坂?壁だろ〜High Campまで

Chulu Ledar~high Camp
5/14 (906days)
昨夜発症した頭痛と腰痛も、今朝になるときれいさっぱり無くなっていてホッとする。
私は疲れるとそれが腰に集中するようで、腰痛があると「あ、これは発熱しだすな」とすぐに分かる。
昨夜に腰痛が出た時はChulu Ledarで延泊することを覚悟したのだが、熱も気怠さも残ることなく、無事に出発できそうだ。
昨日のルートは実際かなりきつかったし、早い時間で終了したのは英断だったと言えよう。
今朝の朝食はチベタンブレッド。
表面を軽く揚げており、外はサクッ、中はもちっとした食感なのが特徴。
これに蜂蜜やジャムを付けて食べる。
結構値段は高いのだけれど、毎回チョウミン(チベット風焼きそば)やトゥクパ(チベット風うどん)も飽きるので、たまにこのチベタンブレッドを食べる様にしている。
朝食を食べ、7時前に出発。
昨日と同じように断崖絶壁の道を進んでいく。
ただ傾斜は緩く、自転車に乗って進むことができる。
昨日の様な道が続いていたら、体力がいくらあっても足りない。
前方にはSyagang峰(標高6,026メートル)が聳えており、ゴツゴツした姿が格好いい。
牛が崖に張り付いて草を食んでいる。
あんな巨体なのに、よく谷底に転がっていかないものだ。
EBCトレッキングでは牛やロバ、ヤクなどの家畜を頻繁に見かけたが、このアンナプルナサーキットではほとんど見かけることがない。
恐らくは物流を車で賄えるため、家畜に頼る必要がないのだろう。
偶に畑で農耕具を引かせているのを見かけるくらいだった。
川に架かる橋を渡り、つづら折れが始まる。
ここの橋は吊り橋ではなく、川を跨ぐ小さな木橋のため、一度谷底まで下る必要がある。
橋から対岸へと渡り、つづら折れで再び登らされるため、体力的にはもちろんだが精神的にもかなり疲弊する。
つづら折れを越えた先に、茶屋が一軒あり、そこで小休止。
犬が一匹、店番の様におとなしく座っている。
ヒマラヤの犬は、普段行儀が良くて大人しい。
それが夜になると途端に凶暴化し、数匹の犬が吠え立てる鳴き声が山小屋の外でするのを、よく聞くことになる。
ヒマラヤ山脈にはスノーレオパルド(雪豹。ヒョウ)が出るらしいので、それから家畜を守るために犬を躾けているのだろう。
EBCトレッキングをしている時、星空撮影のために夜中、山小屋から離れた丘に一人で登ったことがある。
丘の上でヘッドライトを消して撮影準備をしていた時、三匹の犬に囲まれて吠え立てられて怖い思いをした。
茶屋以降は、曲りくねった渓谷が真っ直ぐに伸び、視界が開けた中を山肌に沿って進んでいく。
少し進むと、崖崩れ注意の看板が現れた。
アンナプルナサーキットだとどこでも崖崩れなんて起こり得るから、看板での注意喚起なんて今更だろう…
そう思ったのだが、この看板以降は人間一人が通るのが精一杯の道幅で、とても自転車を押して歩ける様な道ではない。
一部区間では自転車を担いで進んでいたのだが、上の崖から時折バラバラと石が落ちてきて、そのまま谷底へと転がっていく。
もし大きい石が転がってきて私に当たったら?それに気を取られて足を滑らせて谷底に落ちたら?
