ディエンビエンフー観光

Dien Bien Phu
2/14 (817days)

ディエンビエンフーはラオスとの国境手前の街で、両国にとっては出入り口の役割を果たしているのだが、観光地としての顔も持ち合わせている。

とは言っても、観光のメインがインドシナ戦争でのディエンビエンフーの戦いに関することである。
そんな所にわざわざやってくるのはベトナム人観光客ばかりで、非常に静かな街だ。

そもそも大半の日本人が、ベトナムでの戦争というとベトナム戦争を思い浮かべるのであり、インドシナ戦争でベトナムとフランス軍が戦ったことすら知らないのではないだろうか。

私は特に歴史に詳しいわけではないが、世界史、特に近代の戦争史というのには興味をそそられる物があるので、宿の近くにあるディエンビエンフー戦勝歴史博物館に足を運んでみた。

戦勝という名前の通り、展示物は思いっきりベトナム寄りで解説文が書かれている。

展示物は両軍の使用武装や遺留品、写真、当時の様子を再現したジオラマになる。

こちらはフランス軍の使用武装。
解説にはっきりと「enemy(敵軍)」と書かれているのであり、博物館にして全く中立の立場でなく、あくまでも「俺たちベトナムはフランスに勝ったんだぞ!」という記念的な施設であることがわかる。

こちらがベトナム軍の使用武装。
素人がパッと見て分かる程、装備に差があるのであり、よくまぁベトナムは勝ったな…というのが正直な感想である。

いや、上官は怒らなかったのか、これ?
この楽器運ぶの諦めたら、もう一丁銃を持ち運べそうなものなのだが。

まぁしかし、戦時中であっても楽器を装備する大らかさこそが、ベトナムを勝利に導いたのかもしれない。

大穴が空いているヘルメットを見ると、「あぁ装備していた人は助かってないんだな」と思うと切ない気持ちになる。

さて、ディエンビエンフーの地形なのだが、ジオラマを見て分かるように、複数の丘陵で形成された地域になる。

フランス軍は丘の上に陣取り、地の利と装備差を活かし、ベトナム軍を誘き寄せて一気に殲滅する計画だったという。
しかもフランス軍は空輸で、戦車や大砲を丘の頂上まで運ぶという荒技をとったらしい。


フランス軍の見立てでは、こんなにも険しい山岳地帯にあるディエンビエンフーに、ベトナム軍が大砲や戦車を持ってくることなど、まさかできないだろうと思っていたらしい。
山岳地帯に通るメインの道路も破壊して、一切の輸送を許さない盤石っぷりだったようだ。

ただ、ベトナム人の根性というのは凄まじく、山岳地帯のジャングルを切り開き、なんと人力で大砲を運び上げたというのだから驚きである。

実際に自転車で走ってディエンビエンフーまで来た身としては、フランス軍のその見立てを「怠慢、油断」と断じることはできない。
舗装路を自転車一台運ぶ(走る)だけでもヒーヒー言っていたのに、あんな急斜面の山脈を縫って、大砲なんて運だというのが全く信じられない。

あるはずのない大砲が現れ、砲撃に晒されて呆気に取られたフランス軍の顔が眼に浮かぶ様だ。

ベトナムにとってはまさに総力戦だったようで、軍だけでなく民衆もこの運輸作戦に参加し、牛馬を使っての輸送、炊き出し、ジャングルの開拓をしたりして戦闘に参加していたらしい。

自転車旅行者なら必ず関心を寄せられるのが、この展示。
自転車にパッキングを積んで輸送するという、自転車旅行のご先祖の様な手段も取っていたようだ。

戦争に使われたというのはさて置き、自転車への荷物の取り付け方やパッキングスタイルが40年前と現在とでほとんど変わりがないというのは、このスタイルがもう完成形なのだろう。

最近になってバイクパッキングという新たなスタイルが出てきたが、数10年もこのスタイルが進化してこなかったことを考えると、バイクパッキングとは自転車旅行業界では結構革命的なことなのではないだろうか。

ベトナム軍は更に驚く戦術を採っており、フランス軍の陣取る丘の真下まで続く地下トンネルを掘り進め、爆弾を設置して丘ごと吹っ飛ばしたという。

最終的にこの爆破により、フランス軍は降伏。
ベトナム軍の勝利を決定付けたのだった。

ただ、ベトナム戦争もそうだしインドシナ戦争もそうだが、戦地となったのはベトナム本土である。
どちらの戦争もベトナムの勝利とされているが、土地が荒れ、より多くの民間人が犠牲になったのは、ベトナムの方である。

博物館の前には共同墓地があり、ここにはインドシナ戦争で戦死したベトナム人の墓がずらっと並び、慰霊碑が建てられて弔われている。

戦争というのは勝っても負けても、必ず誰かが犠牲になる虚しいものなのだ。
戦勝国が自らの勝利を祝う記念的な土地にあっても、そう思わされるディエンビエンフーでの観光であった。

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