チリ入国一歩手前で・・・~Las Cuevasまで

Polvarendas~Las Cuevas
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廃線の駅舎には親子の野良犬が4匹居付いており、人懐っこかったため仲良くしていた。
朝、陰に隠れて用を足したのだが、今しがた出してまだ湯気が立っている私の分身に、その野良犬親子が集まりだした。
「まさかな・・・」と思って物陰からそっと眺めていると、30秒ほどでサッと解散していった。
現場に戻ってみると、私の分身は見事にキレイさっぱりいなくなっていた。
・・・まぁ、宿泊代金がウンコだったと思えば非常に安上がりだったね。
この日は青空が広がる晴天で、徐々に標高を上げていく緩やかなアップダウン。
ゴツゴツとした大きな山の間を、川沿いに進んで行く様は、「あぁ、アンデスに帰って来たな」と思い起こさせてくれる。
上っていくに従って、頂上付近が雪に覆われた山が現れ始めた。
この付近はスキーが盛んなリゾート地らしく、時々ある集落にはホテルが立ち並んでいる。
「うわぁ・・・お母んごっつ怒ってるやん・・・俺ごって損やん・・・」
しばらく走ると、アコンカグアの登山道入り口に到着。
頂上かどうかは分からないが、明らかに周りの岩山とは段違いの威圧感を纏った雪山が、チラッと頭を覗かせている。
登山道手前から、アコンカグアからの強烈な吹きおろしによりペースがガクっと落ちていたため、登山道入り口にあるオフィスで昼休憩も兼ねて避難した。
オフィスの中には登山隊の装備品等が数点展示されている。
その中で目を引いたのは、アコンカグアのパノラマ写真。
正確には、写真というか、帯に書かれている「Top of the Andes(アンデスの主峰」の文字に惹かれた。
アコンカグアは標高6,960メートル。
南米最高峰の山なのだが、結局登ることなくその脇を走るだけとなった。
高額な入山料が一番大きな理由なのだが、「南米最高峰」という字面にはそこまで大きく心が動かなかったのだと思う。
それが「Top of the Andes」という字面になると、不思議と「あぁ、何か登りたくなってきた」という気持ちになってきたのは、この時自分自身でも驚いた。
南米を自転車で走るということは、イコール「アンデス山脈を走る」ことであり、私自身ここに来るまでの半年間、ほぼ常にアンデス山脈と喧嘩し続けて来たことになる。
アンデスの峠を越える度に得られる征服感というのは、自転車旅行者にとっては麻薬の様な物らしい。
一度覚えてしまうと、その魅力は決して忘れることができない。
「そのアンデス山脈との喧嘩の締めくくりに最も高い所に登ることにより、最高の征服感を得られるのではないか?」
と、この休憩中、少し心が動かされた。
1時間程オフィスで休憩し、この日の後半戦開始。
吹きおろしは勢い変わらず、やはりペースが上がらない。
オフィスから上りの傾斜もきつくなり、腰に少し怠さを覚えるものの、やはり見下ろす風景は素晴らしい。
こういう風景を見ると、前述の征服感を感じられるわけです。
14時半、Las Cuevasの集落に到着。
この集落を抜ければ4キロ程のトンネルがあり、その先がチリ。
チリは目と鼻の先であり、当然この日の内に入国しようと思っていたのだが、このLas Cuevasに到着した時から天気が崩れ、雨が降り始めた。
時間には余裕があるため、適当なカフェに入り少し待とうと思ったのだが・・・
天気は一向に止むことなく、雨どころか雪まで降って来た。
結局2時間待ち、痺れを切らして雨が止んだ間隙を突いてカフェを出たのだが、10分もしないうちに雨がまた振り出した。
もうこの日の国境越えは諦めたのだが、コーヒー一杯が300円近くするこの集落では、手持ちの少ない現金でとてもホステルには泊まれないだろう。
どうしようと思案している時、教会が目に入った。
屋根があり、入り口にも鍵は掛かっていない。
祭壇には記帳があり、旅行者が名前やお礼のコメントを書き込んでいる。
逃げ込み寺的な存在なのだろうか。
雨が降り、風も強いためかなり寒い。
教会の中でパンを食べ、流石に中で寝ることは憚られるため、入り口前にテントを張った。
明日、晴れるのだろうか。
(走行ルート:Polvarendas→Las Cuevas)