、先発隊のトレッカーにより踏み固められた雪が氷上になり、非常に滑りやすい。
人一人しか通れない狭い道で、後ろで列ができているのに立ち止まって写真を撮るマナーの悪いトレッカーもいたりして、かなりイライラさせられる。

それでもまだエベレストトレッキングよりかは人の数も少ないし、ほとんどの人がマナーはいい。

進むにつれて徐々に雲は晴れだし、雲の隙間から太陽が姿を現した。
早朝はかなり寒かったのだが、日が差すと途端に気温は上がり、体にも元気が湧いてくる。

やはりこのアンナプルナサーキットを自転車で、というのは珍しいのか、数多くのトレッカーが声を掛けてくる。
全員が好意的で、「クレイジーだな!頑張れよ!」という旨の事を言ってくれる。
その言葉からも力をもらう。

自転車はほとんど押しているのだが、時折斜度が緩くて道幅が広いところがあり、そこでは乗ることができる。

私にとって雪上走行というのは人生で初めてのこと。
自転車で乗れるのは、それぞれが精々50メートルくらいにしか満たない距離なのだが、それでもやはり気分は高揚する。

未経験の事を体験する、というのはどんな事でも嬉しい事だ。
それも、初めての雪上走行がヒマラヤ山脈の標高5,000メートルで…なんて、自転車旅行者冥利に尽きる。

ルートの傍にある雪が凍りつき、トゲの様に逆立っているのを時折見かける。
恐らくは下から吹き上げる強風によって雪が巻き上げられ、そのまま凍りついてこのような逆さ氷柱のようになるのだろう。

触ってみると、ガチガチに凍りついている。
うっかり足を滑らせてこの上に落ちたら、大怪我間違いなしだ。

そしてこの逆さ氷柱が、時折ルート上に侵食してくるようになった。
先発隊が作ったのだろう、人一人通るのも厳しい狭さの道が、氷柱を貫いて延びている。

氷柱は膝の高さに達することもあり、そんな時は自転車を肩に担いでもタイヤが氷柱に接触してしまう。
頭の上に自転車を載せて進んでいくのだが、これが本当にしんどい。
どれだけ腕が疲れても頭が痛くても、自転車は下ろせないし、進むしかない。
疲れを通り越して痺れる腕に、「もう少しだから保ってくれよ」と再び力を入れ直して喝を入れる。

こんな氷柱地帯がひとつだけじゃなく、いくつも現れる。

そんなきつい道のりも、辛いとは全く思わない。
ちょっと足を止めて小休止がてら、目の前に広がる絶景を見れば、辛さなんて一切吹き飛ぶ。

3年間自転車で走り続けており、色んな絶景をこの自転車と共に見てきたけれど、このレベルの絶景は中々拝めない。


雪化粧の中を黙々と歩いていくと、前方にタルチョがはためき、たくさんの人がいるのが見えた。
間違いない、あれがトロンパスの峠だ。
ゆっくり、ゆっくりと、しかし着実に大きくなってくるモニュメント。

そして遂に、トロンパスに到達!
時刻は8時半、標高は5,416メートル。
峠としては、自転車で超えた最高標高になる。

普段、峠を越えて達成感を感じはしても、そこまで大きなものでもないが、このトロンパスはやはり特別だ。
トレッカー達も祝福してくれ、記念撮影を撮ったりしてちょっとしたお祝い事だ。

本当にやった、やった!

東京板橋宿区の自転車店、ジラフで生まれた愛車・クッキーモンスター号。
フレームサイズからパーツから、全て私のために作られた世界で一台しかない自転車。

この愛車が私の手元にやってきた時、私はこいつを世界で一番幸せな自転車にしてやるんだ!と決意した。
自転車にとっての幸せとは何か?それは、困難な道だろうが諦める事なく走破し、その先にある絶景を見せてやることだろう。

これまでの3年間も、私の無茶な走りにも壊れることなくたくさんの絶景へと導いてくれた。
そしてまたこの日、こいつとこの絶景へとたどり着き、新たな思い出を作れた事を私は本当に嬉しく思う。

トロンパスで何枚も何枚も写真を撮り、9時になってようやく下山開始。

本来は峠を越えた先にはダウンヒル、すなわち下り坂が待ち受けており、自転車乗りにとっては最高のご褒美だ。
私が山岳地帯走行が好きな理由の一つに、ダウンヒルももちろん含まれている。
長い下り坂をペダルを一切漕がず、風を体全体に浴びて下るのは一度経験すると病みつきになる快感だ。

しかし、このトロンパスでのダウンヒルは、登りよりも辛い。
大きな石が転がりとても自転車には乗れない上に、ブレーキを握力いっぱいに握っているのに、押している自転車が滑る程の急斜面。

下りだから体力的には楽勝だろうと思っていたのだが、大きな間違いだった。
滑らないように膝に力を込めて踏ん張る上に、自転車を支えるために上半身もフルに使う。
全身を常に力を入れている状態で、片時も気を抜けない。

さらにキツイのは、道中に一切商店もレストランもない事だ。
どれだけしんどくても、ジュース休憩も食べ物も摂取できない。
行動食のスニッカーズは、トロンパスで全部食べきってしまった。

トロンパスから降って最初の集落は、標高3,760メートルのMukutinath(ムクティナート)。
今どれだけ下ったのだろうと、手元の高度計を見る。
高度計は標高4,800メートルを指し、まだまだ先が長い事を思い、余計に疲労感を覚える。

標高4,300メートルにようやくレストランが現れたが、もうこの時点で疲れ果てていた。
昼食休憩を入れるともう動けないと判断し、そのまま止まらずに先へと進むことに。

頭にモヤが掛かったようにボーッとする。
高山病の症状は下山中に現れることもあるらしく、それが今出ているのかもしれない。
疲れと重なり、ほとんど無意識に近い状態で下っていく。

結局トロンパスから一切自転車に乗ることなく押し続け、12時頃にようやくムクティナートの町が見えた時は心底ホッとした。

町に入ってびっくりしたのが、チベット系の人はほとんどおらず、ヒンドゥー系の顔付きの人がほとんど。
トロンパスを境にして、ここまで文化圏が変わるのかと驚いた。

ムクティナートにはホテルが多く、適当な宿に投宿。
300ルピー(300円)でwi-fiもあるし、ホットは出ないけど部屋にシャワーもあり、ようやく文明社会に帰ってこられた。

相当に疲れたのか、肩を中心に体が張ってとても外に出る元気はない。
そのまま部屋のベッドに横たわり、久しぶりに見るネットで文明圏の遊びを堪能した。

↓アンナプルナサーキットの紹介動画です。
設定で画質をHD720pを選択してご覧ください。

(走行ルート:High Camp→Thrung Pass→Muktinath)

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