下りるために登るんさ〜Muroung Angまで

Thuan Chau~Muroung Ang
2/12 (815days)
Dien Bien Phu(ディエンビエンフー)という地名は、高校生の時に世界史を選択していた人なら聞き覚えがあるのではないだろうか。
1950年代、ベトナムがフランス植民地からの独立を目指して勃発した第一次インドシナ戦争において、最大の戦闘地となり、かつベトナム軍の勝利を決定づけたのが、ディエンビエンフーの戦いである。
ディエンビエンフーはラオスとの国境付近にある街で、私にとっては初回ベトナム入国でのゴール地点となる。
Thuan Chauからディエンビエンフーまでは130キロ弱の距離で、大きな峠越えが2つ残っているため、2日間に分けて走行することになりそうだ。
さて、朝食は恒例のフォー。
この辺のベトナムの人は農業に従事している人がほとんどだと思うが、よくこんなカロリーの低い朝食で肉体労働ができるな、と思う。
Thuan Chauから15キロほど走ると、峠越えが始まる。
この区間の峠が私のルート上、ハノイ〜ディエンビエンフー間で最も標高が高くなるはず。
きつい道中になるだろうと予想していたのだが、意外と斜度はきつくなく、だら〜っと長く続くような登り坂。
斜度8度で緩やかと感じるから、これまでのベトナム山岳部での走行で感覚が麻痺している気がする。
これまで斜度のキツさと暑さに苦しめられてきたベトナムだが、この日は斜度も緩やかだし空は、ガスっていて太陽が出てこないしで、峠越えにはベストなコンディション。
標高1,000メートルを超えると風景にも高低差が出て、立体的な光景を楽しむことができる。
これこそが山岳地帯での自転車走行の醍醐味であり、楽しみである。
ベトナムは棚田が多くあり、上から見下ろすその光景は特に美しい。
走り始めて4時間半で峠の頂上に到達。
標高のピークは1,360メートルで、ささやかなモニュメントが設置されている。
とりあえず、ベトナム初回入国での最大の峠は越えることができ、一安心。
峠の後、待っているのは当然下り坂。
汗を流して登り切った峠を、風を切って下るダウンヒル。
これも、山岳地帯を走る醍醐味であり、それまでの苦労が全て報われる瞬間だ。
横山秀夫の小説「クライマーズ・ハイ」で、登場人物に登山家が出てくる。
その登山家が主人公に何故山に登るのかを問われ、「下りるために登るんさ」と言う一幕がある。
登山と自転車という違いはあれど、これには確かにそうだと納得させられる。
どんなに長くて辛い峠越えも、その先には絶対に下りがあると分かっているからこそ頑張れる。
そしてその下りで受ける風の爽快さや、峠を越えた達成感が病みつきになる。
峠を走る最中は文句や罵詈雑言を言うけれど、越えた後は「あの峠最高やな」と良き思い出になるのである。
4時間半かけて登った峠を、30分足らずで下り切るというのも一興。
再び水田との距離が近くなり、植わったばかりの稲の緑が目に眩しく感じる程。
峠越えの後に食べる昼ごはんも最高であり、これも山岳地帯走行の醍醐味である。
ただ、やはりベトナムでの安い定食の頼み方がわからない。
この日も「米と肉」と注文したのだが、やたらと豪華なメニューで出してくれたのであり、値段も10万ドン(約500円)と財布に厳しい。
昼ご飯以降は標高600メートル付近をアップダウンで進んでいく。
晩ご飯はフォー。
お昼ご飯が豪華だったしわ寄せは、夜ご飯にくるのである…
(走行ルート:Thuan Chau→Muroung Ang)