自然との共生とは〜Dingbocheまで

Pangboche~Dingboche
4/17 (879days)
ピンと張りつめた冷たい空気に、地面を薄っすら白く染めた雪景色。
ドアを開けて部屋を出た瞬間に目に飛び込んできた風景。
前日の汗ばむ様な陽気からは想像できなかった光景に、寝ぼけ眼もすっかり目が覚める驚きがあった。
昨晩は深夜2時頃に頭痛と指の痺れを感じ、そこからは浅い眠りであまり寝付けないでいた。
高山病の初期症状で、悪化することを心配したのだけれど、今朝は症状がすっかり無くなっていて安心した。
早朝に地面を覆っていた雪も、出発した8時頃にはほとんど溶けてなくなっていた。
山にも雪が降った様で、そちらは溶けることなく、昨日に見た時よりも雪化粧が濃くなっている。
上空は風が強い様で、雪が巻き上がり、火山の噴煙の様に白い煙が舞っている。
白い噴煙を上げるアマダブラム峰は、その噴煙がオーラの様に見えて神々しさを覚える。
時間が経つにつれて気温も上がり、屋根に積もった雪も溶け始めている。
シェルパ(山岳地帯に住む地元民)は屋根の下に桶を置き、雪解け水を貯めている。
標高4,000メートルを超える集落おいては、水でもとても貴重なのだろう。
自然から得られる資源全てを活用する彼等の姿に、これぞ自然との共生という事を感じられる。
ショマレという標高4,000メートルの集落以降は、高原地帯が広がり、見通しの良い道を歩いていく。
しばらく高原地帯を歩いていたのだが、気が付けば快晴だった空を、濃い雲がすっかり覆い尽くしている。
体感的には数秒間顔を落として地面を眺め、次に顔を上げたら曇っていた…と感じるくらい、あっという間に天気が変わってしまった。
それぐらい、山の天気は目まぐるしく変わる。
高原地帯から谷底まで下り、橋を渡ってからはかなりの急勾配の登り坂が待ち構えている。
坂を登りきって視界が開けた先、Dingbocheの集落が現れる。
標高は4,410メートル。
割と大きな集落で、ベーカリーが3軒もある。
きっと、パンなんて物凄くびっくりする価格なんだろうなぁ。
途中出会った山岳ガイドに教えてもらった山小屋に投宿。
ほとんどのトレッカーがこのDingbocheで高度順応のために連泊するのであり、私とエヴァンもここで連泊することに。
エヴァンは前回のトレッキングで、ここDingbocheで高山病を発症してリタイヤしたという。
標高4,000メートル以降は、低地に住む人間にとってはかなり厳しい環境であり、トレッキングを継続するか否かのボーダーラインとなる。
ここで高度順応できない様であれば、潔く下山を決断すべきなのだ。
山小屋に着いてからは特に何もすることがなく、昼食を食べてからはひたすらに山地図を見るか、小説を読むかをして時間を潰す。
夕方からは再び雪が降り出し、気温はガクッと下がった。
従業員がストーブに火を点けてくれたのだが、燃料はなんと牛や馬の糞。
確かに、とうに森林限界を突破しているのだから、薪などあるはずもないのだから、糞を燃料にするのは当然なのだ。
馬や牛、ヤクはそこら中にいるのだから、彼等の出す糞まで利用するのは究極のエコだと言える。
火を入れてしばらくすると、リビングに再び温もりが戻ってきた。
臭くなるんじゃないかと心配したのだけれど、そんな事はなく、山小屋の利用者達は
温もりを求めてリビングに集まり、狭い部屋が活気に満ちる。
山には不思議な力があるのか、見知らぬ者同士でも会話が自然と始まり、すぐに打ち解けられる。
すっかり暗くなった外とは対照的に、どの山小屋からも明かりが漏れ、活気付いているように見えた。
(トレッキングルート:Pangboche→Dingboche)