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Ambato南西40キロ~Ambato南西70キロ
Volcán Chimborazo (チンボラソ)
8/14 (451days)

8/14
朝、包まった寝袋の中で目が覚める。
標高3800メートルといえど、想像していたよりかは寒くはない。

テントの外に顔を出すと、温かい日差しが牧草地を照らしている。
その上を雲が這うようにして敷き詰まっている。
雲が自分のいる場所よりも低い位置にあることに、自分が相当に標高の高い所にいることを自覚する。
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そしてテント正面に聳えるのは、雲一つ掛かっていないチンボラソ。
前日は全貌は分かっても常に薄く雲が掛かっていたのが、この日は何も遮る物なく、凛とした姿を望むことができた。
おにぎりの様な形をして頂上付近に雪が積もっている姿は、どことなく富士山に雰囲気が似ている気がする。
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チンボラソを眺めつつ、お湯を沸かしてインスタントラーメンを食べ、朝露に濡れたテントを日差しで乾くのを待ちながらボーっとする。
いつもよりもゆっくりした出発準備であり、いつもよりも時間が流れるのが遅い気がする。

朝ご飯もテントが乾くのもとっくに終わっているのに、それ以上にゆっくりと朝の時間を過ごし、9時頃ようやく出発。
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この日は雲がほとんどないような願っても無い晴天で、チンボラソの他にも、昨日は見えなかった山までよく見える。
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計画を練っていたときから分かってはいたが、道はチンボラソの周りをぐるっと迂回するような形で通されている。
そのため、後の写真をよく見てもらえれば分かるのだが、色んな角度のチンボラソを見ることができる。
雪の積もり方であったり、麓の景色との組み合わせで、同じ山なのにガラリと印象が変わる。
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北側から見たチンボラソ頂上
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西側から見たチンボラソ頂上
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南側から見たチンボラソ頂上
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チンボラソの標高は6,310メートル。
朝に出発した場所から同じ標高3800メートル程をずっと走っているなのだが、そんな高地にも集落があり、家畜と共に人々が暮らしている事には驚く。
もちろん住んでいる人は全てインディヘナの人々であり、パナマ帽を被りポンチョを羽織った独特の服装をしている。
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徐々に標高3800メートル台から上り始め、3900メートルに達した。
この3900メートルというのが一つのターニングポイントのようで、以降、集落は一切姿を消すことになる。
もちろん都市レベルだとこれ以上の標高にあるものは数多くあるだろうが、個人や数世帯の集落規模で自給自足で暮らしていくとなると、ここら辺が限界点なのかもしれない。

家畜のリャマや羊達も同時に姿を消したのだが、その代わりにVicuña(ビクーニャ・ラクダ科)という鹿の仲間の様な野生動物が増えてきた。
不思議なことに、標高3900メートルを超えて存在している生物はビクーニャのみであり、逆に3900メートルを割るとこのビクーニャはぱたりと姿を消す。

彼等の天敵となる動物が高地にいないからなのか、それとも3900メートル以上の高地にならないと彼等の主食となる植物がないからなのか・・・。
どちらにしろ、不思議なことである。
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生態系に変化があれば当然風景にも変化があり、標高3900メートルから明らかに世界が変わった。
それまであった牧草地から取って代わって枯草のような植物ばかりとなり、辺りから緑色が消え失せた。
まるで砂漠の中を走っているような気分になってくる。
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風が少し吹き始めた頃、路肩に「Bike House」と書かれた廃屋が目に入り、中に入ってみた。
天井も壁も何もないタダの廃屋なのだが、恐らくここを訪れた自転車旅行者が私と同様に風よけとして利用し、落書きとして残していったのだろう。

時間もちょうどよく、持っていたパン、アボガド、玉ねぎ、トマト、卵でハンバーガーを作り昼食とした。
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Bike Houseから進むこと数キロで、標高は遂に4000メートルを突破する。
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4000メートルを超えると更に変化は顕著となり、枯草もほとんどないような砂と岩が転がる荒涼とした大地へと突入する。
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荒涼とした不毛の大地にも、ビクーニャだけは生息している。
このビクーニャ飛び出し注意喚起のペイント、自転車乗りくらいしか気付かないと思うのだが。
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この荒れた風景を愛した人がいるのだろうか、質素な墓標が寂し気に佇んでいる。
葉で作られたリーフは乾燥した空気のためか、訪れる人がいないのか、カサカサになっている。
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少し上って開けたところに、これまで一本道で続いてきた道に三叉路が現れる。
左折した場合はチンボラソを巻く形で麓の都市、Riobambaまで下る道となる。
ここまでくればもう半周達成したようなもので、ちょうど折り返し地点であり、この道を左折した。
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この三叉路を左折すると、チンボラソの斜面に沿って何度もアップダウンを繰り返して進むことになる。
先に見える景色は、砂漠の砂丘の上に道が通っているように見える。
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そしてこの三叉路以降は、世界が変わったというよりも、どこか違う惑星にきたのではないか?と感じる程であった。

