レオン~強盗多発地帯を駆け抜けろ

León~Costarica国境
5/27~5/29 (372~374days)

5/27

レオンの宿を7時に発ち、まだ暑くならない内に走り始める私と濱さん。
コスタリカを含め、中米諸国は昼間近くになると殺人的な暑さになるため、早い時間帯に距離をできるだけ稼がないと、一日の後半戦が地獄のようなことになる。
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標高100メートル以下のレオンから標高480メートル程まで、じわじわと標高は上がっていく。
道は緩やかなアップダウンの繰り返しで、遥か先まで伸びたハイウェイがジャングルの中に一本の筋を垂らしているのが丘の頂上から見て取れる。
こういう道はすがすがしい気持ちになり、走っていて非常に心地が良い。
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その後も速いペースを保ちながら、道中で休憩を挟みつついいペースで進んでいく我々。

中米の料理自体は美味しくて好きなのだが、バリエーションがあまりにも少ない。
毎日米とフリーホレス(インゲン豆を煮た物)と鶏肉ばかりで、この頃には飽きが来て辟易としていた。
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昼食後に峠を登り切った後は、一気に首都マナグア手前まで駆け下りる。
左手にマナグア湖が広がってるのを尻目に、標高はガンガン下がっていく。
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峠を下りきった先は首都マナグアの郊外で、コンビニやいくつもの広告看板の存在が、ここがもう大都市の一部であることを感じさせる。
ただし、ニカラグアの首都マナグアは治安情勢が中米でも最悪で、その様は正に魔界の如し、という評を数多くのバックパッカーや自転車旅行者達のブログ、そして現地人の言から聞いていた。
そのため、私と濱さんは事前からマナグアを回避することを計画しており、実際に近づいたこの日にも、その計画に変更はなく、回避することとした。

この日はこの時点でもう80キロ超を走っており、かつこの日の私の体調はすこぶる悪く、腹痛と腰痛が同時に来ていた。
そのためこの日はここで一泊し、翌日に改めてマナグア回避ルートを取りたかったのだが、安い宿が見つからず、結局この日の内にもう10キロ先の町まで進むこととした。

我々はマナグア手前から南に折れる1号線に入って南下を開始したのだが、ここからの道が地獄のような辛さだった。

マナグア手前の時点で標高は280メートル程。
そこから道は果てしなく上り続けることになる。300、400、500、600、700メートル・・・。
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私は腰痛と路肩の狭い道路、そして交通量の多さからかなりイライラきていた。
正直な話、私にかなり差をつけて登っていく濱さんにまで、私の逆恨み甚だしいのだがイライラしていた。
自分の体調の悪さから、とにかく自分以外のすべてにイライラしていた。

ただし、ここで「体大丈夫?」だとかの中途半端な優しい言葉を投げかけてこなかった濱さんには、この時心の中で感謝した。
ここまで登ってきてそのような言葉を掛けられても、「いや、ここまで来たら進むしかないじゃないですか」とイライラしながら答えていただろう。
体調は悪いながらも、「負けてたまるか」根性で何とか進むことができた。
(※後日濱さんにこの話をすると、「いや、俺もあそこの坂は他人を気にしている余裕がなかっただけ」との答えが返ってきたというエピソードもあるのだが。)

しかし、それまで溜まっていたイライラが遂に爆発した事件が起こる。
標高800メートル付近の路側帯で一息付き、先に出発した濱さんより出遅れてその場を去ろうとした私。
そこに、3匹の犬が吠えながら、狂ったように追いかけてきた。

追いかけてくる犬の対処方法に関しては、これまでの一年間の旅行で熟知している。
決して、走って逃げてはいけない。
まず初めにやるべきことは、「立ち止まる」ことである。
立ち止まることで、犬も「おっ、何だこいつ逃げないのか?」と止まり、その場で吠えることになる。
そこから30秒ほど睨みを聞かせるか、こちらから犬に向かっていく素振りを見せることで、大体の犬は逃げていく。
これが私の経験に基づく、最適解の犬対処方法である。

