自転車で行く長野旅行③~ビーナスライン

道の駅小坂田公園~美ヶ原高原美術館
8/27

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長野県には、ビーナスラインと呼ばれる観光道路が存在している。
冬には深い雪で覆われてしまう長野の山岳地帯だが、夏のこの時期は緑美しい高原や自然の中に通る道路を、車や自転車で走ることができる。
ビーナスラインは、その道路の中でも屈指の美しさを誇る道路と言われている。

道の駅小坂田公園で夜を明かし、迎えたこの日。
昔からいつか自転車で走ってみたいと思っていた、ビーナスライン。
遂にこの日はそのビーナスラインを走れるということで、前日は天気の心配ばかりでそわそわしていた。
この日を快晴の下で迎えられたのは、非常に喜ばしい。

夕方に人との待ち合わせがあるのだが、集合場所は諏訪方面から見てのビーナスライン終着点、美ヶ原高原美術館。
ビーナスラインの入り口となる諏訪市から美ヶ原高原美術館まで、標高差だけでいえば1,200メートルも上らなければならない。
今いる塩尻市から走っていると、夕方に到着するのは難しいと判断し、塩尻駅から上諏訪駅まで電車で輪行することに。


塩尻駅から上諏訪駅までは20分程で到着。
駅に着いた時点でまだ9時頃。
逆に時間的に余裕ができたので、折角信州に来たのだし、温泉に入っていくことに。

温泉街は諏訪湖の畔に位置しているため、上諏訪駅から観光ついでに少し諏訪湖周りも走ってみる。
白鳥を模した大きな観光船が停泊しているが、その船が小さい存在に思える程に、諏訪湖は大きい。
この湖が、冬には完全凍結してその上を歩けるというのだから、信じられない話だ。

カヤックでも借りて遊びたいと思っていたのだが、いくら調べても諏訪湖でレンタルカヤックもカヌーも出てこなかった。
あまりにも大きい湖だから、危なくて貸出をしていないのだろうか?

少しがっくり来つつ、温泉街の方へ足を向ける。

温泉は、片倉館という温泉施設を選んだ。
こちらは千人が一度に入浴できるという、大理石でできた浴槽が有名で、建物自体が国の重要文化財に指定されている。
事前に調べたりせずにこの近くを訪れたなら、洋風建築の建物の見た目からは、これが温泉施設とは凡そ検討も付かないだろう。

プールみたいにどでかい浴槽を想像していたのだが、実際はそれよりも一回り小さかった。
こりゃ千人入れても、ぎゅうぎゅうのすし詰めで立って入浴だろうな。

「千人入れる」なんてぶちかました宣伝をしている以上、実際に試した事があるのだろうが、検証した時のことを想像するとむせ返るような思いがした。

入浴も済み、少し早い昼食も片倉館で食べていくことに。
そんな感じで午前中はダラダラしていると、あっという間に12時過ぎに。

こりゃあ、ちとのんびりし過ぎた。
集合場所に辿り着くかも怪しいぞ・・・と慌てて出発。

温泉街から少し走り、長野県道40号線に入ると、早速上りが始まった。

県道40号線の入り口の標高は750メートル程。
美ヶ原高原美術館は大体標高2,000メートル弱。
距離は約50キロ。

そう考えると、緩やかに上っていくのだろうなぁ、と予想していたのだが、とんでもない思い違いだった。

なんだこりゃあ・・・という角度の坂道。
下から見上げる先の道は、壁に見える程の絶望感を伴って、心理攻撃を仕掛けてくる。
まだ住宅街を抜けきらない内から、こんなにも辛い道中になるとは思ってもいなかった。

とてもじゃないが自転車を漕ぐことができなくなり、押して歩く。
早朝の内は心躍らんばかりに嬉しかった快晴が、今は憎らしい。
重い自転車に暑い日差しで、玉の汗でぐっしょりだ。

息を切らして上っている最中、急斜面の途中で中学校だか高校だかが横手に現れた。
「生徒は自転車で通学してるんだろうなぁ」と思うと、押している自分が少し恥ずかしく思えてくる。
が、やはり自転車を漕ぐことができないため、せめて生徒にこんな姿を見られないようにこそこそと通り過ぎる。

住宅街を抜けると斜度は緩くなったが、上り坂は続く。
そして上り始めて1時間半ほど経った13時半頃、霧ケ峰高原に到着。
霧ケ峰って某メーカーのエアコンの印象が先行していたのだけど、長野にあったんですな。

霧ケ峰高原はスキー場になっており、今はリフトだけが動いているだけだ。
それでも大型バスが2台程止まり、少なくない観光客がリフトを乗り降りしている。

休憩のために一番手前の土産屋に入り、ソフトクリームを注文する。
自転車を見てか、女将さんが梨を一切れサービスで出してくれた。

「美ヶ原までかい?ここが一応頂上みたいなもんで、後は小さなアップダウンが続くだけだから楽だわよ」
という言葉を掛けてくれ、気持ちは大分楽になった。

女将さんが言った通り、スキー場以降は厳しい上りはなく、南米のアルティプラノ(高地平原地帯)を思い出させる風景が見られる。

かと思えば、山々が連なる深い山脈が現れたりと、風景のバリエーションが多くて走っているだけで楽しい。

日本において、ただただ走るだけで楽しいという道は、非常に希少な存在ではないだろうか。

美ヶ原高原美術館までの最後の5キロ程は、辛くなるほどの斜度の坂道が待ち構えている。
私の脇を通り過ぎるバイカーの背中を数えきれないほど見送りながら、眉間に皺を寄せて上っていく。

そして16時半頃、ビーナスラインの頂上に到着。
標高は1959メートル。

頂上からの展望。
砂浜に寄るさざ波の様に、山々がこちらに列を成して向かってくる様にも見える。
遥か下で、その山々に飲み込まれそうになっている様に見えるのが上田市だろうか。

コロンビアやエクアドルで走ったアンデス山脈の風景も、こんな感じですっぽりと都市が山脈の中に嵌っていたなぁと回想する。
山と都市の対比を見ていると、いくらインターネットやテクノロジーが普及したとしても、人間の作る文明は、大自然の中ではあまりにも小さい存在だと実感する。

そして、無事に待ち合わせ場所の美ヶ原高原美術館にて合流。
1年かけて南北アメリカ大陸を縦断達成し、4か月程前に帰国したばかりの大学院生・八島君と、その後輩の大島君。
八島君とは旅行中に何度かメッセージのやり取りをしており、お住まいが長野県ということで今回の縁につながった。

2人は大学の自転車旅行サークルに所属しており、そんな3人が揃えば自転車談義に花が咲く。
標高が高いことと疲労から、酒が早々に回ってしまい、申し訳なかった。
話したりないぐらいだったので、また機会があれば話たいと思える、良い夜だった。

(走行ルート:道の駅小坂田公園→塩尻駅→上諏訪駅→霧ケ峰高原→美ヶ原高原美術館)

 

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