限界ギリギリ〜Da Latまで

Thach Trai~Da Lat
3/14 (845days)

朝食にフォーを食べ、お世話になったレストランの家族にお礼を言って出発。
ここThach Traiからいよいよ峠越えが始まり、最高標高は約1,600メートル。
目的地であるDa Lat(ダラット )までは100キロ近くあるので、この日中の到着は少し厳しい。

問題なのは、峠の頂上までは地図上で一切の集落がないのであり、途中での昼食休憩及び補給は一切望めない。

必要最低限のジュース、補給食として饅頭のようなものを買い込んで、いざ峠越えへ。

連なった山が壁の様に立ちはだかっている。
遠くの山にじっと目を凝らすと、頂上付近に移動する物体を発見。
まず間違いなく車なのだが、要はあそこまで登らないといけないのであり、かなり長丁場の勝負になるな、こりゃ。

傾斜は思った以上に緩く、ペースは登り坂にしてはかなり速く進むことができる。
時速10キロ以上も峠越えで出せるなんて、これは案外早く峠越えが果たせるかもしれない。

それに何よりも、景色が素晴らしい。
どれだけ体力的にキツかろうが、大変な道のりだろうが、私が山岳地帯での走行を好むのは、この素晴らしい景色が待っているからに他ならない。

交通量も少なく静かな山道を、健康的な汗をかいて自らの足で高みを目指す。
そして登り切った後に感じる達成感と、その先に待つ長い下り坂を、風を切って下る。
これこそが、自転車の醍醐味だと私は思っている。

補給ポイントは皆無だと思っていたのだが、走り始めて20キロ地点で掘っ建て小屋が路肩に現れた。

ジュースの他になんとカップラーメンも売っており、迷わず購入。
お湯を沸かしてくれ、卵もカップに落としてくれた。
まさかこの道でご飯が食べられるとは思ってもいなかったのであり、ここでの補給は峠越え後半戦で大きな力になる。

掘っ建て小屋のすぐ横には聖母マリアの立派な像があり、お供え物もたくさん置かれていた。
この厳しい峠道だとバスや自動車の転落事故が起きてもおかしくないのであり、そういった事故の慰霊碑なのかもしれない。

この掘っ建て小屋は本来、ここを訪れる人のための休憩小屋になのかもしれない。

掘っ建て小屋から少し進み、ようやく標高1,000メートルに到達。
峠までは後600メートル。
私のペースで大体1時間に標高250メートル程を上っていくので、後2時間程で頂上か。

2時間で峠越え、と予想はしてみたものの、頂上と思われる場所はまだまだ遥か頭上。
頂上が見えている峠越えは、ゴールが見える分残酷だ。
「あの頂上を目指して、2時間もペダルを漕ぎっぱなしか…」という実感が、疲労感を伴って体に重くのし掛かってくる。

登り坂では焦ってペースを乱すと一気に疲れが噴出し、最悪ハンガーノック(空腹によるエネルギー不足。ガス欠。)になりかねない。
ゆっくりゆっくり、進んでいく。

何時間もペダルを漕ぎっぱなしなのと、降り注ぐ直射日光で体は汗でびしょびしょに。
顔も汗だらけで、目に入って沁みるのが辛い。拭っても拭っても、目に入ってくる。

幸い峠には滝がたくさん流れており、時折路肩に自転車を止めて、滝行の様に全身を滝に打たせる。
汗も流せて、熱くなった体も冷ますことができ、また走る力が湧いてくる。

いよいよ1,500メートル突破。

そしていよいよ峠に到達!
走り始めて32キロ、標高は手元の高度計で1,580メートル。
特にモニュメントの様なものはなく、質素な道路標識しかないが、静かな達成感をひとり感じる。

