溶ける!〜マカオまで

深圳〜マカオ
1/22 (794days)

さて、一眼レフカメラの問題も解決したことで、深圳を発つことに。
向かう先はマカオ。

そう、旅行好きでちょっと読書をする人ならお馴染みの、ギャンブルの都市である。

私は酒もタバコもギャンブルもしない人間ではなるが、やはり沢木耕太郎の「深夜特急」を読んで、マカオのカジノというのには、出発前から憧れを持っていた。

バカラや大小で、狂ったように一喜一憂する中国人達の熱気と欲望に包まれる、異様な空間。
深夜特急の中で書かれていたあの雰囲気を、私も味わってみたいのだ。

と、いうのが出発前からの私の願望。
今は、少し事情が違う。

新たに一眼レフとレンズを購入し、その費用は合計9万円。
はっきり言って非常にお高い買い物であり、私の旅行費用を切迫している。
この9万円を取り戻すどころか、倍返しで返してもらおうじゃないか!というのが今の私の思惑である。

中国で失った金は、中国で取り戻す。

仕事に行く盟友・奥井君を見送り、同じく仕事に行くウィッキーさんと同時に家を出発する。

やはり大都会ということで、脱出するのに苦労しながら進んでいく。

2時間半ほど掛け、30キロを走ってフェリー乗場に到着。
深圳からマカオはフェリーが運行しており、普通に走って行くよりも1日は短縮して到着できる。

なお、前日に電車でこの乗場には来ており、自転車をフェリーに積みこめるか確認と、チケットの予約を済ませていた。

お値段は自転車込みで210元(3,360円)と少しお高め。
座席は指定席で、50分ほどでマカオに到着する、いわゆる高速船である。

13時40分に出発したフェリーは、定刻通り15時前にマカオに到着。

船で1時間弱移動したに過ぎないのだが、中国本土よりも暑さを感じる。
どことなく南国のリゾート地の雰囲気を醸し出している、と言えばいいのか。

ちなみにマカオでは左車線である。
私は知らなかったため、慌ててサイドミラーを逆側のハンドルに取り付けて走り出す。

マカオはポルトガル領であった歴史があり、案内板にもポルトガル後が使用されていることが多い。
スペイン語に似ているため、私でもなんとなく理解ができる。

マカオは非常に狭く、フェリー乗場から少し走っただけで中心部にはあっという間にたどり着く。

こういう成金趣味的なホテルが、いかにもマカオらしい。

そんな成金趣味のマカオも、少し路地裏に入ればたちまちいつもの汚い中国の風景である。

路上麻雀というのは中国では日常風景なのだが、それをマカオで見るとなると、これからカジノで大博打を打とうする私のテンションは俄然高まってくる。

さて、何はともあれまずは宿探しである。
マカオは世界中から旅行者がやってくる地であり、まぁ困ることはないと思っていたのだが、とんでもない!

ボロボロにくたびれた外観の宿に飛び込んでみると、一泊400元(6,400円)とのたまう。
ボッタクリにしても余りにも酷いと思い、他へ行ってみても300から400元ばかり。
中には売春宿となっていて、踊り場にネーちゃんが待機して「マッサージ、マッサージ」と声を掛けてくる始末。

長時間走り回ってみたのだが、結局最安値は220元。
それでも中国で泊まった宿では最高値であり、こんなにもコストパフォーマンスの悪い宿に泊まったのは初めてである。

まるで独房の様に、横一列にずらっと並ぶドアと部屋。
朝6時に起床ベルが鳴ったら、全員ドアを開けて横一列に整列しそう。

ちなみにマカオ歴史地区は世界遺産に指定されており、ポルトガル植民地時代の雰囲気を垣間見ることができる。

とはいえ現在は中国に返還されており、普通に生活が営まれているということと、香港ほどには多種多様な人種が集まっているわけではないため、香港よりも中国くさい印象を受ける。



さてと、散歩はこの程度にして、ひと勝負いきますか。
この日は昼食も食べていないので空腹で仕方ないのだが、「ギャンブルは満たされた人間がやっちゃいけねぇ」と何かの漫画か映画で見た記憶がある。
ということで、晩御飯はこれくらいに押さえておく。

私は人生で一度だけ、ギャンブルの経験がある。
大学生の時、実家を飛び出してルームシェアをしていた私は、とにかく金が無かった。
友人と泣けなしの小銭を出し合って豚肉を買い、それを炒めて腹を満たすという生活のなか、友人に誘われて競馬場へと行ったことがある。
その人生一度のギャンブルで、私は単勝100倍馬券を当てたのだ。

そういう実体験から、この「満たされた人間うんぬん」というのは、信憑性があると思っている。
きっと今の空腹状態の私なら、動物的勘が冴えて勝ちまくるに違いない。

さぁ、行きますか!

