マジで切れる5秒前~Calafateまで

El Chalten南東144km~Calafate
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風がテントを叩く音で目が覚めた。
それも、かなりの勢いで叩いてくる。
外を出て確認してみると、西から強く吹いてきている。
この日目指す街・Calafateに着くためには、少し進んだ先の分岐以降、「西に向かって」進まなければならない。

嫌な予感を感じつつ、この強風ではガソリンストーブを使っての自炊もちょっと億劫なため、朝食はパンで済ませて出発する。

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とはいえ、出発してしばらくは南へと進んで行くので、走る向きによっては時折追い風となって風は味方してくれる。
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湖を挟んで向こう側に、微かだが建物が密集している地域が見える。
規模も大きそうで、恐らくはあれがEl Calafateだろう。

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進むにつれて風の勢いがますます強まってきた。
横風で煽られると道路側に飛び出してしまうため、かなり気を使いながらの走行になる。

そうして進むこと40キロ。件の分岐点に到着。
Calafateの街は、メイン道路の40号線から離れ、分岐を西側に30キロ進んだ先にある。
一本道のため、Calafateに寄った後は再度この分岐まで戻ってこないといけないので、本来なら全くの無駄な寄り道ということになる。

ただ、Calafateの更に西に、世界遺産・ペリト・モレノ氷河が存在している。
私の中では、パタゴニアの観光地といえばこのペリト・モレノ氷河の印象が強かったため、ここは是非とも行ってみたい。
行きたい場所には余程の理由がない限りは、労力をいとわない所存である。

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いとわないのだが・・・
この記事の最初に、風の事について少し触れた。
風は西から吹いてきている。そして、この分岐からは西に進むという事にも触れた。

それを加味して、まずはこのビデオを音声付きで見て頂きたい。

お分かり頂けただろうか・・・
この風と真正面から喧嘩しながら、この先Calafateまで30キロ走らなければならない。

しかし、そう、私は行きたい場所には労力をいとわない男。
こんな風に負けて堪るか。そしてこの風を切り裂いて、Calafateすらも越えてペリト・モレノ氷河まで110キロ、自転車で行ってやるわ!

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・・・そんな幻想、5分でこの暴風に吹っ飛ばされたわ。

どんだけ力を込めても時速5キロしか出ねぇ。
路肩の無い狭い道路で、追い抜く車は車間距離も開けねぇ。
トイレのために標識に立てかけた自転車が数秒で倒れた。慌てて起こしたら、サイドミラーがねぇ。
地面を見下ろしたら、折れたサイドミラーが足元に転がっていた。

ふざけんなよ!と拾い上げたミラーをぶん投げたら、投げた瞬間から暴風に攫われて右に飛んで行った。
おぉ、おぉ。まるで全盛期の小林雅英の投げる高速シュートではないか。ははは、こりゃ面白い。

・・・いや、ふざけんなよ!

半ば不貞腐れる形で、自転車に跨りながら、できるだけ姿勢を低くしてこの怒りを鎮める意味も込めて小休止する。
すると、対向車線からやってきた、同じく自転車旅行者の欧米人が声を掛けて来た。

彼はとてつもない追い風を受けてテンションが上がっているのか、「どこから来たの?アラスカ!?ワーオ!」と些か舞い上がり気味のよう。
そのテンションの高さが、今の私には最高に鬱陶しい。

「ねぇ、何で旅行することを決意したの?」
うるっせぇ。ただこうして止まっているだけでも暴風で倒されそうな中、何で話さなけりゃならんのだ。
しかも、この状況で私が一番嫌いな質問をしてくるかね!!!!????

もちろん私もいい歳した大人なのでそんな事口には出さないが、人生の中でもこれ以上ないというくらい眉間に皺を寄せて答えていたと思う。

「じゃあ頑張ってね!HAHAHA、大丈夫!Calafateからは良い追い風を受けられるよ、チャーオ!」
眉間に皺どころか、歯をむき出しにして手を振って別れたように思う。

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この暴風下で、道はアップダウンが続く。
最悪なのは、ダウンでもペダルを漕がないと全く進んでくれない。

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カメラを構える一瞬すら危険な程、風は更に強まる。
何度「途中で野宿して、Calafateは明日着にしよう」と思った事か・・・。

ただ、遮蔽物が一切ないこの状況ではテントを設営すら不可能だろう。
掛けている眼鏡でさえ、もう3回吹っ飛ばされてるのに、テントなんて。はは、無理だよ。
結局、進むしかない。

ボブ・ディランは昔、「風に吹かれて」という歌を作った。
宮本浩次も昔、「風に吹かれて」という歌を作った。
風の切なさを感じる、どちらも私の好きな歌だ。

そんな切なさ、パタゴニアの暴風には欠片もねぇ。
この暴風の中ならディランの天パはもっと爆発し、宮本はイライラしていつも以上に髪をグシャグシャにかき乱すだろう。

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17時過ぎ・・・分岐から僅か30キロ。所要時間は5時間。
Calafateに到着。

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ホステルに到着して鏡を見てみると、眉間の皺が痕になって落ちなくなっている。
我ながらこの風に、よっぽど頭にきてたんだろうな・・・

ホステルはパタゴニアにあって10USドルと安く、居心地も良さそうなため、2泊することにした。
氷河観光は翌日に回し、この日は鬱憤を晴らすためアルゼンチンビーフをしこたま食ってやった。

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(走行ルート:El Chalten南東144km→Calafate)

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