アンナプルナサーキットは難易度が低くて楽しいルート…なんて思っていたが、この区間だけは恐怖を感じる。
何とか崖崩れ地帯を越えると、一気に疲労感が襲ってきた。
恐らく距離にして100メートルくらいなのだろうが、あれほど集中して進んだのは南米の悪路でのダウンヒル以来じゃないだろうか。
Phediという集落には8時半到着。標高は4,450メートル。
この先に、アンナプルナサーキットの最高到達地点・トロンパス(標高5,416メートル)手前の最後のハイキャンプがある。
標高4,925メートルのハイキャンプまでの距離は、1.3キロ。
約500メートルの標高アップを僅か1キロ…
平均勾配30%超の坂道なんて、登る前から気が狂いそうだ。
登りだす前に、Phediで少し長めの小休止を取る。
休憩中にこれから進む方角を見上げるのだが、首を直角に曲げないといけないほどの急斜面。
角度的に道なんて見えるわけもなく、壁にしか見えない。
小休止を終え、いよいよ斜面に挑む。
実際に登ってみると、劇坂なんて生易しいもんじゃない。
感覚としては壁に張り付いているようなもので、何度も足を滑らせて坂をずり落ちそうになる。
坂をずり落ちながら、その昔みたテレビ番組・SASUKEにて、山田勝己が反り立つ壁でずり落ちる場面を思い出した。
当時はそれを見てふふっと笑っていたけど、現状は全く笑えない。
1枚目の写真右側の山肌と同じ斜度で登っていくので、如何に厳しい道のりかお分かりいただけるだろうか。
自転車は人力で進む物としては最も効率の良い乗り物だが、乗れないとなるとただの邪魔で重たい鉄の塊に成り果てる。
いつもだと「世界中に私を乗せて連れて行ってくれてありがとう」という思いなのだが、この時は自転車を介護している気分になり、「てめぇちょっとは自分の足(車輪)で進めや…」と悪態を吐きたくなるほどの苛烈な道。
上へと登っていくほど冗談のようなガレガレの道になり、滑ってしまうため普通に自転車を押すことすらできない。
サドルを持ち上げ、後ろ側の車輪を浮かせて引きずるように進んでいく。
ほとんどゾンビのようにフラフラになりながら、ハイキャンプには10時過ぎ到着。
わずか1キロ進むのに1時間半弱掛かったことになる。
ハイキャンプの標高は4,925メートル。
山小屋が一軒あるだけで、それ以外には何も無い。
早速チェックインしようとしたのだが、ちょっと待ってくれ、という。
何故かと聞くと、「部屋は基本的に二人用であり、一人旅行者同士でシェアするようにしてほしい。そうしないと部屋が埋まり、他のトレッカーを案内できなくなるかもしれない」という。
なるほど一理ある。とは思うが、これまで1週間このサーキットにいるけれど、他のトレッカーなんて数える程しか見かけなかったが…
泊まる山小屋には私一人か、もう二、三組…という閑散具合だったので、別にそこまで心配しないでもいいんじゃないか。
実際、この時点でハイキャンプの山小屋にいるトレッカーは、私含めて3人だ。
まぁ別に待つ分には全く問題ないので、先に昼食をとることに。
さすがにハイキャンプになると物価は一気に高騰し、チョウミン(チベット風焼きそば)で600ルピー(600円)もする。
ダルバートに至っては800ルピーだ。
それでも食費を削っては山ではやっていけない。
結局、二人部屋を私一人にあてがってくれてチェックイン。
荷物を置き、高度順応のために山小屋の裏手にある丘を登る。
丘の頂上にはタルチョがはためき、ヒマラヤ山脈が広がる。
今日の苛烈な道を思い出し、ちょっとした達成感を覚える。
丘を下り、山小屋でゆっくりしていると、徐々に後続のトレッカー達が山小屋に到着しだした。
それも引っ切り無しに到着するので、あっという間に狭い山小屋は座る場所の確保にも困る程、人で溢れることに。
最終的に客はパッと見ても50人以上はいるな、という数になり、なるほどこれだけ人がいればそりゃ独り者は迷惑にもなるな…と納得。
それでも他に独り者はやってこなかったのか、これだけの混雑具合でも私はプライベートルームを確保できた。
やったと思う反面、他の旅行者がカップルや家族と来ていると思うと、ちょっとさみしくもなる。
正午以降、ハイキャンプは雲に覆われて窓からは全く何も景色が見えなくなった。
山小屋のリビングは人ゴミで居心地が悪いので自室に戻るも、部屋には電気が通っていないため、翌日に備えてさっさと眠ることに。
(走行ルート:Chulu Ledar→High Camp)