世界の果てでI shout~Laguna Desiertoまで

Villa O’higgins~Laguna Desierto
2/24 (645days)

2/24
湖を渡る船が朝の8時発。
Villa O’higginsから港は8キロ離れているため、日の出前に準備と朝食を済ませ、7時過ぎに出発。
パタゴニア地方で7時だと、まだ薄っすらと明るくなってきたか、というくらい。
IMGP4307

湖畔沿いで平坦な道なのだが、8時ギリギリに到着。
いやー、危なかった。

何て胸をなでおろす思いだったのだが、港にいくつか船はあれど誰もいない。
私を含め、他に集まって来たサイクリストも皆、「本当に出発するのか?」とソワソワしている。

ちなみにこの港が正式なアウストラル街道の終着点。
全長1,247キロ。
途中、土砂災害で走れなかった箇所はあったが、無事走破。
IMGP4309
結局船のキャプテンが来たのは9時近くなってから。

チリやアルゼンチンは南米にあっても、他の国とは一線を画し、いわゆる「ラテンタイム」という、時間にルーズな、平気で1時間や2時間待たされることは今まで無かったように思うのだが・・・。

ここまで田舎だと「ラテンタイム適用地域」なのかもしれない。

というか、そもそも出発前日に所用があり、営業時間であるはずのオフィスに行ったら何故か閉まっていた。
併設のホステルに尋ねると「一時間後の19時に来てくれ」と言われ、19時に行くと「20時に来てくれ」と言われ、20時に行くと「21時に来てくれ」・・・の無限ループに陥った。
まぁ、結局開かなかったんで諦めました。

ちなみに乗り込む船はこれ。 
フェリーじゃなくて小型のボート。
自転車4台も積めるのかよ・・・

と心配していたのだが、向こうも扱いには慣れていて全然余裕で積み込めた。
ちなみにお値段36,000ペソ(約6,300円)。たけぇ。

(※対岸にて撮影)
IMGP4317
荷物の積み込みはすぐ終わり、9時には出航。
乗客は私を含め8名。
内4名が自転車旅行者という、この地域でしかあり得ない割合。

乗った感じはボートというより遊覧船みたいな感じで、そこまで速度は出ない。

波もなく、ほとんど揺れがなくゆっくりと航行していく。
その内眠くなり、私も席の上でウトウト舟を漕いでいたのだが・・・。

次に目が覚めたのはどうも湖のど真ん中だったようで、どこを見ても陸地が遠い。
そして何故か船からエンジン音がせず、停泊している。
というか、これ大丈夫か?横波受けて超揺れてんじゃん。

その内船員が慌ただしく、船首に積んでいた乗客の荷物(ガチ登山装備4人分)を引っ張り出して座席に置きだした。
どうも重量のバランスを取っているらしい。

そして船は再び動き出したのだが、そこからはもう地獄のようだった。

波に向かって船は進んで行くのだが、その波が高く、越える時に船が一瞬浮き、次の瞬間には「ガツンッ!」という衝撃音と共に水面に着地する。

最初は乗客皆「まるでアトラクションみたいじゃないか、HAHAHA」なんて笑っていたのだが、それが延々と続く上に、どんどん酷くなってくる。

次第に着地の瞬間の衝撃に、思わず「ウグッ!」と腹から声が漏れる程になってきた。
というか、そういう風に力を込めて衝撃に備えないと危ない。

最初は笑っていた我々乗客陣だが、船員がライフジャケットを着けだした時、「あ、こりゃ遊びじゃねぇぞ」と全員顔色が変わった。

乗客全員がライフジャケットを着用した所、スペイン語が話せる乗客はキャプテンに「お前ら外に出ろ!」と言われ、「波が来る方角を大声で伝えろ、いいな!」と命令されていた。
何だこれ、超やばくないか。

私はといえば、もういつでも吐けますよ、という酩酊状態で座席につっ伏していた。
早くこの地獄が終わってくれ・・・

そして・・・

11時45分。無事に対岸に到着。
対岸には復路の出向を待つたくさんの乗客がいたのだが、ボートが着くなり「今日の出航なぁ~~~~し!」とキャプテンが高らかに宣言していた。

おいおい、彼等こんな所で足止め喰らうのかよ。
こっちは上陸しちゃえば問題ないので構わないのだが・・・可哀そうに。

いや、とにかく生きて再び大地を踏めてよかった。
IMG_6403
しばらくは大地が揺れている様に感じていたが、昼休憩を取って一息着くと次第に落ち着いてきた。
というわけで荷物を括り付けて出発。

港から僅か1キロでチリ側のイミグレーションオフィスに到着。
IMGP4321
ここから20キロ弱先に、アルゼンチン側のイミグレーションオフィスがある。
そして、この20キロ弱が「世界で最も美しく、最も過酷な国境越え」と呼ばれている区間になる。
IMGP4322
はっきり言って、こんな「世界一○○」なんて主観に過ぎないのであって、実際に見たり通ってみたら大したことない、なんてことは往々にしてあるわけで。
ま、誰が言ったか知らんけど、お手並み拝見と行こうじゃない。

