コスパ最高のサイクリングコース〜Lower Pisangまで

Timang~Lower Pisang
5/10 (902days)

部屋の隙間からそっと入ってくる冷気に、少し身震いして目がさめる。
部屋を出ると、黄色味を帯びた朝日の陽射しが体に降りかかる。
寝ぼけ眼にはそれはまだ眩しくて、思わず目を細める。

まだ冷たい体を日差しの温もりで温めることは、とても心地がいい。

標高2,000メートルと大分高い場所まで来たが、まだ森林限界には達しておらず樹々の緑が目に優しい。
案外、ここら辺が一番清々しい朝を過ごせる標高なのかもしれない。

朝食を食べ、自転車をチェック。
未舗装路で砂がパウダー状で柔らかいため、一日走ると自転車が真っ白になる。
砂を落として、チェーンに油を注す。

スポークやリムに壊れがないかも、同時にチェックする。
道に石が多くて、下り坂だと自転車と体が跳ね上がるくらいの衝撃を受けたので心配していたのだが、今のところ問題はないようだ。

諸々のチェックを終えて7時半に出発。
道は相変わらず川沿いに進んでいく。

アップダウンが連続するが、走りやすい道で朝の静かなサイクリングを楽しみながら進む。
山肌に沿ってカーブを繰り返して続いていた道が、ふと真っ直ぐになった瞬間、このサーキット上で初めて雪山が姿を現した。

やはり雪山を見ると、いよいよヒマラヤの奥へと入っていくんだ!という実感が湧いていて気分が高揚してくる。

少し走ってChameの集落に到着。
Chameにはチェックポストがあり、自転車を止めてチェックを受けている間、子どもが寄ってくる。
「サイクル、サイクル」とニコニコ笑いながらいろんなパーツをペタペタと触ってくる。

ブレーキのローターは触ると手を切ったりして危ないから、結構ヒヤヒヤする。

アンナプルナサーキットは乗用車が通れるレベルには道路事情はよく、物流もスムーズに行われているようだ。
実際に、物流をポーターや家畜に頼らざるを得ないEBCトレッキングと比べ、物価も随分と安い。

恐らく、まだ雪の残る季節だと家畜が活躍することになるのだろう。
リーダー格のロバには特別な装飾が施されているため、パッと見てリーダーだと分かるようになっている。

チェックポストのちょうど隣で女性がサモサを売っていたので、おやつ代わりに購入。
日本でいうコロッケで、コロッケを生地で包んで挙げている。
味付けはネパールらしく、やはりカレーの味がする。

標高が高くなって明らかに変化があったのは、水の綺麗さ。
カトマンズやポカラ周辺に流れている川は生活用水で汚染されていて、匂いも酷い。

ここで流れている川は汚染とは全く無縁の源流で、文字通り透き通る源流。
そして、その源流をフィルターでさらに洗浄した水が飲料水としてタンクに補充されており、いくらか支払えばボトルに補充してくれる。

EBCトレッキングだと、水は1リットルの最低価格が100円からで、最大だと400円にもなる。
アンナプルナサーキットでは、このタンク方式だと大体25円くらいで補充してくれる。
ペットボトルで購入しても高くて100円くらいなので、物流が人力頼りか車かで、どれほど差が出るかというのが如実に現れる。

コースは川を吊り橋で渡る機会が多くなってきた。
どの吊り橋にも、タルチョと呼ばれるチベット仏教の旗がなびいている。
タルチョが風になびく度、旗に書かれた経文を読経したのと同じ効果があるのだそうで、確かに風が吹き抜ける吊り橋は、取り付けるのにうってつけの場所だ。

朝出発したChameからこの日の目的地であるLower Pisangまでの24キロ区間、まともな集落は存在しない。
昼食が食べられるか心配したのだが、15キロ進んだところにあるBhratangという所でレストランがあり、無事ありつく事ができた。

レストランはコテージ風でかなり高級感あふれる外装だったのだが、食事自体は適正価格で、しかもかなり美味しかった。

ダルバート(ネパールの定食。写真の様に米、豆のスープ、カレーのおかず)はどのレストランでもお代わり自由。
ここのレストランの様に美味しいダルバートに当たると、調子に乗ってお代わりを大量に盛ってもらい、腹が破裂しそうになるのはネパールあるある。

Bhratang以降、断崖絶壁の道がしばらく続く。
山を無理やり削って通した道の様で、道幅はかなり狭い。
ただ、この幅の道でも恐らく開通させるのに何年もの期間と労力を費やしているのだろう。

氷河削り取ったのか、鋭利なナイフでズバッと切った様な断面の地層が目立つ。
もう既に氷河は跡形もなく残っていないので想像に任せるしかないのだが、かなりの広範囲に渡ってこの地層が続いているため、巨大な氷河だったのだろう。

余りにも断面が滑らかなので、大巨人がナイフで山を切って、ケーキみたいに食っていたんじゃ…という妄想が捗る。

少しつづら折れを登った後は、標高3,000メートルの高原に。
視界が開け、眺めはかなり良い。
ニュージーランドでの走行を思い出す様な風景が広がる。

この日目指している集落はPisangという名前で、Lower(ロウワー)とUpper(アッパー)の2つに集落は分かれている。
名前の通り、アッパーの方が標高が高い位置にあり、ガイドブックを見るとアッパーの方には仏教寺院があったりして旅行者にお勧めなのだとか。

ただ、アッパーの方は行くのに吊り橋を渡って、かつ坂を登らないと行けない。
ということで、私はロウワーの方へと向かう。

Lower Pisangには14時半到着。
標高は3,200メートル。

家のほとんどが石で作られており、なんだかテレビゲームのRPGの世界に入り込んだような気分になる。

メインストリートのど真ん中にはマニ車が100メートル程通されており、行き交う人は皆、これを回転させて歩いている。
マニ車は回転するとガラガラと大きな音が鳴るので、複数人が回し始めると結構賑やかなことになる。

そのままLower Pisangの山小屋に投宿する。
なんとまだホットシャワーもWifiもあり、インフラはEBCトレッキングより段違いに整っている。
値段も200ルピー(200円)と安く、食事はダルバートが550ルピー(550円)は少し高いけれど許容範囲内。

トレッカーの数も少なく、同じ山小屋には私の他に3人と、静かに過ごせる。
時期が良かったのかもしれないけど、これならアンナプルナサーキットの方が、純粋なトレッキングとしてはEBCよりも楽しめるかもしれない。

ここまでインフラの整ったトレッキングコースは相当に珍しい。
アンナプルナサーキットを自転車で一周するのは相当過酷だと思っていたけど、実際は相当難易度は低い。
難易度は低くてこれだけ景色も良いし楽しいから、非常にコストパフォーマンスの良い道だと思う。

これからもっとやろうとする日本人サイクリストは増えていいんじゃないだろうか。

(走行ルート:Timang→Lower Pisang)

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