アンデスに道を通すという事~Chuquicaraまで

Cabana~Chuquicara
9/15 (483days)
9/15
Cabanaの町を出発する際、調理用のガソリンを購入しようとしたが、「3リットルからだ」とどの商店でもにべもなく断られてしまった。
この日も未舗装路での走行なのだが、事前の調べによると標高3000メートルのCabanaから一気に標高500メートルまで下っていく予定になっている。
未舗装路であるため決して手放しでは喜べないが、今までのルートに比べて楽ができることには間違いない。
・・・と思っていたのだが、先に続く道はどう顔を傾けて見てみても、上り坂にしか見えないのだが。
一旦標高2600メートルまで下り、その後上り返しで徐々に上っていく。
この日は一日ずっと楽ができると思っていたのに勘弁してくれよ・・・
Cabanaから走る事10キロ・・・。
あ、あれ!?何の前触れも無しに急にアスファルト舗装が!?
しかも久しぶりに中央線まで引かれている立派な物が。
特に目立って大きな町がある訳でもないのだが・・・
どうせすぐ未舗装路に戻るんだろう?と身構えていたが、その気配もなく、謎もすぐに解けた。
標識を見るに、県が変わったのだ。
先ほどの未舗装路との境目からAncash県に変わり、この県はこれから向かう世界遺産のワスカラン国立公園を抱えているため、財政的にもかなり潤っているのだろう。
しかし、県が変わるだけでここまで道の状況が露骨に変わるか。
それでも上り坂に変わりはないのだが、圧倒的に楽ちん。
どんな上り坂であっても、それがアスファルト舗装されたものであれば、今の私のレベルなら全く苦にならずに上ることができそうだ。
これは高慢でも何でもなく、エクアドルやペルーでの走行で、相当に脚力を鍛えられたという自負が、今の自分にはある。
坂を上っている間、丘の向こう側に見える空がもの凄く鮮やかな青色をしているな、と思っていた。
丘の頂上に着き、そこから見える景色は正に絶景そのものだった。
見たことも無い程に澄んだ青い空に、巨大な壁の様に聳えるアンデス山脈に囲まれた大渓谷。
そしてその山脈に通された一本の道が、遥か彼方下、見えなくなる所まで続いている。
この綺麗に舗装された道を下り、ぐるりと囲むアンデス山脈を見ながら走るこの瞬間が、いつまでも続いてほしいと思えるほど、感動的な時間であった。
これまでの数日間、疲労困憊で連日走り続け、身体だけでなく心も疲弊していた頃にこの道に辿り着いた。
タイミングも風景も完ぺきだった。
この旅行中、最も心が震えさせられた道ではないだろうか。
この道を作るのに、一体どれだけの時間が費やされ、どれだけの人が、金が動いたのだろうか。
恐らく、途方もない時間と、何世代にも渡る人々の仕事と、多額の投資の元に完成したのだろう。
今、その道を私が走っている。
普段、走っていてこんなことを考えることは一切ない。
しかし、この道ではそんな思考が自然と湧き上がる。
これがアンデスを走るという事だろう。
アンデスに道を通すという事の困難さ、壮大さ、そしてそれを実現してしまうペルー人の「アンデスと共に生きる民族」としての強さというものを、私はこの道に見た。
下り途中、Ancosという集落に到着。
昼食休憩を取り、ガソリンも無事に購入することができた。
住民曰く、こんな100人も住んでいないような集落に中国人がおり、ミネラル採掘の仕事をしているという。
本当、世界中どこにでも住んでいしまう中国人のバイタリティというのは計り知れない強さがある。
Ancosを出てもまだまだ下りは続く。
それもそのはず、Ancosの時点でまだ標高は1800メートル。
この日は500メートル台まで下っていくのだ。
ミネラルの採掘をしていると言っていた通り、この付近はその影響からか樹々が一切生えておらず、サボテンの
みが何本も間隔を空けて乱立しているのみである。
かつては人が住んでいたのだろうか、遺跡のように干からびた民家の跡が、所々に存在している。
その後も下り続け、遂に川底に到達。
下り切った後は、川沿いに、南へと向けて進んで行く。
回りは見上げると首が痛くなるほどに高い崖に囲まれており、岩が落ちてくるんじゃないかと冷や冷やしながら進んで行く。
川底に落ち、ここが今この周辺で一番低い所のため当然なのだが、風がもの凄い勢いで谷間に吹き込んでくる。
その風が向かい風のため、スピードに思うように乗っていくことができない。
風に抗いつつ、ゆっくりと進んで行くしかない。
ちなみにこんな渓谷の中にも、集落とは言わずとも家が数軒は点在している。
そして、恐らく政治家の選挙活動なのだろうが、崖には宣伝のペイントが施されている。
「Cに入れてね」なのか、「Cに入れるよ」なのか分からないが、やたらと「C」が多い。
それにしても、わずか数票にしかならないだろうに、ご苦労なこった。
いやー、しかしこの道は本当に凄い。
南米の絶景へのポテンシャルというのは底知れないものがある。
全く語られないこのペルー国道3号線にしろ、アメリカ合衆国の国立公園に勝るとも劣らない魅力で溢れているのに、全くの無名の存在という末恐ろしさ。
トンネルだってある。
野宿場所を探しながら走っていたのだが、気付けば川を渡る大きな橋に行き当たり、この橋を渡ればすぐにChuquicaraの町に着いてしまった。
翌日はこの山を上っていくことになるらしい。
Chuquicaraの町がちょうど分岐点になっており、西に進むと沿岸の都市Chimboteへ、東へ進むとワスカラン国立公園方面へと向かう道となる。
私は翌日、東へと向かう。
この町で少し野菜の買い出しをしたかったのだが、Chuquicaraは町というよりいわゆるパーキングエリア的な位置づけらしく、果物や飲み物はあるものの、野菜などは売っていなかった。
ちょうど町の入り口に交番があり、その隣でテントを張らせてもらえることとなった。
標高500メートルから2000メートルへの上り返し・・・果てしない道程となりそうだ。
(走行ルート:Cabana→Chuquicara)