近くに見える景色は、砂とわずかな乾燥地植物が生えるのみ。
聞こえる音は轟音を立てる強風、いや暴風の音しか聞こえない。
暴風は砂を巻き上げて、私と自転車に横側から容赦なく叩きつけてくる。

とても自転車を漕げたものではなく、暴風が吹き荒れている瞬間は顔を伏せ、自転車をしっかり支えて風が止むのを待つしかない。
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暴風が弱まった時に進み、吹き荒れればまた止まり、を繰り返して少しずつ進んで行く。
砂埃が、口から鼻から耳からどこからでも入ってくるため、顔のどこを触ってもジャリジャリとした感触がある。

標高は4000メートルからまだ上っていく。
丘を上っている最中、三叉路以降自分が走ってきた道を見下ろすことができたが、広大な砂漠に巨人が人差し指でなぞったかのような細い道が、私が今いる所まで続いている。
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三叉路から走ること10キロ弱、小高い丘を上り切ると、前に続く道は下り基調になっている。
ということは、ここが最高到達点ということになる。
高度計が指す標高は4220メートル。
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他の惑星にいるかのように錯覚させられる、風と砂と岩と僅かな植物以外何もない無の世界で、チンボラソだけが確たる存在として堂々と鎮座している。
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記事を作成段階でチンボラソについて調べたのだが、山頂は地球の表面上で最も地球の中心から離れた山であるとのこと。
(※詳しくはWikipedia「チンボラソ」参照)
標高で言えばもちろん最高峰はエベレストになるのだが、ある意味ではこのチンボラソが世界の中でも特異な存在なのかもしれない。

後付けにはなるが、チンボラソ周辺の環境がまるで他の惑星かのようなのも、そのことを踏まえれば納得できる。
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ピークに到達したはいいが、この時少し焦りがあった。
というのも、三叉路以降野宿ができそうな場所を探していたのだが、辺りは暴風を遮る物も道路からの死角もないただの平原が広がり、とてもテントを張れそうな場所がない。
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引き返すこともできず、このまま進むしかないため暴風の中進んだところ、ピークから程なくして遠目に見ても明らかに建物の様な物が見え始めた。
近づいてみると石で造られたゲートがあり、車が何台か止まっている。

どうやらチンボラソを登山するためのベースキャンプ施設のようだ。
受付があり、管理をしている人がいたためダメ元で「一晩だけテントを張らせてもらえない?」と聞くと、快く許可をくれた。
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案内してくれた場所はちょうど風の通り道であり、テントが棒でぶっ叩かれているんじゃないか、という程の轟音の中、夜は更けていき、日没と同じ頃に私も眠りに就いた。
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(Ambato南西40キロ→Ambato南西70キロ)

コメント

  1. 素晴らしい。写真と文

  2. こりゃ凄い!自分の中で君の旅行記(2019年春出版予定)中暫定1位!
    しがらみ(捨てたいけど、捨てれない)がなけりゃ、ここかシンガポール(私の仕事だと無税)に移住したい。

  3. ありがとうございます。
    この4000メートルの世界は恐らく写真と文章では伝えきれないのでは・・・と思っておりましたので、そういって頂けると恐縮です。
    > 素晴らしい。写真と文

  4. ありがとうございます。
    確かに4000メートルの世界は自分自身初めてのことでしたので、興奮しながら記事を更新しました。それでもあの無の世界にいる興奮というのは表現しつくせないものがありましたが・・・。
    ちなみにここで住むのはなかなか難しそうです笑
    > こりゃ凄い!自分の中で君の旅行記(2019年春出版予定)中暫定1位!
    > しがらみ(捨てたいけど、捨てれない)がなけりゃ、ここかシンガポール(私の仕事だと無税)に移住したい。
    >

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