しかし、この日のバカ犬共にはそれが通じず、なかなか立ち去ろうとしない。
ここで私の癇癪が爆発し、遂に私の切り札、ベアスプレー(アラスカで購入した熊退治用のスプレー)をお見舞いしてやることにした。
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ベアスプレーは強力な唐辛子成分で構成されたスプレーで、私の物で大体射程5メートルほど、かなりの勢いで噴出される。
その威力は絶大で、熊さえも直撃を食らえば逃げてしまうほどであり、以前にも何度か追いかけてきた犬に向かって使用したことがあるのだが、この日も蜘蛛の子を散らしたように、3匹のバカ犬は走り去っていった。

「はっはっは、バカ野郎どもがよぉ!」

坂道で受けたストレスを、存分に爆発させてすっきりしたところで最後のラストスパートをかけて坂道を登り切る。
犬にスプレーを掛けた場所から5キロ程先、時間にして30分程の、標高900メートルにある頂上の町にたどり着いた。
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この日のゴール地点であるホテルまで残り200メートルもない位置だろうか、さぁ到着だというところで一人の男が道路上に立っており、通過しようとする我々に「止まれ」と指示を出した。どうやら警察のようだ。

何か検問か?と訝しげに止まって話を聞いてみたところ、「お前、犬に対してスプレーを使っただろう。見せろ」と第一声に言われた。
さらに聞いてみると、「お前がスプレーを使ったのを見ていた人間がいて、その直後に子どもが目と腕に痛みを感じた」という。
確かに、警察の傍には母親と父親らしき若い男女と、子どもがバイクに3人乗りして腰かけている。
どうやらバイクで我々より先回りして、警察に通報したらしい。

私がスプレーを使用した路側帯には果物商の露店があり、何人かの客もいた。彼等がその客だったのだろう。
使用した際、露店からは50メートルは離れており、問題ないと思っていたが、どうやら風に乗って風下の彼等のところまで微量ながら流れてしまったらしい。

母親は激しく興奮している様で、眉間に皺を寄せながら警察に何かを捲し立てている。
「取り合えず処理に時間がかかるから、来い」と、私と濱さんはすぐ目の前にあった交番に連行された。
どうやら母親と子どもが今から病院に行くようで、彼女たちが診断書を持って再び交番に戻ってくるまで待たされるようだ。

パスポートの提出を要求され、内容を控えられた後はただひたすらに待つのみだったのだが、私はとにかく不安で一杯だった。
最悪逮捕されるのか?高額な医療請求がされるのか?ニカラグア出国が不利になるのか?等々、いろいろなことが頭を過る。

こういう時の対応は、非常に難しい。
確かに私が悪いのだろうが、ここで謝ってしまうと私が過失を100%認めたことになる。
私個人としては、犬に追いかけられて身に危険を感じたためにとった防衛行為であり、決してわざとではない。
ここで過失を認めれば、母親側の言い分がすべて認められてどういうことになるか分かったものではない。
とにかく下手なことが言えない。

結局1時間半ほど待っただろうか。
母親と子どもが診断書を携えて交番に戻ってきた。
どうなるかなぁ、と母親と警察のやり取りを黙って眺めていたのだが、どうやら警察が「わざとじゃないし、今回はいいじゃん。許してあげてよ」と言ってくれているようだ。
興奮する母親をなだめてくれている。
母親は納得していない様だが、彼女たちは交番を去っていき、我々も警察に見送られて無事に解放された。

どっと疲れた一日だったが、無事にホテルにも到着できた安心感からか、やたらと夕飯がうまく感じた。
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体調の悪さもホテルでゆっくりと眠れたことで回復し、天気もいいことで、すがすがしい気持ちでこの日も出発する。
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前日に苦労をして峠を全て登り切ったことにより、この日はほとんどの道程が下り坂ということになる。
前日は「何故80キロも走って疲れた状態で峠を越えなきゃいかんのだ」と心の中でグチグチ文句を言っていたくせに、そのおかげでこの日は楽できるということで上機嫌になるのだから、我ながら都合の良い性格をしていると思う。

