«世界遺産»フエの阮朝王宮跡

Hue
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さて、到着翌日となるこの日、改めて世界遺産を要するフエの街を観光することに。
フエはかつて19世紀から20世紀にかけて栄えた阮朝の首都であり、今でもその王宮が残されている。
この王宮が、世界遺産として登録されている。
そんなフエにあって、私が観光として真っ先に向かったのは王宮ではなく、ティエンムー寺という世界遺産でもなんでもないお寺。
入り口すぐに塔があり、階段からこれを見上げながら敷地へと入っていく。
門を潜って境内へ。
境内は植え込みが多く、緑豊かなものとなっている。
ベトナムの盆栽・ホンノンボも数多くあり、お寺であっても結構楽しめる。
そんな緑豊かで静かなこのティエンムー寺には、一台の車が安置されている。
この車こそが、私がフエで最も見てみたかったものである。
洋楽を好きな人でロックをよく聴く人なら、「焼身自殺をする僧侶」の写真がジャケットになっているアルバムに見覚えがあるのではなかろうか。
もしくはそうでなくても、報道写真などで、その光景を見たことがある人も多いと思う。
この車は、その焼身自殺した僧侶が、その現場へ行くために乗った物なのである。
写真でも、燃え上がる僧侶の背後に、この車があることが確認できる。
僧侶の名は、ティック・クアン・ドック。
このティエンムー寺の住職であった人物である。
1963年、当時の南ベトナム政府が行なっていた仏教徒への弾圧に対する抗議として、ティック・クアン・ドックはホーチミン市のカンボジア大使館前でガソリンを被り、焼身自殺をした。
身体が炎に包まれる中、息絶えるまで蓮華座を崩さなかった住職の姿は、当時のメディアを通して世界中に発信された。
住職のこの行為はベトナム人の反米感情と決起を煽ったのであった。
私がアルバムのジャケットや写真集などで見た写真はモノクロであったり、当時の荒いカラー写真であった。
現実感のない、昔の遠い出来事という認識でしかなかった。
それが、当時の車が、色彩も質感もはっきりとした状態で今私の前にある。
その車を眺めていると、記憶にある燃え上がる僧侶のモノクロ映像までが、頭の中でとてもリアルな色彩を伴って浮かび上がってくるように感じた。
命を落とすことを美化したくはないが、誰かが信念のために命を賭して行動することに、人は心を動かされる。
私は、その行動の名残であるこの車を見るために、この寺に足を運んだ。
そして、実際に見てみてよかったと思う。
ティエンムー寺を後にした後は、改めて世界遺産の阮朝・王宮跡地へと向かった。
はっきりいって、ここは見所となる建物内の調度品が写真撮影禁止だったりして、がっかりした。
敷地は広く、散歩しながら撮影する分には楽しめたので、特に解説もせずに写真だけ載せておくのでご覧下さいませ。