赤土の大地・ユタ州と日本人の心

Jackson~Salina
9/10~9/17 (113~120days)

人間誰しも一度は何かに憧れを持ち、影響を受け、同じような存在になりたいと思うことがあるのではないだろうか。
戦隊物ヒーロー、コックさん、ケーキ屋さん、ロックスター、映画監督、俳優、美術家etc・・・

僕の場合、20歳の頃に自転車旅行というものと出会い、その面白さに魅了され、すぐに「次は世界を走ったるんや!」と息まいていた。
ただ、そうは言ったもののどういう準備をしたらいいのかも分からないし、海外旅行にも一度も行ったことがないから想像もつかない。
そんな頃に出会ったのが、自転車で7年間をかけて世界一周を達成した石田ゆうすけさん著、「行かずに死ねるか!」を始め、多くの先輩方の自転車旅行記であった。
実際に世界を自転車で走っている日本人がいて、料理であったり風景であったり、はたまたトラブルであったり、各国で経験したことを著書またはネットで公開している。
不安を感じつつも、「自分もできるじゃないか」と大いに勇気付けられ、彼らに対し憧れを抱いた。
社会人になってお金を貯めつつ、諸先輩方のノウハウや経験を参考に準備を進め、足掛け7年、ようやく出発して現在に至っている。
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グランドティトン国立公園を抜けた後、標高は下がったはずだが、朝は冷え込みが厳しく冬の朝の様。
オープンフィンガーのサイクリング手袋では指がちぎれてしまうと感じる程だ。
かと思えば昼間は「まだまだ夏は終わっていないぞ」と言わんばかりに太陽が照り付け、夏と何ら変わりなく暑い。

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南方向、ユタ州にあるブライスキャニオン国立公園を目指し、ペダルを踏み込む毎日。
いくつもの峠、気が狂いそうになる一面の牧草地を越え、9月14日にワイオミング州を離れ、ユタ州へと入る。
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ユタ州に入ってから、今までの州と変わったことがいくつかある。
まずは路面状況と風景。
路面はあまり状態が良くない。路肩が狭かったり、ひび割れが激しかったり・・・
風景は今までの州では見られなかったCanyon(峡谷)やHoodoo(奇石)が増えてき、赤みを帯びている物もある。
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もちろん岩山ばかりでなく、紅葉を帯びた山も見られる。
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時々早めに走行を切り上げ、こうした綺麗な風景の中でテントを張ってのんびりと過ごす。
そして変わったことと言えばもう一つ。
人々の雰囲気や物腰がどことなく柔らかくなったと感じる。
「ヘイ!そんな大荷物でどこへ行くんだい?」と気さくに声を掛けてくれ、「マイヒーロー!写真撮っていい?」と言ってくれる人もいる。
ユタ州はモルモン教徒の人が多いと聞く。そういった影響も大きいのかもしれない。
走行距離は日本、ニュージーランド旅行も含めると1万キロを超えた。
自転車も徐々にダメージを蓄積してきているのかもしれない。
キャリアに関して言えば、カナダで溶接した同じ箇所が断裂したため、Provoという街の自動車工場で溶接してもらった。
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恐らく他のパーツも交換時期に来ているはず。
(今にして思えば、州都ソルトレークシティーに寄って消耗品の交換をしとけばよかったと思います。アリゾナ州の州都フェニックスまで持ってくれればよいのですが。)
9月17日、Nephiという小さな集落を出発。
この日は快晴の中、牧草地の中自転車を走らせる。
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アップダウンを繰り返すが、標高は1500メートル台と高くはない。
ブライスキャニオン国立公園は標高2500メートルと聞いていたため、これから1000メートルも上がっていくのか・・・と考えると今の時点でペダルが重く感じるようになる。
Salinaという小さな集落に17時到着。
先へ進んで野宿場所を探そうか迷ったが、インターステイツ70号線脇のButch Cassidy Campgroundに投宿した。
受付をし、「どこの出身か」と聞かれたので日本だと答えると、受付の女性が「日本人だそうよ、ミチコさん」とすぐ側を通りがかった高齢の女性に声を掛けた。
見た感じ60歳代で、日本から旅行に来られた女性だと思って挨拶をしたが、これは大きな間違いで、キャンプ場を経営している方であった。
ミチコさんはなんと84歳、20年間このキャンプ場を息子さん夫婦と経営されているとのこと。
非常に若々しく、快活な女性である。
自転車で旅行をしていることを告げると、「Tさんという方、知ってる?」とミチコさんは言った。

「えっ」
知っているに決まっている。
Tさんと言えば、10年以上自転車で世界中を今もなお旅行されている日本人だ。
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僕はTさんのホームページを見て、Tさんに憧れ、Tさんと同じく東京都板橋区にあるGIRAFFEという自転車屋さんにオーダーメイドの自転車を作ってもらって旅行に出たのだ。

そのことをミチコさんに伝えると、「少し待ってて」と言い、別室からアルバムといくつかの便箋を持ってき、僕に見せてくれた。
Tさんがキャンプ場オフィスの前で自転車と一緒に写っている写真と、Tさんが世界各国からミチコさんに送った手紙が何通もある。
聞くと、Tさんは10年以上前にこのキャンプ場に一泊し、やはりミチコさんに会ったとのこと。
最後に来たのは南アフリカ、ケープタウンのポストカードに書かれた手紙だという。
「南アフリカといえば、ここから何年も掛かる場所じゃないか・・・」
たった一泊しただけなのに、体力的にも厳しい旅行中だろうに、何年も手紙を送り続けているTさんの心づくしに、僕の心は大きく揺さぶられた。
自分にも同じことができるだろうか・・・
ミチコさんはその後、僕をレストランでのディナーに誘ってくださった。
「遠慮せずに、お腹いっぱいになるまで食べなさい」
とても美味しいメキシコ料理で、小さなこの町のどこにこれだけの人がいたんだというくらい、客席は満席、客待ちもできている。
ミチコさんと料理を食べながら、色んなことを話す。
ミチコさんのアメリカでの話や、僕の旅行や、将来の話・・・
ミチコさんはしきりに「若いうちに、子どもができるまで、好きなことをやりなさい」と言っていた。
また、「私が今やりたいことは、あなた達のような日本人旅行者が、各地で温かく迎えられるよう、日本人のもてなし方でキャンプ場を運営していくこと」と仰っていた。
ミチコさんが若々しい理由を、この言葉から垣間見た気がした。
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翌日9月18日の朝、寒い中ミチコさんに見送られながら出発。
ようやく同じステージに立てたと思っていた憧れの自転車旅行者がまだまだ高い所にいることを実感し、ミチコさんの温かい心に感謝しながら、今日も男一匹、荒野を行く。
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(通過したルート)
Jackson→Thayne→Cockville→Evanston→Rockport State Park→Provo→Nephi→Salina

コメント

  1. 凄いなみちこさん、84歳ですか?
    いつ頃からそこにいるんだろうな~。

  2. 確かそれもお聞きしたはずです。記憶は定かではないのですが、確か50年以上はいらっしゃるはずです。

  3. ユタ州では良い出会いあったんですね!84歳?とは…。凄いなぁー!ミチコさんは素敵に歳を重ねてるんですね。あたしもその位まで生きられるならそんな風に歳とりたいです(^^)v
    同じアメリカでもかなり景色変わりますね。自転車もそろそろメンテがっつりした方が…
    大事な足ですもんね。
    因みに、猪突猛進は健在です(^_^)v(笑)似てると言われて笑っちゃいましたよ!店長のツッコミ、変わってなくて安心しました(笑)

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