峠越えを果たした時点で13時過ぎ。
ダラットまでは残り60キロ。
かなり厳しいが、日没ギリギリにもしかしたらダラットに辿り着けるかも…

ただ、山岳地帯での走行において、日没時間まで走るというのはかなりリスキーだ。
山の中で日没を迎えた場合、街灯も全くない闇の中を走る事になってしまうのであり、これはかなり危険な行為である。
本来なら、日没前にどこかで野宿するなり宿を見つけるのが、賢明な判断と言える。

それらを踏まえた上で、小休止にサトウキビジュースを飲みながら熟考した結果、この日中にダラットを目指す事に。
ダラットには観光で1日は滞在するのであり、それなら今日中に着いて、翌朝はゆっくりと観光したい!という、「翌日楽したい」気持ちが強かったのである。

そうなれば小休止に時間を取っている場合じゃない!
サトウキビジュースをぐいと飲み干し、ダラットを目指して走り出す。

しかし、ここからの道は、午前中の峠越えよりも遥かにきつかった。
峠の先は高原地帯になっており、アップダウンが無数に繰り返される上、交通量が何故かグンっと増えた。

せめて綺麗な風景を見て元気付けよう…という考えも、高原地帯では視界が遠くまで広がらずに眺めが良くない。

アップダウンを繰り返す内に、なぜか標高は峠よりも高い1,600メートルを突破。
峠が最高地点だと思っていたのに、まさかそれ以上に登らされるとは予想外だった。

あぁ、辛い…

このままだと、日没にすらダラット到着が待ち合うかも怪しくなってきた。
16時、小さな集落に到着した時点でまだダラットまで30キロもある。
普段平地を走るペースでも、ギリギリのラインだ。

こりゃあチェーでも食って喝入れるしかねぇ!
チェー屋に入り、「チェーおくれ!」と叫んだのだが、出てきたのはケム。
ケムとは、ベトナム語でアイスクリーム。

どうやったらチェーがケムに聞こえるんじゃ!?
でも、案外チェーよりもカロリーが高くてエネルギー補給にはいいかもしれない。

時間もないからガッつきたいのだが、頭にキーンと来てスプーンが進まない。
あぁ、焦れったい!

アイスを食べ切った後は、ペースを上げて走る、走る。
もうハンガーノックだのなんだの言ってられないのであり、徐々に夕暮れ色を増していく日差しに焦りを感じて進んでいく。

そんな焦りの中で、展望の開けたところに出た時、その光景に思わず自転車を止める。
ビニールハウスで埋め尽くされた、大プランテーション。

ダラットはコーヒーの名産地として知られているが、イチゴやブドウなどのフルーツの名産地としても知られている。
恐らくはそのフルーツを育てている、ダラット郊外の農園なのだろうが、あまりの規模の大きさに日没ギリギリということを忘れ、しばしば見とれてしまった。


プランテーションから走ること数キロ、日没後にはなったがようやくダラットに到着。
達成感は微塵も感じず、ただただ安堵感を感じた、到着の瞬間であった。

ベトナムきっての高原リゾートというだけあって、欧米中国人問わず、観光客ばかり。
あえて言うなら中国人が多いかな。

調べを付けていた宿に投宿し、ようやく人心地つくことができた。
中央広場ではイチゴを山積みにした露店がそこかしこにあり、「イチゴどうだい!」と威勢良く呼び込みが掛かる。

あれだけのプランテーションを見せられたとあっては、やはり名産であるイチゴは食べてみたい。
イチゴの入ったカップが並べられており、その中から1番赤そうな物を選ぶ。

味は…甘い物と酸っぱい物とが混ざっており、個体のムラが激しい。
しかも赤いのはカップの上部分ばかりで、カップ内部の見えなかった分は色が薄い物ばかりが入っている。
なるほど、古典的な手法に一杯食わされたか…

ま、それでも何とかダラットには辿り着けたのだし、メインの観光は翌日のコーヒー農園で飲むコピルアクだ。
コーヒー好きとしては、翌日が楽しみで仕方がない!

(走行ルート:Thach Trai→Da Lat)

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