アンデス動物奇想天外~Pilluniまで

10/17 (515days)
10/17
雲が多く快晴とまでは行かないまでも、雨は降っていないことにホッとする朝。
テントを設営した広場が全体的に土の地面であり、昨夕に降り始めたの雨の激しさから徐々に泥へと変化し、テントの前室(テント入り口にある靴などを置けるスペース)が泥まみれになっていたため、「テント全体が沈下するんじゃないか?」と恐れていたのだが、それは免れることができた。
私は出発時、日本から一切本を持ってこなかった。
旅行をする間にもらったり買ったりで徐々に増えてきて、Limaで交換して手持ちの本を刷新した。
昨日の時点で坂らしい坂は上り切っていたのか、ほとんどフラットに近い道を進んで行く。
その線は画用紙を少しでも遠くに置いて見れば、きっと全く見えずに白紙の画用紙にしか見えないだろう。
それ程見渡す限りに草原のみが広がっており、この風景の中で人間作った家、道など極々小さな存在でしかない。

草原には至る所にアルパカが生息している。
耳に可愛らしいリボンが付けられていることから家畜であることに間違いはないのだが、飼い主は自分が何頭所有しているか把握しているのか怪しいくらい、大量に群れている。

君、首を掻くときは犬そっくりだね。

この区間、いくつもの湖が点在している。
よく目を凝らして見ると鳥が湖畔で群れており、もっとよく目を凝らしてみるとピンク色をしている。
フラミンゴだ。こんな高地にも生息しているとは全く思ってもいなかった。



その後もフラットに近いアップダウンを繰り返して進んで行く。
行く先には頂上付近に雪を湛えた山が見える。


進行方向の先は曇っているものの、頭上は青空が広がっており、陽射しも射している。
それでもかなりの冷え込みで、上着なしではとてもではないが寒くて仕方がない。
道理で寒いわけだ。
雪山は割とどこでも見てきたが、雪を間近に触れられる距離で見たのはアラスカ以来ではないだろうか?
まさか南米で見る事になるとは思っていなかった。
丘を少し下った所、まるで砂漠の中にぽつんとあるかのような佇まいで、草原の中に一つの集落が現れる。
Negra Mayoという集落に到着し、昼食休憩を取ることにした。
レストランは数軒あるものの、営業していたのは一軒だけ。
メニューもCaldo de Gallina(鶏ガラスープ)のみ。
パスタをスープに入れ、ラーメンの様にしており、南米では好きな料理。
昼ごはんを食べている横では、レストランの跡継ぎ息子がメニュー表の文字を真似っこで看板に書き、文字の練習をしていた。
昼食後も走っていて気持ちがいい天気で、アンデス山脈で見える特徴的な青い空が、この日はより一層濃く見える様に思う。
自然とペダルを漕ぐ足にも活力が漲り、ペースが上がっていく。
「調子が良い所、ちょっと失礼しますよ」
アルパカは前述の通りそこかしこにいるのだが、アルパカ以外にもフラミンゴや他の動物がこの地帯には何種類か見ることができる。
ビクーニャも生息している。
羊だっている。
過去の舗装路下での標高4000メートル付近走行となると、エクアドルのチンボラソ山周遊ルートまで遡るのだが(多分)、その時はここまで多種に渡る動物達は見なかった気がする。
確かあそこで見たのはビクーニャだけで、ある程度高度を下げないとその他の家畜は見なかった。
走っていて感じたのはエクアドルは農耕種族で、ペルーは遊牧ではないけれども畜産業を生業としている人々が多いため、そこら辺の違いが現れているのかもしれない。
しばらくして標高4200メートルから3900メートルまで、谷間を蛇のようにうねる川まで一気に下る坂道となる。
谷底にはPampamarcaという町があり、小規模ながら一応安宿もある。
ここで走行終了してもよかったのだが、この時点で15時。
Pampamarcaから10キロ程進んだ地点が、NazcaからCuscoまでの道の標高ピーク(4300メートル)になる。
翌日に楽をするためにこの日の内に到達しておきたい、そう考えてPampamarcaをスルーして走行を継続することにした。
下ってきた方とは逆側の谷に張り付き、山沿いに沿って上っていく。
この坂道を上り始めて15分も経たない頃だろうか、ゴロゴロっという嫌な音が背後から聞こえて来た。
ふと後ろを見ると、どす黒い雲が私の背後、今まで通ってきた道を覆い隠しているではないか。
そして今は凄い速度で、坂道を這うようにして、私のいる場所まで飲み込もうとしている。
「これはマズい。急がないと!」
この時にPampamarcaまで引き返して安宿に投宿すると考えないのが、典型的な自転車旅行者の思考だと思う。
下ればものの5分でま町に戻れるのに、「今上ってきた坂道を下って、翌日に同じ坂道を上りたくない」という思考。
自分のすぐ頭上に迫りくる雲と前方の道を交互に見ながら、この時は必死にペダルを漕いだ。
幸いなことに、進行方向の前方はまだ青空が雲の隙間から見えている。
標高4300メートルのピークに到達した時も、その感慨にふける余裕はなかった。
ピークに到達したら当然下り坂が始まる。
「ここで一気に暗雲を突き放すことができる!」、もうほとんど鬼ごっこに近い状況。
ピーク到達の時点でもう17時近い時刻であり、下りつつも野宿場所を探さなければならない。
きょろきょろしながら下っていると、途中でPilluniという小さな集落があった。
安宿もなく、家も4、5軒程しかない過疎集落なのだが、小学校がある。
小学校を覗いて見ると、一人男性教員がおり、ダメ元でテントを張らせてもらえないか頼んでみた。
恐らく過去に何人も自転車旅行者が訪れているのだろう、「教室が開いてるからそこを使っていいよ!調理もガソリンストーブを中で使っていいから」と快諾してくれた。
教室に入って間もなく暗雲が追いつき、大粒の雹(ヒョウ)が教室の天井を激しく打ち始めたため、本当に幸運だった。
少し埃臭い教室でマットを敷いて寝転ぶ。
雹は次第に雨へと変わり、夜通し天井を打ち続けていた。
(走行ルート:Puquio東45km~Pilluni)
素晴らしい。バス旅行ではアルパカと何処かの池でフラミンゴは確認です。その後展開が凄い。動物、道路、町等の情況、現地人との交流、常人には無理です。凄い。感動です。