カジノの中は撮影禁止のため、ここからは私の文章だけでお届けすることに。

カジノ内はワンフロアぶち抜きの空間があり、その中に無数のテーブルがある。
ゲームの種類は大小、バカラ、カジノウォー、その他数種類存在している。
その他にもスロット、ルーレットなどが稼働している。

テーブル毎に最低賭け金が異なり、1ゲームにつき300香港ドル(約4,200円)が基本的に最低ライン。
500香港ドルを最低ラインにしているテーブルはやはり賑わい方が違い、囲んでいるギャラリーの数も多く、白熱している。

特にバカラのテーブルの盛り上がりは凄まじい。
トランプのカードを捲ってディーラー側かプレイヤー側、どちらの数字が大きいかを賭けるゲームなのだが、カードを捲るのはそれぞれに最大チップを賭けた2人のプレイヤーに委ねられる。

カードを捲る際は、テーブルから浮かさず折る様に、ジワジワと数字が見えてくるように捲るのがマナーらしい。
ギャラリーもプレイヤーも、数字が見えるまで固唾を呑んで見守る。
見えた瞬間、勝った方は歓声を上げ、負けた方はカードを叩き付けて悔しがる。

掛け金は最低300〜500香港ドルだが、そんなちまちま賭けている人間は少ない。
人によっては1ゲームに5,000香港ドルが消えるか、倍になって帰ってくるかがわずか1分程で決するのであり、まさに狂っているとしか言いようのない、異常な空間である。

1時間ほど各テーブルを眺めていたのだが、意を決し、ATMで2,000香港ドルを引き出し、財布の金と合わせて2,400香港ドル(32,000円)をチップに換金。

チップを手にした時の感覚を表現するとしたら、「小便をしたいのにでないソワソワする感じ」と言えばいいだろうか?
いざ賭けようと思っても、テーブルに着くのに緊張してしまい、チップを握った手が引っ込んでしまう。

しばらくチップを持ったまま、またカジノ内をウロウロする私。
そして、大小のテーブルの前で足を止め、ジッとゲームを眺める。

大小とは3つのサイコロをディーラーが籠の中で転がし、その合計が小(4〜10)なのか、大(11〜17)なのかを当てるというゲーム。
いわば50%の確率で勝てるゲームなのであり、これだけをやっていればそうそう負けるものではない。

意を決し、大小のテーブルの一つに着き、ええいままよっ!と300香港ドルを小に賭ける。

結果は、大。
テーブルに置いた300香港ドルは無造作にディーラーによって回収され、あっという間に私は2日分の生活費を失った。

あまりにも呆気なさすぎて、私は恐怖を感じてしまった。
このまま続けていいのか…?
それでも、50%は勝てるんだ…なんとかさっきの負けを取り返したい!

続けて300香港ドルを、また小に賭ける。

結果は、大。
私は堪らずテーブルを離れ、またカジノの中を彷徨い歩き、今起こった出来事を、なんとか自分に納得させようとする。

ものの2分で、600香港ドルを失ってしまった。

「もう、ここいらで辞めておいた方がいいんじゃないか?十分楽しんだんじゃないか。」
「いやいや何言ってる、50%で勝てるんだぞ!?今の負けは十分取り戻せる!もう一回いけ!」

正に天使と悪魔が頭の上で議論を繰り広げているのだが、このカジノ内で天使が議論に勝つなど、ありえない。
何故なら、カジノという空間は人間の欲望が渦巻く、まさに悪魔のホームスタジアムなのであり、天使にとっては完全にアウェーなのだ。
結局は、悪魔の囁きに「じゃあ後少しなら…」と天使は言いくるめられ、私は再び大小のテーブルに着く。

今度は大に300香港ドルを置き、祈る様な気持ちでディーラーが籠を開けるのを見守る。
頼む、当たっていてくれ!

結果は、大。
配当率は2倍となるため、300香港ドルが、600香港ドルになって私の手元に帰ってきた。
胸の奥底から「はぁ〜っ」とはっきりと音になりそうな溜息をぐっと飲み込み、周りの客やディーラーに気取られないよう、密かに安堵する私。
周りの人間が1,000香港ドルとかを賭けている中で格好悪いかもしれないが、私にとって300香港ドルとは尋常ではない大金なのである。

それでも、やはりまだ300香港ドルは負けたまま。
これがもう一度続けば、チャラには持っていける!
今度は、小!

