別世界へ〜Chulu Ledarまで
Manang~Chulu Ledar
5/13 (903days)
Manang以降のアンナプルナサーキットはジープロードが途絶え、トレッキングコースのみとなる。
次にジープロードが復活するのは35キロほど先にある集落、Muktinath以降。
その35キロの間には、このアンナプルナサーキット上の最高標高となるThorung La Pass(トロンパス)峠が待ち構えている。
トロンパスの標高は、実に5,416メートル。
当然、私がこれまでに自転車で越えた峠としては最高標高になる。
峠というのは、それを越えるとその先に下り坂が伸びている道の事を言う。
以前、南米のボリビアでウトゥルンクの火口に伸びる道を自転車で走り、標高5,700メートルに達した。
ただし、ウトゥルンクは峠ではなく火口で道が途切れるため、来た道を戻って下る必要があった。
私個人は、やはり常に見知らぬ道を走りたいタイプの自転車乗り。
そのため、標高5,400メートル超の峠を自転車で越えられるというのは、大きなロマンを感じる。
ただワクワクもする反面、不安ももちろんある。
本来、標高5,000メートルを超える高地に人間が行くというのは、身体的に無理がある行為なのだ。
それを自転車で行くのだから尚更だ。
実際、ウトゥルンクを走った時は、標高5,000メートル以上になるとただ自転車を押しているだけで精一杯だった。
今回は、その時よりも背負っている荷物は重たい。
Manangを抜けると、いきなり急斜面の登り坂が始まる。
前日にIce Lakeまで、標高4,600メートルまでトレッキングしたから高度順応はばっちりかと思ったのだが、息切れが激しい。
ゼェゼェと精一杯呼吸するのだが、いくら吸っても酸素が足りない気がして、苦しくて足が止まる。
そして道路が途絶え、階段が現れる箇所も出てきた。
当然ながら、自転車を肩に担いで進むことになる。
背負っているバックパックは重さ10キロ、自転車は15キロ程。
低地でも結構な重さだが、それがここのように高山だと更に重たく感じる。
バックパックの紐は当然肩に掛けており、それに更に自転車を担ぐものだから、フレームが肩に食い込んで骨が軋むように痛い。
階段を越えると、道はまだ多少自転車に乗れるくらいマシはなったため、正直ホッとした。
ただ、幅は相当に狭く、左手は崖。
ちょっとでもタイヤを滑らせたりすると、一気に谷底へ真っ逆さまだ。
登山道を歩く人間は、トレッカーよりも地元民のポーター(荷物を運ぶ職業人)が圧倒的に多い。
EBCトレッキングと違い、トレッカーの荷物を運んでいるのではなく、集落間の生活物資を運んでいるようだ。
私もその生活物資を分けてもらう様な形で山小屋で食事しているわけで、そうなると当然彼等の邪魔をしてはいけない。
万が一彼等を巻き込んで私が事故を起こすのは、最悪の事態だ。
先を歩くポーターがいれば、自転車を降りて押して進み、通り抜けられそうな幅の道になれば「すみません」と横を抜けて進んでいく。
渓谷の川に掛かる吊り橋を、何度も渡って対岸から対岸へ行ったり来たりしながら進んでいく。
Yak Kharaという集落以降、しばらくは高原地帯が広がり、随分と展望が良くなった。
後ろを振り返るとアンナプルナⅢ峰、右手にはChulu峰(標高6,584メートル)が聳え立つ。
ただ、高原地帯といえど落ちている石が大きく、自転車に乗るのはかなり厳しい。
Yak Kharaの集落で、標高は4,000メートルを突破。
斜度はそこまで大したことないのに、自転車を押して進むだけで息が上がる。
これまでの経験上、標高4,000メートルを越えると、それ以下の標高と明らかに世界が変わる。
しばらく進むと再び道幅は狭く、断崖絶壁の道が続く。
とてもツーリング用の自転車では漕ぐことができるような道ではなく、ひたすら押して進む。
そうなると私よりもトレッカーの方が進む速度の方が速く、後続のトレッカーに抜かれていく。
最後に吊り橋を渡り、Ledarに11時半到着。
随分と早いのだが、これ以上とても走る元気は湧かずに山小屋に泊まることに。
Ledarの標高は4,200メートル。
ここまで来ると、ホットシャワーもWifiもない。
ソーラーパネルで電気を確保しているようで、電気そのものがかなり貴重なようだ。
カメラの充電だけ、頼み込んだら何とかさせてもらうことができた。
この日の夜、ベッドに入ってから腰が急に痛み出し、深夜1時に大量の発汗。
汗で急速に冷え込み、悪寒もしてきた。
高山病の初期症状なのか、それとも疲れからくる発熱なのか…
もうここまで奥地にくると、万が一の事があればヘリコプターによる救援を頼まざるを得ない。
翌朝に体調が快復していることを祈り、目を閉じて無理やり眠りに着いた。
(走行ルート:Manang→Chulu Ledar)
お母さんです
その後体調はどうですか?