頂上の道はまるで稜線沿いに道が通されたようになっており、開けた丘を見ながら下るのは、爽快以外の何物でもない。
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40kmもの長い距離を下った後は、牧草地の広がる一本道。
路肩がないのにトラック交通量が多く、それに加えてこの日は向かい風がきつい。
両方の風圧で防止が飛ばされそうになるほどだ。
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15時頃、Rivasという町に到着。
この町が、私たちにとって最後のニカラグアでの夜を過ごす町となる。
町は日曜日でフェスティバルの様なものを催していたが、翌日の出国に備えて私はホテルにこもりっぱなしで休息を取った。
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出発する際に、ホテルの女性に「この先のニカラグア湖沿いのハイウェイは危険か?」と尋ねてみた。
回答は、「荷物をたくさん持っているあなたたちだから、十分に気を付けた方がいい」というものが返ってきた。
やはりそういうことなのか、と濱さんと顔を見合わせる。

ニカラグア湖の西部をかすめるように通るハイウェイは、自転車旅行者を狙っている強盗が出たり出なかったり、という情報があったりなかったりしている。
(※私個人では実害にあったサイクリストのブログ等を発見できなかったため、あくまで噂だけの可能性が高い)

実際のところはよくわからないが、念のために聞いてみるか、ということで軽い気持ちで聞いてみたところ上述の回答が返ってきた。
他の地域でもよく「このあたりって危険?」という質問はよくするのだが、大体の地元民は「大丈夫、大丈夫!全然平気さ」という回答が返ってくる。
しかし、地元民が「気を付けろ」という回答は、真にやばいことを表しており、総じて「マジでやばい」ことが多い。

かと言って、ここまで来てしまえば他にとれるコスタリカ入国ルートがないため、そのルートをとらざるを得ない。
十分に気を引き締めて、走ることにし、出発した。
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道は一本道で、左右には並木が植えられたきれいな道であり、その脇には無数の風力発電機が建てられている。
割と立派な道路なのだが、そこまで車通りがないのはやはり緊張感がある。
人がいないところにこそ、強盗というのは待ち受けているものだ。

走ること数時間、左手にはニカラグアで一番大きい湖、ニカラグア湖が見えてきた。
色は茶色で奇麗とは言えないが、対岸が全く見えないほどに大きく、湖というよりかはまるで海のようだ。
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道中に休憩をとった際、レストランの人に「この道はやっぱり危ないの?」ともう一度聞いてみた。
「最近は全く問題ないよ!」という回答が、今回は帰ってきた。
ということはやっぱり昔はやばかったのか、と苦笑いを浮かべて礼を言い、再出発した我々。

その後は結局何もないまま、無事に国境に到着。
イミグレーションオフィスの手前で「ツーリストカードが必要だぞ。俺が書いてやろう、一人100コルドバだ(約370円)。」と言ってくる馬鹿な詐欺師以外は変わったこともなく、コスタリカへと入国することができた。

中米の中では先進国、「中米のカナダ」と呼ばれているコスタリカ。
とにかく、超危険だと言われているエルサルバドル、ホンジュラス、ニカラグアの三国を抜けられ、ホッと一息つくことができた。
中米編も残りわずかだ。
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(走行ルート:León→El Crucero→Rivas→Costarica国境)

コメント

  1. ハラハラしたわ。
    悪いことにならなくて良かった。

  2. いま会社の研修(おっきーがいた埼玉で研修あった)の帰りにブログ読んでる。スプレーの話はハラハラしたわ。けど、何事もなく、無事にコスタリカ入国できてよかったね♪

  3. とうとコスタリカ入国ですか!
    危険地帯抜けられて安心しましたね。
    ベアスプレーって犬にも効くんですか。えらい目にあったんですねぇ(”;)無事にホテル到着ホッとしたでしました?お疲れ様でした💦
    イライラしないで!と言っても無理な話でしょうね…
    でも、これからもイライラしたら自転車にぶつけて漕ぎまくって下さい!!!
    (^-^)v

  4. 文章と写真が素晴らしい。ドキドキします。最高。

  5. スプレーはちょっと迂闊だったかな・・・。まぁ、逮捕されなくて本当に安心した!

  6. スプレーは鼻を持っている生物なら全てに利くはずです。
    成分が簡単に言えば唐辛子なので、もちろん人間にだって効いてしまうのです。
    とにかく無事に通過できたので、一安心でした!

  7. 少しでもドキドキはらはらして頂けると、文章を書く励みになります。ありがとうございます。

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