もはや日本ではないのだ〜蘇州号①

12/21(762day)
大阪国際フェリーターミナル〜蘇州号
12/21
6月にノルウェーから一時帰国して、この日でちょうど半年。
特に意識してそうした訳ではないのだが、きりの良い出発日となった。
母と祖母は自宅で見送ってくれ、兄の運転する車に父と同乗し、大阪国際フェリーターミナルへと向かう。
大阪国際ターミナルから中国・上海へと向かうフェリーは12時出航。
それでも、渋滞や何かのトラブルに巻き込まれるのは嫌なので、7時には家を出た。
この日早朝、大阪は濃霧に包まれた天候で、車から見る視界ははっきりしない。
それと同じように、私の中の「出発するんだ」という実感も、はっきりしない。
少なくとも3年前にアラスカへと向かう前は、不安とストレスでイライラしていたと記憶しているのだが、そうしたこともない。
かといって高揚感も感じていないのであり、「本当にこれから自転車旅行にいくのかな…」と、あまりの現実感のなさに、逆に不安になってくる。
そんな不安を他所に、多少の渋滞に巻き込まれたこと以外は順調に進み、8時頃にはターミナルへと到着した。
荷物を下ろし、自転車をカウンターに預けるのを確認し、兄と父とはここでお別れ。
1人待合場所で残され、11時の乗船開始までベンチでただ腰掛けて待つしかない。
あまりに早かったのか、私の他には2、3人しか待っている乗客がいない。
暇を持て余し、辺りをキョロキョロと見渡してみると、やはり外国へ行くフェリーの待合室だけあって、「麻薬密輸禁止!」であったり、「豚コレラの流行に注意!」らしきポスターがずらり壁に並んでいる。
“らしき”としたのは、”実際には何を書いているのかわからない”ためであり、というのも、ポスターのほぼ全てが中国語か、韓国語で書かれているのである。
恐らくはフェリーの利用客というのは、日本で大量に買い物をし、飛行機での超過料金を避ける中国人や韓国人くらいなもので、日本人で利用しようとする物好きはほとんどいないのだろう。
中国語も韓国語も全く解さない私には、これにより、これから全く言語の通じない国へ行くのだという不安感が、一気に押し寄せて来た。
時間が経つにつれ、次第に乗客の数が増えてきた。
最終的には30人ほどは集まってきたのであり、その中には日本語で話している人もいる。
どうやら物好きは私だけではないようだ。
11時になり、乗船開始のアナウンスがされた。
2等席、別名糞貧乏ったれ雑魚寝フロアのチケットを購入した私は、「コンセントの奪い合いになる」と即座に理解し、いの一番に乗船。
無事に2つしかないコンセントの一つを、確保したのである。
ちなみに乗客のほとんどが1等客室の大富豪だったようで、2等には数える程しかいなかったため、結局は仲良くタコ足コンセントで共有することに。
私を含め2人日本人、4人中国人という構成。
12時ちょうどになり、いよいよ出航。
陸地がゆっくりと離れていくのを見ても、いまいちピンと来ない…
本当にこれから中国に行くのか?
まぁ、もう陸地は離れたから、間違いなく行くんだけどさ。
いい加減甲板にいて、故郷を寂しがる男の振りをするのにも飽きたため、船内に戻って少しウロウロしてみることに。
私の乗る蘇州号は3階建の立派な構造で、内部にはレストランやカラオケバーもある。
船内もほとんど中国語一色。
置いている本は中国と日本半々くらい。
ウロウロするのにも飽きて、2等席に戻ったところ、スタッフがやってきて我々に何かを告げてきた。
日本語がわかる中国人に聞くと、”これから研修だって”という。
なるほどと、スタッフに着いてロビーへと向かう。
スタッフ2人の手に持たれているのは 救命胴衣であり、どうやらその着用方法の説明らしい。
しかし集まったの乗客は私含めて3人だけで、その他30人以上の乗客はいずこに…
そもそも私に”研修だよ”と教えてくれた中国人も、来ていない。
ロビーに閑古鳥が鳴きだしそうな、お寒い状況。
しかしスタッフはそんな空気はお構いなしと、研修開始。
研修はというと、救命胴衣をスタッフ2人が着用し、記念撮影をし、無事終了。
!?
待て待て待て、これが研修とは納得できないぞ?着用の説明ゼロ?
かといって、中国語を話せない私にはこの不満をスタッフに伝えることはできない。
私の他に参加した乗客はみな中国人のようなので、”なんか言ってくれよ”とチラッと顔を見る。
皆、一様に納得の表情を浮かべており、そのまま研修はお開きとなったのである。
何という大らかさ。これぞまさにThe 中国。
出航して一時間足らず、まだここは日本領海域なのだが、どうやら既に私は中国に足を踏み入れたらしい。
納得のいかないまま2等席へ戻ると、私の隣に陣取った中国人が話しかけて来た。
彼は日本で仕事をしているため、日本語が堪能であり、自己紹介から始まりしばらく談笑していた。
彼の仕事は評論を書くことで、専門は政治学だという。
その話からスイッチが入ったのだろう、話は熱を帯始め、最終的には「真の民主主義とはなんぞや」ということを中国人に、日本語で、一時間ばかり延々と説法された。
正直途中からはほとんど聞いていなかったのだがそれでも疲れ、ようやく夕食の時間になり、レストランへ向かう。
ホームページでのメニュー案内や、レストランのショーウィンドウには、「エビフライ400円」「ラーメン400円」という記載がある。
しかし実際には、カウンターに一品料理が並べられ、それを取って進み、
会計をするスタイル。
注文できる空気でもないし、注文しても十中八九「無いアルヨ」と断られそうだ。
味は悪くないんだけどさ。
そんな感じで、「ここは既に日本ではないのだ」ということをフツフツと感じながら、私の出国1日目は過ぎて行ったのだった。
(走行ルート:大阪国際フェリーターミナル→日本海海上)