・・・なんて思っていたんですけどね。
初っ端からいい上りかましてくるじゃない。
IMGP4329
意地でも漕ぎ切ったるわ!と頑張ったんですが、やはり私も力尽きて押しが入った。
IMGP4331
その後は上りが一段落し、徐々に緑深い林の中へと道は伸びていく。
車が通る事など滅多にないのだろう、轍の真ん中にまで草が生えているのは、何だか詫び寂び
を感じる。
IMGP4337
アラスカやカナダでもそうだったのだが、ここパタゴニア地方でもまるで髪の毛の様な葉(?)が枝から垂れている。
この葉が樹全体を覆っており、これが森林をより深く、日光から遮断された空間に仕立て上げている。
IMGP4338
チリのイミグレーションオフィスから走る事10キロ程。
アルゼンチンの領地に到着。
IMGP4340
この鉄塔を挟んで・・・
IMGP4341
北側がチリ。
IMGP4344
南側がアルゼンチン。
IMGP4342
もう既にアルゼンチンには入っているのだが、イミグレーションオフィスはここから更に10キロ弱進まなければならない。
そしてここからが所謂「世界で最も過酷な国境越え」のスタートラインだった。

チリ側はまだ「道」の体を成していた。ここで言う「道」とは、車を通すための物を言っていると思って頂きたい。
アルゼンチン側は、それに照らし合わせると「道」ではない。

人ひとりがようやく通れる幅の、恐らくは鉈で切り開きながら突破したのであろう「線」が森の中に延びている。
IMGP4346
樹々は日光を遮断し、代わりに深い緑を以って頭上に覆いかぶさってくる。
同時にまるで音も遮断されたかのように、静寂が辺りを包んでいる。
IMGP4363
IMGP4352
アルゼンチン側に入ってからは自転車を漕ぐことは不可能になり、全区間押す事になる。

自転車と言う乗り物は非常に運動効率の良い乗り物で、平地を走るのであれば恐らくは100キロくらい荷物を載せても、走る事が可能だろう。

ただ、それが漕げないとなると、即座に「糞重たい鉄の塊」になり果てる。
これは自転車旅行者にとって、非常に大きなストレスとなる。
IMGP4372
実際この区間を通ってみて、まず「世界一美しい国境越え」は無いな、と思った。
そもそも深い森林を通るため、周り見えないし。

次に、「世界一過酷な国境越え」の面だが、これもどうだろうな、と。
確かに過酷だけど、ヤバさは感じなかった。普通に進めるし。

ただ、「世界一ストレスが溜まる国境越え」だなとは思った。
そもそも自転車に乗れない上、自転車の天敵が多すぎる。

タイヤの車軸まで埋まる泥に、
IMGP4347
膝下まで漬かる川に、
IMGP4370
自転車一台すら通れないくらい狭い道。
これが一番キツイ。
枝に引っかかってハンドル取られる。
IMGP4377
外国人が本気で言う「(Fuck(ファック)」って聞いた事あります?超怖いですよ。

私と近い距離で進んでいた自転車旅行者が初老のニュージーランド人で、もの凄くゆっくり話すおっとりした人だった。

もちろん自転車は押していたのだが、恐らくペダルが脛(すね)に当たったのだろう。
「このファッキンペダルがあああぁぁぁぁぁっ!!!!」

と叫んで、プロレスラーがコーナーに押し込んでストンピングするが如く、ペダルにガンガン蹴りを入れていた。
もうね、滅茶苦茶怖いですよ。

ただ、サイドバッグが木の枝に引っかかって倒れそうになる度、私も「この糞ったれボケあぁぁぁっ!!!」と叫んでいたため、「コノ ニホンジン コワイネ」と思われていたかもしれない。
IMGP4380
森を抜けて湖が見えた時には、スーッと頭が冷えていくのが分かるくらいだったので、相当怒り狂ってたと思う。
まぁ、一回目に湖が見えた時はフェイクで、すぐにもう一度森に入らされて同じことさせられたんですけど。
この糞がっ。
IMGP4374
で、アルゼンチンのイミグレーションオフィスに着いた時はその怒りも枯れ果て、へとへとの状態になって到着。

このイミグレ、パソコン処理じゃなくて職員がノートに手書きで入国処理するんですよ。
この2018年に。手書きですよ。
IMGP4381
このイミグレーションオフィスの目の前にはLaguna Desierto(ラグーナ・デシエルト)という湖が広がっている。
ここから先には道がなく、船を使って湖の対岸まで行かなくてはならない。

船はどうやら午前中しかないようで、イミグレーションオフィスも、船を待つ旅行者がこの湖付近でキャンプをして夜を過ごすことは認めてくれているらしい。

他の自転車旅行者と一緒に私もテントを張り、まずは自転車に付いた泥を湖の水で洗い流した。

いくつもの川と泥を越え、手が痺れるくらいにブレーキを掛けた結果。
ブレーキシューがあっという間に消滅。
右が新品、左が見事に削れたシュー。
RIMG0603
とにかく滅茶苦茶に疲れた一日だったが、テントから見える景色は絶景で、湖の向こうにはアウトドアブランド・Patagoniaのロゴにもなっているフィッツロイ(Fitzroy)が見えている。
IMGP4385
まぁ、通っている最中はぶち切れてたけど、フィッツロイが見えたし許してやるか・・・。
とにかく無事にアルゼンチンに2度目の入国。

この国境を越えれば、もう世界最南端の町・Ushuaiaも射程圏内。
あぁ、南米が終わってしまう。

(走行ルート:Villa O’higgins→Laguna Desierto)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です