南米のやべーやつ・エクアドル

San Gablier~Ibarra
8/1 (days)
8/1
ホテルの朝食サービスを食べ終えた後、坂だらけの町・San Gablierを出発する。
走り始めてすぐに雪山が頭を覗かせているのが見え、私のテンションは朝から急上昇。
まさか赤道直下の国、エクアドルで雪山が拝めるなどとは思ってもみなかった。
Google Mapを見るに、恐らくエクアドルで三番目に高い山・Volcan Cayambe(カヤンベ火山)だろう。
これが意味することは、同じような景色の中を時間を掛けて進んで行く、ということになる。
風景にしてもその土地の風俗・文化に関しても、飛行機やバス旅行の様に一瞬で何もかも変化していくということはあり得ず、常にゆっくりと変化が行われていく。
いつもならゆっくりと変化していく、半ばマンネリ化した風景の中で、突如として予期せぬ、また異質のものが現れた時に受ける刺激というのは、それはもうとてつもなく大きなものなのである。
こう説明すると、この雪山が如何に私のテンションを急上昇させたか、少しご理解頂けるのではないだろうか。
この日の走行は標高をガンガン下げていくはずなのだが、そうはすんなりと楽をさせてくれないのがアンデス山脈の恐ろしさ。
とんでもないアップダウンを伴って出迎えてくれる。
程なくして下り坂の割合が多くなり、U字を画きながら標高を落としていく。
山を掘削して無理やりに通した道で、岩盤がバウムクーヘンの様に連なった道を、時速70キロにも到達しそうな勢いで下っていく。
下っている最中に崖の下を見やると、山の麓に申し訳ない程度に町が存在している。
ここから一気にその町まで落ちていくようで、ブレーキに常に手を掛けてスピードを抑え、横風にも気を使いながら走る。
下り坂といえば楽なイメージがあるのだが、荷物満載の自転車では時に速度が上がりすぎ、コントロール不能になってしまう危険性がある。
そのため、この時の道の様に1000メートル近く一気に下るような坂の場合はいつも以上に集中する必要があり、精神的には非常に疲れる。
そしてあっという間に谷底へ。
標高は1600メートル台、流石に1000メートルも標高を落とすと世界が一変したかのように暑く、不毛のごつごつした岩山が辺りを囲むようになった。
こちらは先ほど私が下ってきた方角。
緑に囲まれた山脈で、今私が立っている場所とはまるで別世界の様。
ここでも山を豪快に削って道を通しているのだが、トンネルにしようという発想はなかったのだろうか?
更に言えば、エクアドルに掘削用の重機がまだなかった時代、この付近の集落は全く人の目に触れることなく生活が営まれていたのだろうか?
ここから更に標高を100メートル落とし、1500メートル台に落ち着いてからは、大地はゴツゴツと隆起を増した様相を見せる。
個人的な感覚なのだが、緑豊かな森林を走るよりも、こうした灰色のゴツゴツとした岩山の中を走る方が、なんだか「地球の上を走っている」という感覚になる。
もちろん森林の中を走るのも大好きなのだが、緑の中では何故だかそんな感覚にはならない。
しばらく岩山の平地区間を走っていると、反対車線から自転車旅行者が。
スイス出身だそうで、アルゼンチンの最南端の町UshuaiaからコロンビアのCartagenaまで北上するという。
情報交換をした後、今いる場所がちょうど谷底のため「お互いここから上りが大変だね」と励まし合ってお別れする。
事実、彼等と別れた後は道は緩やかに上り曲線を画き始める。
傾斜はきつくなく特に問題なく進んでいたのだが、ある所で急に道が180度ターンし、九十九折のきつい上り坂になった。
この区間は暑いしコバエが常に顔や手足にまとわりつくしで、体力的にかなり厳しい区間だった。
それでもこの区間を上り切った後の風景は痛快だった。
自分が今汗を滝の様に流しながら上ってきた道が確かに一本の筋となり、今私のいる場所まで通じていること。
サトウキビ畑には無数の筋が走り、まるで大きな葉っぱの様な紋様を模していること。
こうした風景が、疲れた心を少しの間癒してくれ、鼓舞してくれる。
この峠を上り切った後は上り坂も一段落し、アメリカのグランドキャニオンやキャニオンランズを思い出すような渓谷沿いを走っていく。
深い渓谷を挟んだ向こう側には、今日の私の目標地点であるIbarraの街が、切り立った崖の上に張り付いている。
そしてIbarraの街には16時到着。
13万人が住む都市で、中心には立派な大聖堂が建っている。
この日は疲れていたため、散歩もほどほどにホテルに帰り、ベッドの上で今日走った道を振り返った。
朝に見た雪山に始まり、豊かな緑の牧草地帯のダウンヒル、不毛の岩山地帯、切り立った崖の峡谷地帯・・・。
私はエクアドルに関する知識は、ガラパゴス諸島を擁する国であるということしか持ち合わせていなかった。
それが、たったの一日でここまで濃度の濃い走行、そしてバリエーションに富んだ風景が見れるとは思ってもいなかった。
「もしかしてエクアドル、南米のやべーやつなんじゃね?」と、今後の走行に期待を膨らませ、眠りに就いた。
(走行ルート:San Gablier→Ibarra)