結果は、小。
よしよし、これでチャラに持ってこられた。

チャラになると少し余裕が出てくるもので、「よし、勝負はここからだ!」という気持ちになってくる。
ここからは勝ったり負けたりを繰り返し、結局は2,400香港ドルから一向に増えていかない。

一度、テーブルを外れて再度カジノ内を歩き回る。

天使「もう、いいじゃない!楽しかったよね!帰ろうよ!」
悪魔「馬鹿野郎!そんなちまちまと賭けてるから、勝ちも負けもしねぇんだ!ちっとは勝負しやがれ!」

…私は再度、大小のテーブルの前に着いた。
何度かゲームを繰り返す内に、私はあることに気づいた。
テーブルには液晶画面があり、過去10回ほどのサイコロの出目が表示されているのだが、サイコロの合計が8〜10に集中しているのだ。

「3つのサイコロの合計は18であり、その半分の値である9付近に目が集中するのは当たり前では!?」ということにピーんときた私。
これが数学的に合っているのか間違っているのか、今になって冷静になっても私にはわからないのだが、この説に賭けてみることにした。

大小では、前述でも述べた様に、「出目の合計数を当てる」という事にも賭けることができ、配当率は出目にもよるが6〜14倍と非常に高くなる。
そして、最低賭け金は100香港ドルと、少し低くなる。

私は実入りの少ない大小を当てるよりも、この出目の合計数に100香港ドルを賭ける作戦に切り替えることにした。
初回、200香港ドルを100ずつ、7と9に賭ける。

結果、7。
200香港ドルが、600香港ドルになって帰ってきた。
な、なんてボロいんや…

私は調子に乗って、その後もこの作戦で、1ゲームにつき200香港ドルをちまちま7、8、9あたりに賭け続けた。

結果、なんとあれよあれよという内に勝ち続け、当初の2,400香港ドルから4,000香港ドルまで、手持ちのチップは膨らんだのだ。

うはははは!なんや、カジノなんか余裕やないか!
この調子で倍、いや3倍。一眼レフカメラまで勝ち続けるでぇ!!!

ーギャンブルとは辞めどきが肝心である。
これはまさに、至言である。

しかしこの時の私には、この手持ちの4,000香港ドルが、ここから更に倍になっていくことを疑っていなかったのである…。

一度テーブルから離れてぶらぶらした後、再度大小のテーブルに着いた私。
もはや顔なじみとなったディーラーからも、他の客からも「こいつは7〜9辺りに賭けるやり方しかしない」と思われているとわかっても、そのやり方を曲げない。

しかし、なぜかこのやり方で一向に勝てなくなった。
最初の数回は「まぁまぁこういうこともあるよな」と思っていた私も、チップが3,000香港ドルまで減ってくると、「あれ、あれ!?」と焦り出す。

ギャンブルで負けが込み焦り出すと、不思議なことにゲームを切り上げる…とは考えず、「1ゲームの賭け金額を増やして、負けた分を取り戻そう!」という心理が働く。

賭け金額を500香港ドルに増やし、賭け方を大小を当てることに変えたのだが、これがことごとく勝てない。
気が付けば、持ちチップは2,300香港ドルにまで減っていた。

今思えば、ここが最後の辞めどきだったのではないだろうか。
ツキはもう完全に私から離れ、どうあっても勝てる見込みはない…とは今だから言える。

しかし、賭場とは人の判断力、理性、思考など全てを狂わせる。
「一度だけ勝てば、チャラにはできるんや…」

…結果、私の手持ちのチップは残り900香港ドルに。
2,400香港ドルを割ってからは半ばパニック状態に陥り、賭けることを止めることができず、テーブルから離れることもできず、ただただ膝を震わせながらベットを続けていた。

900香港ドルになったとき、僅かに残っていた理性が「もう帰ろう」と私に働きかけ、私は換金カウンターへと向かった。

しかしこの時、換金カウンターは、悪魔のイタズラなのか、列ができて混み合っていた。
列は中々進まず、ぼけーっとしている私に「この900香港ドルを最後の1ゲームに突っ込もうや、勝ったら倍の1,800香港ドルになるで」と、悪魔が囁いてきた。

僅かに残っていた理性はこの囁きにかき消され、私は残った900香港ドルを全て小に賭けた。

結果は、大。

この記事を書いている今でも、思い出すのも嫌なのだが、一晩で2,400香港ドル(32,000円)を失った。

しかしカジノを後にし、独房のような宿に歩いて戻る間、不思議なことに、負けたという実感は一切なかった。
むしろ、顔面が麻痺して終始笑みが溢れるという、半ば気持ちよくなってハイになっている精神状態であったのではなかろうか。

大金を失ったという実感は、翌日以降に押し寄せてくるのであり、3日くらいうなされたいくらいに苦しめられることになるのだが…

良い子は絶対カジノなんか言っちゃダメだぞ!

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